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七章 手繰り寄せられた運命

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 翌日の日曜日は、秋晴れの爽やかな青空が広がっていた。窓を開けて空を見上げ、思わず「よかった」と声を漏らしてしまうくらいに。

 昨日大智から恐る恐るお願いされたのは、『明日、この公園に灯希を連れて来てもらえないか』だった。もちろん二つ返事で了承し、登録し合ったメッセージアプリで時間を連絡することにしていた。
 昨日変な時間に昼寝をしてしまい、いつもよりなかなか寝ようとしなかった灯希だが、自分のソワソワした気持ちが伝わったのか、朝はすんなり起きてくれた。
 朝食を取ったあと洗濯をして、干し終えると十時過ぎ。そろそろ大智と約束していた時間だ。

「公園、行こうか」

 傍らでおもちゃを取り出し遊んでいた灯希に話しかけると、公園に反応したのかすくっと立ち上がる。

「先にお片付けだよ」

 笑いながらおもちゃを拾い、「ないない」と声を掛けながら箱に入れる。少し前までキョトンと様子を見ているだけだった灯希だが、保育園でも聴いているだろうお片付けの歌を歌うと、一緒に箱に入れるようになってきた。

(ほんと、子どもの成長って、あっという間……)

 これからは大智にも灯希の成長を見せることができる。そしてそれを一緒に喜び合いたい。今からでも、きっと遅くないはずだ。
 そんなことを思いながら、一生懸命おもちゃを拾う灯希を眺めていた。

 ベビーカーに灯希を乗せて公園に向かう。灯希はご機嫌で座って体を揺らしていた。
 正直なところ少し不安はある。灯希は彼に会ってどんな顔をするんだろうか、すぐに慣れてくれるだろうかと。
 公園が近づくにつれ鼓動が早くなってきた。待ち合わせは昨日と同じベンチ付近だ。約束していたより早めの時間だが、遠くからでもすでにそこに彼が座っているのが見えた。
 自分たちに気付いたのか、彼は立ち上がるとゆっくりこちらに近づいて来た。そして、灯希を乗せたベビーカーと向かい合うように立ち止まった。

「おはよう、由依」
「おはようございます」

 挨拶を交わしたあと、彼は笑みを浮かべたまま腰を落とす。それから、フフッと息を漏らし笑った。

「本当に僕の小さい頃にそっくりだ。初めまして、灯希。君のお父さんだよ」

 ベビーカーの前に回り、灯希を覗き込んでみると、大きな目をパチパチしながらキョトンと彼を見上げていた。

「灯希。パパだよ? パパ」

 自分も笑顔になり呼びかけてみると、不思議そうな顔で灯希は口を動かした。

「たった!」
「たっちゃんじゃないよ、パパ」

 そうは言ったものの、いきなり理解できるわけはない。観察するようにじっと彼を見つめたあと、ぷいと横を向き自分に手を差し出した。

「だっだ! だっだ!」
「はいはい。抱っこね」

 ベビーカーのストラップを外し灯希を抱き上げると、自分たちの様子を眺めていた大智も立ち上がった。

「やっぱり、すぐには慣れてくれないよね」

 彼を見ようとしない灯希を見て、大智は苦笑いを浮かべている。

「すみません。そんなに人見知りするほうではないんですけど……」
「大丈夫。泣かれる覚悟もしてたから、これくらい想定内だよ。美礼からも、焦らず遊びに付き合ってこいって言われているしね」

 そういえば、今日の大智の格好は昨日よりずいぶんカジュアルだ。ライトグレーのスエットシャツにブラックのコットンパンツで足元はスニーカー。場所が公園だし、自分たちに合わせてくれたようだ。

「ありがとうございます。灯希? 遊ぼうか。何しよう?」

 ようやく顔を上げると、灯希は降ろせとばかりに足をバタバタさせている。自分で歩くのが好きな灯希はいつもこうやってアピールする。
 降ろした途端、走り出しそうな勢いの灯希の手をまず掴む。

「手を繋いでね」

 飛び出しを防止する意味でも、こうやって声かけをして手を繋ぐようにしている。それは勤務先の保育園でも同じだ。
 手を繋いだままベビーカーの持ち手に手をかけると、大智が切り出した。

「僕が……手を繋いじゃ駄目かな?」
「ぜひ! 結構凄い力で引っ張ることがあるので、気をつけてください」

 彼は灯希におずおずと手を差し出す。その大きな手のひらに、灯希は迷うことなく自分の小さな手を乗せた。
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