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二章 進んだ先にある夜明け

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 由依は手を持ち上げ、大智の頰に流れる汗を拭うようにそっと触れた。大智は微笑みを浮かべその手に擦り寄った。

「大智さんも……つらい、ですか?」

 正直に言えば、自分自身もかなりつらい状況だ。中に入っているそれは、動きを止めようが痛みを伴い隘路を押し広げ続けているようだった。それにきっとまだ奥には届いていない。これからもっと先まで、この感覚が向かってくるのだ。
 けれど大智もまた、眉を顰めてつらそうな表情をしていた。男性はただ快感だけを拾っているのだと思っていた。だからは由依は尋ねてみたのだ。
 大智はそれを聞いて表情を緩め、少しだけ笑う。

「つらくはないよ。……我慢するのは大変だけど」
「……我慢?」

 キョト、とした瞳を向ける由依に、大智はまた笑う。
 いちおう知識はあるが、経験はない由依には、大智が何を我慢しているのか結びつかないらしい。大智はそれが、由依らしいと言わんばかりの表情を見せていた。

「由依が良すぎて……。一人でくのは、さすがに恥ずかしい」
「…………。えっ?」

 良すぎるなんて言われ、目を丸くしている由依の髪を優しく梳かすと大智は続けた。

「ごめんね。由依はきっと痛いだろうに……」

 申し訳なさそうに謝る大智に首を小さく振ってみせる。

「これくらい、どうってことないです。それに……」

 さっきは気持ち良かったです、と言いかけて、恥ずかしくなり顔を紅潮させながら目を逸らす。それにまた、大智は笑みを浮かべた。
 額に唇が降ってきて押し付けられると、そのままゆったりとした大智の声が響く。

「良かった。僕だけ良くても意味がないしね」

 そんな会話をしているうちに、大智はゆっくりと進んでいたらしい。圧迫感が強くなってくるが、不思議と痛みはさっきほどではなかった。
 お腹の奥に芽生えたピリピリとした電流は体中に散っていく。酸素を求めるように口を大きく開けると、そこからは熱い息と、自分じゃないような淫らな声が漏れた。
 もうこれ以上は挿入らない、感覚的にそう思っていると、大智は動きを止める。瞳を少し開け大智を見ると、艶やかな顔を歪め、色気のある息を吐き由依を見つめていた。

「約束、して……。僕の前から消えないって……」

 どうして急に、そんなことを言いだしたのだろう?

 本当は自分が、大智を巻き込んでしまったことを後悔し始めているのを、見透かされているようでドキリとする。
 この行為に至ったことは後悔していない。こんなに優しさに溢れて思いやりのある大智と過ごしたこの夜を、きっと忘れることはないだろう。
 だからこそ、好意を持ってしまう前に引き下がろう。そのほうが身のためだ、と由依は頭の片隅で思い始めていたところだった。

 けれどそれ以上に、繋がり合い絡み合うその場所から湧き出る感覚に支配されていきそうだった。

「んっ……。大智……さ、ん……」

 無意識に腰を揺らしながら由依は必死で言葉を紡ぐ。大智はそんな由依を愛おしげに見つめ唇を重ねた。押し付けられただけのそれが離れると、大智は目を細めた。

「……何?」

 そう返しながら、また唇が触れる。今度は唇の端に、次は頰にと場所を変えて。
 こんなことをされて、期待してしまいそうな自分を必死で咎める。この状況がそうさせているだけで、自分に好意があるわけじゃない。だからこれ以上望んでは駄目だと。なのに、大智の唇はどこまでも優しく由依に触れていて、揺らいでしまいそうになる。

「…………由依」

 自分を呼ぶ切なげな声と吐息が耳を撫でる。そこから広がった甘い感覚が、ぴったりと密着した場所と共鳴して疼いていた。

『約束はできません』

 心の中で、由依はそう返事をした。
 自分の願いを叶えるために、大智は協力しようとしてくれている。だから消えないで、なんて言ったのかも知れない。本当のところ、大智が何を思っているかなんてわからないけれど。

(でも……。今だけは……)

 愛されているわけなんてない。けれど自分を愛してくれる人が確かにいる。それが勘違いだろうと、今だけはそう思いたかった。
 由依はおずおずと両手を大智の首に回す。それを合図に、緩やかだった動きは少しずつスピードを上げる。

 立場も時間も、自分たちを取り巻く何もかもを忘れて、ただ求め合い、溶け合って、我を忘れた。
 大きな波が襲い、それに飲み込まれる。夢中でしがみつきながら、由依は大智から放たれた欲を受け止めていた。
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