焔の軌跡

文字の大きさ
上 下
61 / 116
在学編

第六十話 2.14 乙女たちの交錯(前編)

しおりを挟む
 あれから月日は流れ、もう2月になっていた。虎牙は俺の言ったことを守ってくれているようで、ほぼ毎日咲に顔を出している。仲のほどは……まあ、前よりかは進歩しているみたいだが、咲からの虎牙への当たりは未だに強い。

 3年は自由登校となり、学校には3年はほとんどいなくなり、俺も前よりかは平穏な日々を取り戻した。そして、今日は2月も中盤、14日である。


―――俺は朝の日課を終え、家で朝食をとると、身支度を整えいつものように学校へ向かった。2月とあり、凍てつくような風が俺の肌に突き刺さる。この時期だけは、自転車での登校は避けたいと常々思う。

 校門付近に着くと、俺は自転車を降り歩いて学校へ向かった。一応学校の中は自転車に乗るのは禁止されているし、みんな学校付近になると自転車を降りているから俺も何となく降りている。それに、時間にも余裕があるし。

 だが、今日はいつもとは違い、登校している女子たちは手に紙袋を持参し、男たちはそれは見てソワソワしていた。理由はわかっていた。

 バレンタインデー

 正直、テレビを見るまでそのことをすっかり忘れていた。興味がない……わけでもないが、今はそれどころではないし、あんまり期待もしていなかった。だが、なぜか毎年2つはチョコを貰う。

 1人はお母さん。来年はいらないと毎年いっているんだが、毎年貰う。手作りでないのが、せめてもの救いだ。

 2人目は……誰だかわからない。毎年、机の中とか下駄箱の中に一言二言の手紙を添えて入っているんだが、肝心の名前はわからない。でも、筆跡から毎年くれるのは同一人物だということはわかったんだが……

 今年も入ってるんだろうか、そんなことをぼんやりと思いながら校門へと近づいていく焔。近づくにつれ、焔はちょっとした異変に気付く。

 やけにざわついてるな。何かしらのイベントでも起こってんのかな? 

 生徒たちが校門付近で何かを見てざわざわしている。焔も気になり、懸命に背伸びをし何があるのか確認する。すると、一人の女性が校門前で立っているのがわかった。

 誰だ? 先生じゃないよな? 

 考えを巡らせながら、近づいていく焔。そして、その女性をはっきりと確認できる距離まで近づいた時、思わず焔は声を漏らしてしまった。

「え? マジで?」

 その瞬間、女性と目が合ってしまった。その女性は笑顔になり、

「焔ー!! 久しぶりー!!」

 そう言って、元気に手を振る。焔が反応するよりも前にその場にいた全員の視線が一気に焔に集まる。年上のきれいな女性が無邪気に手を振る姿……男子たちは殺意ダダ洩れでいつ焔に襲い掛かるか分からないような状態になっていた。

 やばい。俺……死ぬかも。ここは穏便に対応すれば……

「ま、摩利さん……ご、ご無沙汰しております」

 摩利。俺と会長が遊園地に行ったとき、なんやかんやで知り合った人である。(第58話、59話)

 頼むから摩利さん、もう油を注がないでくれよ。

「えー、何その他人行儀みたいな口調? 私たちもうそんな関係じゃないじゃん……ね、焔?」

 はい、揚がったー。カラッと揚がっちゃったよ。何で、そんな恥ずかしそうな顔で言うの!? あんたそんなキャラだったっけ? 完全にここにいる皆誤解したよ。もういい。早く用件済ませて帰ってもらおう。

「で、なんでわざわざこんなところに来たんですか?」

「あ、そうだったそうだった」

 そう言って、摩利はバッグの中から丁寧にラッピングされたハート形の箱を焔に渡す。

「あ、あのーこれは?」

 引きつる顔の焔に摩利は満面の笑みで、

「手作りチョコよ」

「あ、そうですか」

 終わった。

「何? 反応薄くない? お姉さんが愛情込めて作ったんだからもっと嬉しそうにしたら?」

「い、いや嬉しいですけど……何でわざわざ俺に?」

「んー……助けてくれたお礼ってこともあるんだけどー」

 そう言って、摩利は少し恥ずかしそうに笑うと、

「私が今一番惚れている男だからかな」

 言い終わると同時に、焔のおでこを人差し指でツンとつつく。焔はもう放心状態だった。

「それじゃあ、後で感想教えてね。バイバーイ」

 そうして、嵐は去り一時の静寂が訪れる。焔はゆっくりとチョコをカバンの中にしまうと、自転車にまたがる。

 学校の中は自転車禁止? 命にかかわる場合は別に良いよね? 良いよね?

 焔は全力でペダルをこぎ出した。それと同時にその場にいた男子たちは、

「やつを血祭りにあげろー!!」

「おおおおお!!」

 物凄い勢いで追いかけだした。

 どうしてこんなことになるんだよー!!

 学校内はプチお祭り状態となり、挙句の果てには体育教師すら敵に回ってしまった。

「生徒の分際で、あんな年上の女性とどうやって知り合いになったんだー!! 教えろー!!」

「あんたは何なんだよ!!」

 摩利さん。早くいい男見つけてくれー!! 

 焔の逃走劇はHRが始まるまで続いた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

女体化入浴剤

シソ
ファンタジー
康太は大学の帰りにドラッグストアに寄って、女体化入浴剤というものを見つけた。使ってみると最初は変化はなかったが…

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

処理中です...