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在学編
第五十六話 どう切り崩す?
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焔と咲は後部座席に座った。咲が着替え終わると、早速運転している男に話しかけた。
「そういや、お前名前何て言うんだ?」
「俺は大宮公喜って言います」
「大宮公喜ね……おい公喜、ここからその工場まではどれくらいかかる?」
「そうですねー……20分ぐらいですかね」
「そうか……そんじゃ、その間にお前の持っている情報全部聞かせてもらうぞ」
「はい!!」
それから快く公喜は自分が知っていることを話してくれた。
香奈が少年院から出てきたのは1週間前だった。香奈は咲が今まで通り、いや前よりも充実した学校生活を過ごしていることを聞くとめちゃめちゃ激怒し、今回の計画を考えたらしい。当時、彼氏だった虎牙にこの旨を伝えると、色々と今回のように根回してくれたようだ。
虎牙は3年間ずっとこの地域の頭らしい。突然あらわるや否や、圧倒的強さで一気に上まで上り詰めた。年は18歳で、俺と1つしか変わらない。
「なるほどな。虎牙は昔何かやってたのか?」
「たぶん……空手をやってたと思うんすけど、虎牙さんに昔話は禁句なんですよ。めっちゃ怒るんで」
「なるほど……虎牙のフルネームは?」
「堂林虎牙です」
「AI、頼む」
名前を聞くや否や、焔は小さくAIに指示をする。少しの沈黙ののち、
「でました。堂林虎牙、小学2年から空手を始め、中学3年の途中、性的暴行を起こしてしまい、空手をやめてしまったようです。天才ではありませんでしたが、努力と分析を重ね、中学3年になる頃には天才空手家と言われている木島鉄平と肩を並べるほどの成長を見せました」
AIの話を聞き、より一層悩みだす焔。
マジかよ。滅茶苦茶に強いな。しかし妙だな。これほどまでに努力してきたやつがこんな事件を起こすかね。ま、今回も同じようなこと起こしてるし、変ではないか。
「情報はそれだけか?」
「残念ながら」
「……わかった。ありがとう」
情報はもう十分だ。問題はどう戦うかだ。もう3年は経ったとはいえ、相当な実力者だった空手家と約30人の部下たち……多人数戦闘はまだやったことがない。さて、どう切り崩すか……
黙り込んでしまい、何かを考えている焔に少し不安そうな眼差しを咲は送る。
「焔……」
そう呟く咲の顔から何を言わんとしているかを察した焔は笑顔で、
「大丈夫だ。俺はあんたのお父さんを倒したんだぜ? そう簡単に負けない」
「……うん!! そうだね」
そう言った咲だったが、いまだ胸の中の不安は払拭されはしなかった。そうこうしているうちに、目的地に到着した。工場の入り口のところに静かに車止める。
「焔さん、着きましたよ」
「サンキュ。お前はこのまま咲とここにいろ」
「わかりました」
そう言って、車から出ようとする焔に咲は服を引っ張り、呼び止める。
「焔……」
心配そうな咲の声に焔は振り返ることなく、
「最後に咲の喝くれねえか? そんな心配そうな声じゃ締まらねえや」
「……うん!!」
元気な返事とともに、焔の背中に2つの強い衝撃が走る。
「行け焔!! 虎牙なんてぶったおせ!!」
「よっしゃ!!」
勢いよく車のドアを開け、出て行く焔だったが、ふと何かに気づき、運転席の窓を2回ほどノックする。それに気づいた公喜は窓を開け、焔に声をかける。
「どうしたんすか焔さん?」
「いや、ちょっと忘れ物しちゃってさ」
「え? 何忘れたんすか?」
「ちょっと顔出してくれる?」
「え? はあ」
訳が分からぬまま顔を出す公喜だったが、その瞬間、額にものすごい衝撃が走る。
「痛ってえええええ!!」
「よし、これでもう咲のことを襲おうとしたことはチャラにしてやるよ」
そう言って、離れていく焔だったが、いまだ額を抑え、唸り声を上げる公喜に少し緊張が解けたように笑いだす咲。そして、離れ行く焔をしっかりと見届けた。
(頑張って焔!!)
―――「遅いな。もう着いてもいい頃だろーに」
「何かあったのか?」
「もしかしてサツに捕まったとか?」
工場内が少し騒めきだしたが、
「ごちゃごちゃうるせーぞお前ら。それとも何だ? 俺が立てた計画に何か文句でもあんのか?」
奥のソファに深々と座る男の威圧的な口調にその場の空気が凍り付く。
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか」
「そうですよ。虎牙さんの計画が失敗するわけないじゃないですか」
そうやって媚を売るやつらにいささか呆れたようにため息をつく虎牙。
「あー待ちきれないわ。早くあの女の哀れな姿が見たいわ」
横に座っている女が不気味な笑みを浮かべて言った。
「まあ、そう焦るなよ香奈。次期に拝めるさ」
それを合図かのように、重々しい扉は不気味な音を立てながらゆっくりと開く。誰もがやっと来たかと注目したが、そこには全く予想もしているないような人物が立っていた。
「すんません、パーティー会場はここって聞いてきたんですけど……あってますか?」
余裕な笑みを浮かべ、焔は工場の中へと1人足を踏み入れた。
「誰だてめー?」
「パーティーだ?」
すかさず、下っ端どもは焔に向かって詰め寄るが、
「まあ待てお前ら」
虎牙は仲間たちを制止し、座ったまま焔に向かって話し出す。
「お前……何しにここに来た?」
なるほど。こいつが虎牙か……てことは隣に座っているやつが香奈ってことね。
「決まってるだろ。お前たちをやっつけに来たんだよ」
その言葉を聞くと、工場内は一斉に大爆笑の渦に包まれた。そして、嘲り笑うような声と馬鹿にするような口調に焔からは笑顔が消えていった。
笑い声がまばらになってきたところで、虎牙が口を開く。
「ヒーローの登場ってか? バカバカしい。あの女助けて、そのまま帰ればよかったものを……自分のこと過信しすぎじゃねえの? 力があるって勘違いしちゃったか? ああ?」
焔は黙ったままだった。何の反応もない焔に詰まらないと思ったのかため息一つした後、
「まあいいや……決めた。お前をぼっこぼこにした後、その目の前であの女を犯してやる。大丈夫、お前もちゃんとヤラしてやるから。俺たち全員がたっぷり満足した後にさ」
そこで再び笑いが起こる。それでも焔はうつむいたままだった。そんな焔に早速1人の男が近づいてくる。
「悪いがねんねの時間だ。俺たちゃやりたくてやりたくてうずうずしてたからな。死ね!!」
そう言って、勢いよく鉄パイプを振り下ろす男だったが、
カーン!!
「え?」
なぜか、男は訳が分からぬまま倒れ、手に持っていたはずの鉄パイプが焔の手に握られていた。
周りは何が起こったのか理解できていなかったが、虎牙だけは、
(あいつ……殴られる瞬間に鉄パイプを奪い、逆に鉄パイプで頭を殴り返しただと!?)
そんなことを頭の中で処理していると、焔の動きに異変があった。
焔は鉄パイプを槍に見立て、助走なしでそのまま虎牙の元へ投げ込んだ。鉄パイプは一直線に虎牙に向かって行き、虎牙と香奈の顔の真横でソファに突き刺さり、止まった。
香奈は大声を上げ、ソファから落ちる。一方、虎牙は一筋の汗を流し、苦笑いを浮かべていた。
「おい」
虎牙の方に注目していた仲間たちは焔の急な発声に驚き、恐る恐る顔を向ける。
「お前らガチで来いよ。でないと……死ぬぞ」
『死』
この言葉はいつも日常的に自分たちが使っているものだった。だが、焔から聞こえてきた言葉はその重みが、現実味が全くの別物で、その場にいた全員に初めて『死』を実感させた。
恐怖でただただその場で凍り付くことしかできなかった不良たちに、虎牙は苦笑いを浮かべながら全員に、
「おいお前ら……殺しに行く覚悟で行けよ。でないと……本当に食われるぞ」
虎牙は認めた。焔はヤバいと。その言葉で仲間たちはやっと動き出すことができた。そして、焔を取り囲むと、恐る恐る詰め寄った。だが、殺気をダダ洩れにしている焔に中々飛び出すことが出来なかった。
しばらくの膠着状態が続いた中、意を決した1人が飛び出し、戦いの幕が開けた。
「そういや、お前名前何て言うんだ?」
「俺は大宮公喜って言います」
「大宮公喜ね……おい公喜、ここからその工場まではどれくらいかかる?」
「そうですねー……20分ぐらいですかね」
「そうか……そんじゃ、その間にお前の持っている情報全部聞かせてもらうぞ」
「はい!!」
それから快く公喜は自分が知っていることを話してくれた。
香奈が少年院から出てきたのは1週間前だった。香奈は咲が今まで通り、いや前よりも充実した学校生活を過ごしていることを聞くとめちゃめちゃ激怒し、今回の計画を考えたらしい。当時、彼氏だった虎牙にこの旨を伝えると、色々と今回のように根回してくれたようだ。
虎牙は3年間ずっとこの地域の頭らしい。突然あらわるや否や、圧倒的強さで一気に上まで上り詰めた。年は18歳で、俺と1つしか変わらない。
「なるほどな。虎牙は昔何かやってたのか?」
「たぶん……空手をやってたと思うんすけど、虎牙さんに昔話は禁句なんですよ。めっちゃ怒るんで」
「なるほど……虎牙のフルネームは?」
「堂林虎牙です」
「AI、頼む」
名前を聞くや否や、焔は小さくAIに指示をする。少しの沈黙ののち、
「でました。堂林虎牙、小学2年から空手を始め、中学3年の途中、性的暴行を起こしてしまい、空手をやめてしまったようです。天才ではありませんでしたが、努力と分析を重ね、中学3年になる頃には天才空手家と言われている木島鉄平と肩を並べるほどの成長を見せました」
AIの話を聞き、より一層悩みだす焔。
マジかよ。滅茶苦茶に強いな。しかし妙だな。これほどまでに努力してきたやつがこんな事件を起こすかね。ま、今回も同じようなこと起こしてるし、変ではないか。
「情報はそれだけか?」
「残念ながら」
「……わかった。ありがとう」
情報はもう十分だ。問題はどう戦うかだ。もう3年は経ったとはいえ、相当な実力者だった空手家と約30人の部下たち……多人数戦闘はまだやったことがない。さて、どう切り崩すか……
黙り込んでしまい、何かを考えている焔に少し不安そうな眼差しを咲は送る。
「焔……」
そう呟く咲の顔から何を言わんとしているかを察した焔は笑顔で、
「大丈夫だ。俺はあんたのお父さんを倒したんだぜ? そう簡単に負けない」
「……うん!! そうだね」
そう言った咲だったが、いまだ胸の中の不安は払拭されはしなかった。そうこうしているうちに、目的地に到着した。工場の入り口のところに静かに車止める。
「焔さん、着きましたよ」
「サンキュ。お前はこのまま咲とここにいろ」
「わかりました」
そう言って、車から出ようとする焔に咲は服を引っ張り、呼び止める。
「焔……」
心配そうな咲の声に焔は振り返ることなく、
「最後に咲の喝くれねえか? そんな心配そうな声じゃ締まらねえや」
「……うん!!」
元気な返事とともに、焔の背中に2つの強い衝撃が走る。
「行け焔!! 虎牙なんてぶったおせ!!」
「よっしゃ!!」
勢いよく車のドアを開け、出て行く焔だったが、ふと何かに気づき、運転席の窓を2回ほどノックする。それに気づいた公喜は窓を開け、焔に声をかける。
「どうしたんすか焔さん?」
「いや、ちょっと忘れ物しちゃってさ」
「え? 何忘れたんすか?」
「ちょっと顔出してくれる?」
「え? はあ」
訳が分からぬまま顔を出す公喜だったが、その瞬間、額にものすごい衝撃が走る。
「痛ってえええええ!!」
「よし、これでもう咲のことを襲おうとしたことはチャラにしてやるよ」
そう言って、離れていく焔だったが、いまだ額を抑え、唸り声を上げる公喜に少し緊張が解けたように笑いだす咲。そして、離れ行く焔をしっかりと見届けた。
(頑張って焔!!)
―――「遅いな。もう着いてもいい頃だろーに」
「何かあったのか?」
「もしかしてサツに捕まったとか?」
工場内が少し騒めきだしたが、
「ごちゃごちゃうるせーぞお前ら。それとも何だ? 俺が立てた計画に何か文句でもあんのか?」
奥のソファに深々と座る男の威圧的な口調にその場の空気が凍り付く。
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか」
「そうですよ。虎牙さんの計画が失敗するわけないじゃないですか」
そうやって媚を売るやつらにいささか呆れたようにため息をつく虎牙。
「あー待ちきれないわ。早くあの女の哀れな姿が見たいわ」
横に座っている女が不気味な笑みを浮かべて言った。
「まあ、そう焦るなよ香奈。次期に拝めるさ」
それを合図かのように、重々しい扉は不気味な音を立てながらゆっくりと開く。誰もがやっと来たかと注目したが、そこには全く予想もしているないような人物が立っていた。
「すんません、パーティー会場はここって聞いてきたんですけど……あってますか?」
余裕な笑みを浮かべ、焔は工場の中へと1人足を踏み入れた。
「誰だてめー?」
「パーティーだ?」
すかさず、下っ端どもは焔に向かって詰め寄るが、
「まあ待てお前ら」
虎牙は仲間たちを制止し、座ったまま焔に向かって話し出す。
「お前……何しにここに来た?」
なるほど。こいつが虎牙か……てことは隣に座っているやつが香奈ってことね。
「決まってるだろ。お前たちをやっつけに来たんだよ」
その言葉を聞くと、工場内は一斉に大爆笑の渦に包まれた。そして、嘲り笑うような声と馬鹿にするような口調に焔からは笑顔が消えていった。
笑い声がまばらになってきたところで、虎牙が口を開く。
「ヒーローの登場ってか? バカバカしい。あの女助けて、そのまま帰ればよかったものを……自分のこと過信しすぎじゃねえの? 力があるって勘違いしちゃったか? ああ?」
焔は黙ったままだった。何の反応もない焔に詰まらないと思ったのかため息一つした後、
「まあいいや……決めた。お前をぼっこぼこにした後、その目の前であの女を犯してやる。大丈夫、お前もちゃんとヤラしてやるから。俺たち全員がたっぷり満足した後にさ」
そこで再び笑いが起こる。それでも焔はうつむいたままだった。そんな焔に早速1人の男が近づいてくる。
「悪いがねんねの時間だ。俺たちゃやりたくてやりたくてうずうずしてたからな。死ね!!」
そう言って、勢いよく鉄パイプを振り下ろす男だったが、
カーン!!
「え?」
なぜか、男は訳が分からぬまま倒れ、手に持っていたはずの鉄パイプが焔の手に握られていた。
周りは何が起こったのか理解できていなかったが、虎牙だけは、
(あいつ……殴られる瞬間に鉄パイプを奪い、逆に鉄パイプで頭を殴り返しただと!?)
そんなことを頭の中で処理していると、焔の動きに異変があった。
焔は鉄パイプを槍に見立て、助走なしでそのまま虎牙の元へ投げ込んだ。鉄パイプは一直線に虎牙に向かって行き、虎牙と香奈の顔の真横でソファに突き刺さり、止まった。
香奈は大声を上げ、ソファから落ちる。一方、虎牙は一筋の汗を流し、苦笑いを浮かべていた。
「おい」
虎牙の方に注目していた仲間たちは焔の急な発声に驚き、恐る恐る顔を向ける。
「お前らガチで来いよ。でないと……死ぬぞ」
『死』
この言葉はいつも日常的に自分たちが使っているものだった。だが、焔から聞こえてきた言葉はその重みが、現実味が全くの別物で、その場にいた全員に初めて『死』を実感させた。
恐怖でただただその場で凍り付くことしかできなかった不良たちに、虎牙は苦笑いを浮かべながら全員に、
「おいお前ら……殺しに行く覚悟で行けよ。でないと……本当に食われるぞ」
虎牙は認めた。焔はヤバいと。その言葉で仲間たちはやっと動き出すことができた。そして、焔を取り囲むと、恐る恐る詰め寄った。だが、殺気をダダ洩れにしている焔に中々飛び出すことが出来なかった。
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