焔の軌跡

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在学編

第四十七話 後夜祭

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 会長が企画したイベントは大成功に終わった。会長のしたり顔が目に浮かぶな。気が付くとシンさんは姿を消していた。流石は忍者といったところか。

 その後、文化祭も大盛況のうちに幕を閉じた。そして、我が校初の後夜祭なるものが催された。後夜祭は生徒のみで行われた。グラウンドには全生徒が集まり、消費しきれなかった食べ物が並べられた机に群がり、いささか2次会のような感じになった。グラウンドの一角では特設会場が設けられ、色々な催し物が開かれた。

 ダンス部によるダンス発表、軽音部、有志のバンドによるライブ、コント、のど自慢大会などが開かれた。ファッションショーには綾香や会長が出ていた。会長なんかはゴスロリファッションだったが、不思議と似合っていた。会場の男どもには変な火がついてしまったようにも思えるが……

 綾香は着物を着ていた。シンプルな色の生地に華やかな花がたくさん咲いていた。和傘片手に堂々と歩く姿はまさに王者の風格だった。流石は学年1の美女だと言われるだけはある。だが、おそらくこれは事実なんだろう。

 その後、俺を見つけた綾香は微笑みながら手を振った。正直、これはまずかった。嫉妬と怒りに狂った男どもに滅茶苦茶追いかけられ、再び鬼ごっこをする羽目になった。今度は逃げる役として。その中にはなぜか着ぐるみを着たやつもいたが……派手にこけてたな。

 他にもその場の勢いだけで開催されたものもあった。大食い大会では龍二が優勝していた。あれだけ食ってたのによく胃袋に入るよな。太るわけだ。早食い大会にも出ていたが……結果は言うまでもないか。

 段々と空も暗くなり始め、キャンプファイヤーの準備も佳境に入ったところで、副会長が息を切らしながら俺の元へ駆け寄ってきた。

「焔さーん!! か、会長見ませんでしたか!?」

「会長か? 俺は見てないな。どっか行ったのか?」

「いえ、そろそろキャンプファイヤーが始まりそうなので、会長と打ち合わせをしとこうと思ったんですけど、連絡がつかないんですよ」

「なるほどな」

 あの会長のことだ。こういうことをおろそかにする人とも思えない。というと、連絡がつけられないような状態になっているということか。

 焔が考えを巡らせている中、副会長は再び探しに行くと走って行った。


 さてさて、副会長のあの様子からこのグラウンドや学校の中とかはあらかた探したんだろうな。てことは学校の外か、普段は探さないような場所……か。面倒ごとには巻き込まれてないといいんだけどな。


 焔はグラウンドから静かに姿を消した。


 ガラガラ


 重い引き戸を開き、雑に置かれた用具を避け、奥に行くとそこには1人の少女が窓から射す月明かりに照らされ眠っていた。ちなみに、その少女はゴスロリファッションだった。

 穏やかな寝息を聞き、焔は安心したように笑う。


 眠っているようだな。無理もない。生徒会と言っても、会長と副会長しかいないんだからな。誰も他の役職をやりたがらないなら私1人で全てこなしてやる、なんて息巻いていたが……さすがに疲れるわな。副会長がいるといってもあいつは1年だからな。

 だけど、まあ絵になるな、この構図は。黙ってりゃただの美少女なんだけどな……さて、そろそろ起こすか。風邪でも引いたら大変だからな。

 焔は壁にもたれかかり眠っている会長の元へ歩いていき、腰を屈めて会長の肩をゆする。

「会長、こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ」

 数回ゆするとゆっくりと会長は目を開く。

「んー? 焔か? ハアー……寝ちゃってたか。もうそろそろキャンプファイヤーの時間だな。行かないと」

 そう言って、立ち上がる会長だったが、疲れがたまっていたせいか、振らつき体勢を崩す。

「おっと。大丈夫ですか会長?」

 すかさず会長のことを支える焔。

「大丈夫……と言いたいところだが、ちょっとばかし疲れたな。保健室でちょっとだけ休ませてもらおうかな」

「それがいいと思いますよ。歩けますか?」

「ああ、歩け―――」

 ここまで言葉を発したところで急に口を閉じ、考え込むしぐさを見せる。数秒、時間を置いたところで、悪そうな笑顔で続きを言う。

「いや、歩けん!! だから運んでけ焔!!」

 いや、そんな元気そうな表情で言われても……ま、いいや。

「そんじゃ、おぶりましょうか?」

「いや……お姫様抱っこだ!!」

「えー」

「あー!? 会長の頼みを聞けんのか!? あー!?」

「はあ……わかりましたっ!!」

 言い終わるや否や、焔は勢いよく会長のことを持ち上げる。会長も急のことでビックリしたのか、かわいらしい声を上げる。声を聞かれたと思い、少し恥ずかしそうな顔をするが、焔はまったくそのことを気にすることなく、倉庫から出て保健室に向かって行く。

「重くないか?」

「全然。会長小っちゃいですしね」

「お前には言われたくないな」

「そうですか」

 その後、会長は焔の顔を凝視する。

(こいつ……案外いい顔してるよな。柄にもなく、お姫様抱っこ何か頼んじゃったけど良かったのかな? 借り人競争の子には悪いけど……今日ぐらいはいいよな。うん、今日だけだ……)

 保健室の中に入るが、そこには先生の姿はなかった。

「先生……いないか。ま、流石にもう誰も来ないと思ったんだろうな」

 焔はベッドのそばまで行くと、ゆっくりと会長を下ろした。

「よっこいしょ。そんじゃ、ゆっくり休んでください。俺はお役御免ってことで。じゃ」

 保健室から出ようとする焔だったが、カッターシャツの袖を引っ張られ、足止めを食らう。

「……まだ何かようですか会長?」

「……い、いや。あ、あのだな」

 会長の顔は見る見るうちに赤くなっていく。

(な、何で焔が出て行くのを引き留めたんだ私は!? 熱い……体が熱い。鼓動がドンドン速くなる。も、もしかして……これは……)

「ほ、焔……あ、あのな……私は……お前のことを―――」

 ガラガラ!! バン!!

 会長の言葉を遮るように保健室の扉は勢いよく開かれた。扉の前には半泣きの副会長がいた。

「会長ー!! 無事なんですか!? けがはないですか!?」

「な、何でここが分かったんだ副会長!?」

「焔さんから会長を保健室に連れて行ったって連絡があったんで、僕とっても心配したんですよ」

「あ、ああ、そうだったのか(な、なんだろう。こいつが来てくれてちょっとホッとしている自分がいるのは)」

「で、さっき何て言おうとしてたんだ会長?」

「え!? い、いや……あれだ!! 私はお前のことを頼りにしてるってことだ。ハハハハ!!」

(あれ? 私の言いたかったことってこんなことだっけ? もう正直覚えてないや)

「そうですか。そりゃ光栄ですね。じゃ、会長のこと任せるわ」

 そう言って、副会長の肩に手を置く。

「はい!!」

「そんじゃ……」

 別れの言葉を告げようとする焔に少し寂しそうな表情を浮かべる会長だったが次の焔の行動に、そんな考えは一切吹き飛んでしまう。

 焔は会長の頭に手を伸ばし2回ほど頭をポンポンと手を置いた。

「お疲れさまでした。楽しかったぜ会長」

 そう言うと、焔は保健室から姿を消した。焔が出て行ったのを確認すると、副会長は会長に話しかける。

「何か飲みますか会長……会長?」

 会長は固まっていて、副会長の声は全然入ってこなかった。

「だ、大丈夫ですか!? 会長!!」

 ようやく副会長の声に反応する会長だったが、正気に戻りさっきのことを思い出してしまい、顔が段々と赤くなっていく。

「え!? どうしたんですか会長!? 顔赤いですよ!? 熱でもあるんですか?」

「な、何でもない!!」

 そう言って、顔を背け布団の中にくるまってしまった。

(あーあ、さっきのやつで思い出しちゃった……私が何を焔に言おうとしていたのか)

 その後、会長はずーっと黙ったままだったという。

 焔は保健室から出ると、すぐにグラウンドに向かった。


 頭ポンポンなんて何でしたんだろ? 文化祭のせいだろうか。内心はしゃいでるんだな、俺も。


 グラウンドの方向に歩いていくと大きな灯りが目に映った。グラウンドに戻ると、真ん中では大きな炎が上がっていた。


 もう始まっていたのか。しかし、でかいな。初めて見たからだろうか。


「ここにいたか焔。探したぜ」

 声の方に目を向けると龍二と綾香と絹子がいた。

「何してたの焔君?」

「そうだよ。けっこう探したんだよ」

「ああ、ちょっとした探しもんだよ。すぐに見つかったんだけど、届けるのにちょっと手間取っちまったがな」

「ふーん。ねえ、もうちょっと真ん中の方に行こうよ」

「……そうだな」

 俺たちは炎の方に近づいていった。周辺には炎に近づきすぎて、先生に怒られるもの、ただただボーっと見ているもの。寄り添いながらいい雰囲気になっているものなど、色々な方法で各々楽しんでいた。

 俺たちもただただボーっと燃え盛る炎の見ていた。まあ、ちょくちょくしゃべってはいたけど。そんな中、炎を見ていると少し自分の名前のことが頭によぎった。

 俺の名前……焔って言うのはほぼ炎っていう意味と同義なんだよな。

 そんなことを考えているとふと昔のことを思い出した。

 俺が4,5歳の頃の記憶だ。

 このことはよく覚えている。

 自分の名前についてお母さんに聞いた時の記憶だ。

 
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