ボッチ時空を越えて

東城

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スマホの充電器

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 将太先生に充電を頼んだはいいが、いつまでたってもスマホは戻ってこなかった。
 もう三月だよ。

 東大工学部の頭脳を駆使しても充電できなかった場合の対策を考えてみた。

 1、未来人のマッチョオジサンの欲しがっている「癒やしの石」という鉱物を見つける。そうすれば、きっと未来から迎えが来るだろう。

 2、ケータイというものが販売される平成X年までバイトしながら生き延びる。技術が進化して、充電できる時代がくるまで待つ。

 3、福岡にいる若き日の両親に会いに行って、事情を説明し家族として住まわせてもらう。

 どうにかなるさと楽観的に物事を考えられるようになっていた。推しのパワー君のそばにいれるのも幸せだし、ゲイバーも楽しいし、このままずっと昭和の世界で暮らしてもいいかも。

 癒やしの石探しするにしてもお金はいる。予言本でも出版して大儲けしようかとも考えたけど、未来を変えてしまったらもっと大変なことになりそうな予感がした。

 バブル崩壊や地震やこれから起きることをこの時代の人に教えていいのだろうか。教えたところで僕にはこれからのことを止める力はないし、不安を煽るだけだ。

 未来人のマッチョオジサンが欲しがっている癒やしの石は、どこにあるのかも分からないし、何の情報もない。この時代で、のらりくらりと生きていれば棚ぼた式に見つかるものなのだろうか。

 癒やしの石を探す努力もせず、家事して、ゲイバーで店子して、日々が過ぎていった。


 ホワイト・デー用のクッキーを五百枚用意した。手作りは、さすが手間がかかるので結局スーパーで買ったお徳用クッキーになっちゃったけどね。ラッピングは気合を入れて、ピンクのリボンと金色の袋でマダム御用達店で買ったような高級感を出した。

 「ファンに配ってね」紙袋一杯のクッキーをパワー君に渡した。
 「うん、ファンは大切にしないとな」パワー君の笑顔は癒やされるなあ。尊い。

 
 三月中旬のライブの日は、ゲイバーで大きなイベントがあって残念ながら行けなかった。
 
 そうしているうちに四月になり、うららかな小春日和な午後だった。窓から見える空は黄砂で少し霞がかかっている。

「ほっかほかーの焼き芋おいしいお芋はいらんかねー♪」
 焼き芋の巡回バン販売の音楽が聞こえてきた。レトロだわー。昭和って、のんびりして活気があっていい時代だわー。

 テレビを見ているとジュエルの宝箱というアイスクリームのCMが流れている。そういえば僕は宇宙の鉱石を探すミッションがあったんだよな。

 未来人のマッチョオジサンが言ってた癒やしの石のことなんてすっかり忘れていたよ。どこにあるのか知らないし、西暦三千年の人々の運命を僕が救うなんて嘘クサ。また他の人に頼めばいい問題だし。

 外からカーカー鳴き声が聞こえる。ガラガラと引き戸を開けてベランダに出るとピーコがいた。猫に襲われて怪我したピーコを繁華街で助けたら懐いて、治癒した後も毎日のように来る。
 
 「ほらよ」
 食パンを台所から取ってきて、一切れやる。
 「カーカー」甲高く鳴いてお礼を言ってるようだ。
  
 キラキラした石がピーコの足元に転がっていた。カラスは光るものを収集する習性があるとどこかで聞いたことがある。
 
 「それもらってもいい?」
 石をそっと拾った。六角形のピンクの鉱石 ── 癒やしの石だ。
 「ふう……」ため息をついて遠い目をした。

 充電されたスマホがあれば令和に戻れるんだ。ってことは、パワー君ともお別れなんだ。

 パワー君、彼女いないらしいけどきっとノンケだろうし、僕がホモだって知ったらもうここには置いてくれないと思う。

 昭和の時代だもの、LGBTへの理解もないと思うんだ。ゲイバー勤務のことは隠して、スナックで働いてるって嘘ついてる。

 もっとこの時代にいて楽しい毎日送りたいけども、そういうわけにもいかないだろう。もうそろそろ令和に帰らないと、リアル浦島太郎になっちゃうよ。
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