ボッチ時空を越えて

東城

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アラサー

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「これもってけよ」
 コンビニ・スイーツだの賞味切れの商品をどっさりくれた。賞味期限切れは、あくまでも美味しく食べられる期間の目安であって、食べても大丈夫らしい。

 レジ袋を抱えて帰るとパワー君は大興奮。
 「おおおっ。コンビニフード食べ放題じゃん。すげー」
 
 台所で、あのアラサーがインスタントコーヒーをいれていた。落ち着いた大人雰囲気の頭良さそうなイケメン。
 あのー、朝のコーヒーは僕の係なんですけど。なんだか、イライラしてきた。
 「だれー、この人ーっ?」
 「俺の兄ちゃんの将太」パワー君は紹介してくれた。

 「いつもうちの力(りき)がお世話になってます」爽やか笑顔で自己紹介を始めるアラサー。
 ふーん、都立高校の先生してるんだってさ。まじめなガリ勉が先生になったって感じよね。

 「佐藤は未来から来たんだって」パワー君は説得力のある声で言う。
 「エープリールフールはまだ早いよ」
 「いや、マジで2020年からタイムトラベルしてきたんだってさ」パワー君は力説する。
 「まー、どうでもいいけど。佐藤くんは、新しい友達?」
 「俺のドラえもんだよ」
 「ふーん」
 全然信じていない口調だった。パワー君のお兄さんは、コーヒーを飲み終わると学校に行く時間だからと出ていった。

 僕は、寝床のこたつにゴソゴソと潜り込み目をつぶった。

 パワー君にとって、僕は未来から来たロボット的な存在で、掃除やご飯の用意や未来の話や相談にのるだけ。寝床は、こたつっていうのも……笑。

 彼氏にして欲しいなんて、おこがましいことは考えてないよ。モテモテで彼女もいるだろうし、こんな素敵な人、世の中放っておかないよ。

 恋とか愛とか友情とかじゃなくて、ただ見ているだけで一緒にいられるだけでいい。ずっとずっと楽しい毎日が続いて……。

***

 お昼に目が覚めると、パワー君は大学に行ったようでいなかった。

 コンビニ弁当やらおにぎりを頬張っていると、ベランダから「カーカー」カラスの鳴き声。
ガラガラと引き戸を開けるとピーコだった。

 ピーコにもエビフライや鮭のおにぎりをお裾分けしてやる。腹一杯になると翼を広げて、風に乗って飛んでいった。
「ピーコは飛んでどこにでも行けるからいいな」

 夕方、パワー君が戻ってきた。夕食のカレーのじゃがいもの皮を剥いていると、パワー君が台所に来て「手伝おうか?」と、声をかけてきた。
 「じゃあ、お米研いで」
 パワー君は、炊飯器の内釜に米を直に入れて、水道水をジャーと注いで研ぎ出した。あれあれまー、性格が大雑把なんだよな。
 「佐藤は将来のこと考えたことある?」
 「特に深くはないね。でも飲食業が向いてるって最近分かった」
 「俺も好きなこと仕事にしたいけど、そうもいかないだろうな」
 「歌続ければいいじゃん」
 「大学卒業したら義理パパの会社で働くことになりそう」
 「将太お兄さんが会社継ぐんじゃないの?」
 「将太は経営者には向いてないよ。真面目すぎるし頭が硬いというか、教師の仕事気に入ってるみたいだし」
 そう言えば、パワー君って経済学部だった。たぶん、親に言われて受験したんだろうな。人気者で人当たりもいいから経営者の素質はあるよ。
 
 「パワー君って彼女いるの?」
 「いないよ。だってデートとかおしゃべりに付き合うの面倒くさいし、バンド活動もあるしさ」
 米を研ぎながら会話を続けた。
 「僕も彼女はいないよ」
 「あっそ。話変わるけど、佐藤がバイトしてるスナックに飲みに行っていい?」
 じゃがいもを床に落としそうになった。ゲイバーで働いているなんてとてもじゃないけど言えないよ。
 「ごめん、会員制のとこで普通の人は駄目なの」
 「会員になればいいんだろ?」
 「来る人は、特別なお客さんだから。会員になるには審査が」
 「なんだか、怪しいスナックだな。気になる。行ってみたい」
 しつこくバイト先について突っ込んで聞いてくる。
 「そのうち、連れて行ってあげるからね」なだめて納得させたけど、そのうちバレるような気がする。

 ゲイだってばれたら追い出されそうだし、泉ちゃんもなにか言ってくると思う。せっかく仲良くなれたのに、偏見持たれたり、誤解されて悲しい思いしたくないよ。

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