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出会い
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腰回りがブカブカのスーツを着た僕はひたすら歩く。いったいどれだけ歩けば千葉のアパートにたどり着けるのだろうか。
本当にタイムトラベルしちゃったのかな。何年なんだろう? 遠くに高層ビルが見えるし、ヘリコプターも飛んでいるから、戦前ではないことは確かだ。
行き交うタクシーの車種が昔の刑事ドラマに出てくるやつだし、レトルトカレーの看板の黄色い帽子かぶった子供のイラストがもろ昭和。
裸足だと変な目でジロジロ見られそうで人混みに行く勇気がなかった。建物や昭和ファッションを直に見て、タイムスリップしてしまった事実を認めたくなかったからだ。
コンクリートの冷たさが裸足にモロ突き刺さる。小石やゴミが足裏にめり込んで痛い。靴が欲しいよ。
はるか未来の人類の運命なんて僕には関係ないのに、なんで宇宙の鉱石を探しに強制タイムトラベルしないといけないんだ。無理難題を押し付けられた理不尽さに腹が立ってきた。
マンションが立ち並ぶ地区にたどり着く。もう深夜らしく、灯りのついている部屋はぽつりぽつりとしかない。
「新宿にも住宅街があるんだ」
人気のない交差点を曲がると角の自動販売機の光が眩しかった。飲み物の値段が百円均一。ホットの缶コーヒー飲みたいけど一円も持ってない。自販の下を漁ったら百円ぐらい落ちてるかもと思いつきしゃがみ込む。
自販機に寄っかかって足を投げ出し無防備に寝ている人がいるのに気づいた。
身なりもちゃんとしているからホームレスじゃないな。酔いつぶれたホストさんかな? 黄色いステッチのごっつい黒いブーツ履いて、革ジャン着てるからバンドマンかもな。
「お兄さん、こんなところで寝てると風邪引くよ」
声をかけてみたが返事はない。爆睡してる。
靴を拝借するぐらいいいだろう。黒いブーツに手をかけた。靴紐を解いて右足のブーツをやっとこさ脱がしたときだった。
「俺のブーツ……」お兄さんが目を覚ました。
「ブーツ借りていいかな?」
「だめ」
「靴なくしちゃったんだよ」
「俺のサイズ、二十五センチだから、入んないと思うよ」
ちいさっ。ブーツだから踵潰して履くのも無理そうだな。
「こんなことで寝てたら危ないよ」
「だねー。でも家どこか分からなくなっちゃった」
しかたないな、おまわりさんに保護してもらったほうが良さそうだな。また道端で寝入って財布盗まれるとか窃盗の被害にあったら気の毒だし。
「迷子なら交番に行こう」
「おんぶしてくれ」
もう、酔っ払いの世話見きれないよ。
「おんぶは、無理だから自分の足で歩いて」
「あっ、家どこか思い出した」
「どこ?」
「ずーっと坂登っていって、コンビニの横」
そんな遠くなさそうだから、家まで送っていってサンダルでも貸してもらおう。
「サンダル貸してもらえる?」
「サンダルなんてあったかな。ビーサンあるかも。いいよ。俺んち来いよ」
「はい」
「おう! レッツゴー!」
酔っぱらっている割にはシャンと歩くお兄さんについていくことにした。
お兄さんは、元気な声で歌いだす。
「ラララ~いつでも憶えているよ♪ ラララ~星降る夜空の」
街灯のスポットライトに照らされて歌うお兄さんのソロコンサート。観客は僕一人だった。
着いたところは五階建てのマンション。新宿区のこんな小綺麗なマンションに住んでるなんてセレブ? 鍵を開けると「遠慮なくあがって」と招かれた。
「おじゃまします」
汚れた足で上がるのは失礼だと思ったが、とにかく温かい場所で体を休めたかった。一人暮らしにしては1LDKの広いマンションだな。
「シャワー浴びてもいいですか?」
「いいよ。じゃ、俺、寝るから」
お兄さんは革ジャンを脱ぎ捨てると自室に入って、ベッドに倒れ込み寝てしまった。
サンダル借りるのは明日の朝でいいや。風呂場で足を洗うことにした。冷え切った体をシャワーで温め、足の汚れを洗い流す。
すっきりした僕は、リビングのこたつに潜り込みカチッとスイッチを入れる。ぽかぽか安心したせいか眠くなってきた。
本当にタイムトラベルしちゃったのかな。何年なんだろう? 遠くに高層ビルが見えるし、ヘリコプターも飛んでいるから、戦前ではないことは確かだ。
行き交うタクシーの車種が昔の刑事ドラマに出てくるやつだし、レトルトカレーの看板の黄色い帽子かぶった子供のイラストがもろ昭和。
裸足だと変な目でジロジロ見られそうで人混みに行く勇気がなかった。建物や昭和ファッションを直に見て、タイムスリップしてしまった事実を認めたくなかったからだ。
コンクリートの冷たさが裸足にモロ突き刺さる。小石やゴミが足裏にめり込んで痛い。靴が欲しいよ。
はるか未来の人類の運命なんて僕には関係ないのに、なんで宇宙の鉱石を探しに強制タイムトラベルしないといけないんだ。無理難題を押し付けられた理不尽さに腹が立ってきた。
マンションが立ち並ぶ地区にたどり着く。もう深夜らしく、灯りのついている部屋はぽつりぽつりとしかない。
「新宿にも住宅街があるんだ」
人気のない交差点を曲がると角の自動販売機の光が眩しかった。飲み物の値段が百円均一。ホットの缶コーヒー飲みたいけど一円も持ってない。自販の下を漁ったら百円ぐらい落ちてるかもと思いつきしゃがみ込む。
自販機に寄っかかって足を投げ出し無防備に寝ている人がいるのに気づいた。
身なりもちゃんとしているからホームレスじゃないな。酔いつぶれたホストさんかな? 黄色いステッチのごっつい黒いブーツ履いて、革ジャン着てるからバンドマンかもな。
「お兄さん、こんなところで寝てると風邪引くよ」
声をかけてみたが返事はない。爆睡してる。
靴を拝借するぐらいいいだろう。黒いブーツに手をかけた。靴紐を解いて右足のブーツをやっとこさ脱がしたときだった。
「俺のブーツ……」お兄さんが目を覚ました。
「ブーツ借りていいかな?」
「だめ」
「靴なくしちゃったんだよ」
「俺のサイズ、二十五センチだから、入んないと思うよ」
ちいさっ。ブーツだから踵潰して履くのも無理そうだな。
「こんなことで寝てたら危ないよ」
「だねー。でも家どこか分からなくなっちゃった」
しかたないな、おまわりさんに保護してもらったほうが良さそうだな。また道端で寝入って財布盗まれるとか窃盗の被害にあったら気の毒だし。
「迷子なら交番に行こう」
「おんぶしてくれ」
もう、酔っ払いの世話見きれないよ。
「おんぶは、無理だから自分の足で歩いて」
「あっ、家どこか思い出した」
「どこ?」
「ずーっと坂登っていって、コンビニの横」
そんな遠くなさそうだから、家まで送っていってサンダルでも貸してもらおう。
「サンダル貸してもらえる?」
「サンダルなんてあったかな。ビーサンあるかも。いいよ。俺んち来いよ」
「はい」
「おう! レッツゴー!」
酔っぱらっている割にはシャンと歩くお兄さんについていくことにした。
お兄さんは、元気な声で歌いだす。
「ラララ~いつでも憶えているよ♪ ラララ~星降る夜空の」
街灯のスポットライトに照らされて歌うお兄さんのソロコンサート。観客は僕一人だった。
着いたところは五階建てのマンション。新宿区のこんな小綺麗なマンションに住んでるなんてセレブ? 鍵を開けると「遠慮なくあがって」と招かれた。
「おじゃまします」
汚れた足で上がるのは失礼だと思ったが、とにかく温かい場所で体を休めたかった。一人暮らしにしては1LDKの広いマンションだな。
「シャワー浴びてもいいですか?」
「いいよ。じゃ、俺、寝るから」
お兄さんは革ジャンを脱ぎ捨てると自室に入って、ベッドに倒れ込み寝てしまった。
サンダル借りるのは明日の朝でいいや。風呂場で足を洗うことにした。冷え切った体をシャワーで温め、足の汚れを洗い流す。
すっきりした僕は、リビングのこたつに潜り込みカチッとスイッチを入れる。ぽかぽか安心したせいか眠くなってきた。
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