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東城

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とうか パート3

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お父さんとお母さんが離婚した理由は家庭と私を守るためだった。

もともとお母さんは、おかしい人だったらしい。
言動とか奇行とか月日と共に度をますますエスカレートしていった。

私が4年生になった春、お母さんは本当に病気になった。病気と言えば聞こえがいいけど、気が狂ったというのが適切な言葉。

先にお父さんに矛先が向けられた。

お父さんが宇宙人と組んで、火星から電波送ってるとか言い出して。電波って言葉がでてくるだけでもうガチで狂ってるよ。

バラバラと廃墟が崩れ落ちるようにお母さんは壊れていった。

「ただいまー」家に帰ってくると、家んなかぐちゃぐちゃに散らかっていた。トイレットペーパーとか引きちぎられて、タンスの引き出しも全部全開で、ラジオとかテレビが分解されてばらばらになってるの。

盗聴器探してたんだって。
「ないない」って血眼になっているお母さんみていたら、私、涙が知らない間に流れてきた。悲しくて泣いたんじゃない。ショックで泣いたんだ。

ちょうどクリスマスの前だった。クラスのクリスマス会が終わって家に戻ってくると、家の前にパトカーが停まっていた。消防車は帰った後だったらしいよ。

なんか家の中がきな臭い。

台所に入ったら、コンロの周りが黒焦げなの。

お母さん、てんぷら揚げていて、油んなかに芳香剤ぶっこんだって。

その事件があってお母さん、病院に強制入院させられた。

でも正月には退院して、うちに戻ってきた。

こわかった。お母さんだけど、お母さんじゃないの。顔なんて形相変わっちゃって、殺人犯みたいな顔で。

お母さん、夜は起きていて、部屋で独り言言いながら、たまにバンバンバンってドアを殴るの。

私は寝不足になって、学校の授業中も居眠りするし、体調もすぐれなくておなか壊したり、ふらふらしたり。

昼間はお母さん、一日中、家にある食べ物をむさぼってるの。服用しているメンタル系の薬の副作用で食欲がとまらないんだってさ。

私が大切にとっておいたお菓子も勉強机から取り出して、食い荒らされていた。
私のベッドに空になったお菓子の箱とかびりびりに破られた包み紙が散乱していた。
せっかく、特別な日に食べようってとっておいたお菓子だったのに。
海ちゃんからもらった神戸のクッキーも全部食べられてしまった。
かわいい花柄のクッキーの箱もぐちゃぐちゃに引きちぎられていた。
空っぽな気持ちと海ちゃんゴメンねと思う気持ちで手が震えた。


お母さんの病気はどんどん進行していった。
雪降る夜、深夜1時にお母さんは動物みたいに叫んで、下着姿で外に飛び出していった。
お父さんと二人で懐中電灯持って、寒い雪の中、お母さんを探して深夜歩き回った。

雪に足取られて私は転んで電柱に身体ぶつけるし。3時間歩き回ったけど、とうとうお母さん、見つからなくて、警察に電話いれるために家に戻った。

お母さん、家に戻っていて、台所でお味噌汁作ってるの。

ほかほかの豆腐のお味噌汁を椀についで私に差し出す。
「寒かったでしょ」

私たち、なんのため、あんた探して、このくそ寒い雪の中何時間も歩きまわったと思ってんだよ。

お母さんの手から味噌汁ひったくる。
「くそババア」と叫んで、味噌汁を床にたたきつけた。

お父さんも私も限界だった。このままお母さんといたら私たちまで病気になっちゃうよ。

離婚の決定的な出来事は、バレンタインデーに起きた。

学校から帰って、私はこたつでテレビ見ながらうとうとしていた。

そのうち寝落ちしてしまった。
はっ、目がさめたらお母さんが私のこと見てるの。ギロギロした目で。


やだ、すっごく怖い。私の首にお母さんの手が触れた。幽霊みたいな冷たい手だった。

かがみこんで、ぎゅうぎゅう私の首を両手で絞めてくるの。
ひっしで振り払って私はこたつからでた。

命の危機を感じて近所に住むおばさんとお父さんに電話した。

「お母さんがおかしい。首絞められた」

お母さんにまた首絞められた。今度は電話のコードで。

息が吸えない、殺されるって思ったとき、警察が踏み込んできて助けてくれた。

お父さんとおばさんが110番してくれたんだ。

お母さんは保護入院になり、もう家には戻ってこなかった。

それからは大人たちで解決したんだろう。弁護士入れてお父さんは正式にお母さんと離縁した。

私はその日から学校に行けなくなった。自分の部屋から出れなくなった。引きこもりになった。

部屋にこもってスマホでゲームしたり小説読んだり。

窓から外を見ると、すっかり春になっていた。

そして夏になって秋になった。
私と外を隔てるガラス窓が寒さで白くなる冬がくるのがから恐ろしかった。


引きこもりになって7カ月経ってお父さんは言った。

「山梨のフリースクールってとこに行ってみないか?」

寮のある不登校児専門のフリースクール”フリースクール山梨ルナ学園”。

メンヘル臭ぷんぷんな学校名で嫌だったけど、自分の部屋に閉じこもっているのも飽きたし、自分の家もいやだった。

フリースクールってとこに行くことにした。

行って大正解だったね。

自然に囲まれて空気もおいしいとこで、先生もすごくやさしくてクラスメートも面白いやつらばっかで。

勉強もしたけど、フルーツ狩りとか工作とか自然観察とかも行事も毎週あってとにかく楽しかった。

メンヘルどころかもう健康100%アウトドアーみたいなキラキラした学校だった。

夜なんてさ、夜空見上げると一面の銀河系。

学校なのに犬とか猫も飼ってるの。ヤギもいたよ。

生徒は全員で11名だったけど先生は5人もいてさ。
みんないい人たち。

不登校児って付き合いづらいやつばっかだと先入観あったけど、全然そんなのなかった。みんな、心優しくて繊細な子たちばかり。

学校に行けなくなった理由はみんなそれぞれだったけど、突っ込んで聞いてくる無神経な奴はいなかった。


私はフリースクールに小学5、6と中1の一学期までいた。

フリースクールにいれなくなった理由。

やっぱりお金のことだった。

年間300万も授業料、寮費、カウンセリング、個別指導もろもろで、かかるんだって。

うちの貯金も底つきそうだし、私も元気になったことだし、普通の中学に通っても大丈夫だろうってことで。

あんな素敵な学校に通わせてくれたお父さんには感謝している。

川崎の家に戻ってからのお父さんとの二人の生活は静かで平和そのものだった。

やっと普通の生活に戻れてよかった。

家に戻って最初のご飯はお父さんが作ってくれた中辛のビーフシチューだった。大雑把に4つに切った玉ねぎ、ニンジンと肉がどかどか入ったカレー味の爆盛シチュー。
「お父さん。カレーはもっと小さめに材料を切らなきゃダメだよ」
味はいまいちだったけど家庭の味が心を温めてくれた。
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