ハムスター父さん

東城

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秘密

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ぽっちゃり中学生の僕と茶色のもちもちハムスターのバムは、共同生活を始めた。バムのとぼけた顔を見ていると、愛着がわいてくる。そういえば鳴いたのを聞いたことがない。キーキーとかチューチュー鳴くものだと思っていたけども、まったくもって泣き声一つも立てなかった。
昼間は僕の部屋にケージを置いていたが、夜はキッチンのテーブルの下に移動させた。

夜間、バムがゴソゴソ動き回ったり、回し車の音がうるさくて眠りを妨げるからだ。



いつもどおり、ケージを台所に持っていく。
お母さんは目をショボショボさせながら、ノートパソコンにかじりついて仕事をしていた。
「お母さん、おやすみ」
「うん、おやすみ」お母さんは疲れた顔でにっこり微笑んで言った。
背中を向けてあくびしながら自分の部屋に戻ろうとしたとき、背後でばたっと大きな音がした。

「えっ?」
床の上にお母さんが横向きに倒れていた。

慌てて近寄り「お母さん、お母さん」と声をかけたが、お母さんは目を閉じていて何も答えない。どんどん顔色が悪くなって、だらんと開いた口から唾液が垂れてきた。
ど、どうしよう。このままじゃ、死んじゃうよ。
「お母さーん」
怖くて泣くよりも、どうしていいのか分からなくて立ち尽くしていた。


どこからか声が聞こえた。
「はやく救急車呼ぶんだ!」

はっとして、部屋に駆け込みスマホを持ってくる。
救急車って110だよな。えっ119番だっけ?

「119番だよ!」
さっきの声が聞こえた。


***


お母さんは脳梗塞で入院することになった。
親戚のおばさんが病院まで来てくれて、僕を家まで送ってくれた。
おばさんの家に来るかと聞かれたけど、電車で1時間ぐらいかかるし、学校もあるから断った。

薄暗いキッチンの椅子に座って、「疲れた」と独り言を言った。
軽い脳梗塞だからお母さんは大丈夫だと医者は言っていたけど、これからどうしよう。

働きすぎたからお母さんは脳梗塞になってしまったんだ。

僕がもっとお手伝いしていれば、スマホなんてねだらなければ、ごはんのお代わりなんてしなければ……。
次から次に後悔が溢れてきて、しゃくりあげながら泣いた。

「うえっつうえ、うえっ」涙と鼻水が同時に滝のように流れてきた。

「おい、泣くなよ」
テーブルの下から声がした。
かがみこんでテーブルの下を見ても誰もいない。ハムスターのケージがあるだけだ。

バムがひょこひょこ体を揺らしながらケージの端っこまでやってきた。
鼻先を突き出してクンクン動かすと、ペッ!! ひまわりの種を口から飛ばした。

「いたっ」種が右ほおに直撃した。

バムは立ち上がると「めそめそしても、仕方ねーだろ。これからのこと考えようぜ」甲高い声で人間の言葉を話した。

ハムスターがしゃべった!
僕は両手を床について、狐につままれたような顔してフリーズしてしまった。
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