13 / 28
酔狂
しおりを挟む
僕らが出会って一週間が経過していた。
朝日はソファーで寝ていた。
そんなにソファーがいいのかね?
まあ、僕と同じベッドで一緒に寝るのも嫌だろうし。
咳はまだ治らない。
あの医者、きちんと診察したのかな。やぶだよ。絶対やぶだ。
明日、大学病院に行って聴診器とって来よう。
夜中、朝日の咳で目が覚めた。
気になってリビングに行く。
「大丈夫?」
明かりをつけると、毛布をかぶった朝日が「うん」とくぐもった声で答えた。
温かいほうじ茶でも飲めば、喉のいがらっぽいのも和らぐかな。
「お茶でも飲む?」
頭をそっと撫でた。
ぐすっと涙をこらえる音が聞こえた。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
涙声じゃないか。
ただの風邪じゃなくて、敗血症とか重症化しているのかもと激しく心配になった。
「病院に行こう」
「風邪がつらいんじゃなくて。これから僕どうなっちゃうんだろうって考えたら悲しくなってきて」
なんだ、それでか。
「涙が止まらなくなって。変だな。こんなこと今までなかったのに」
この子のメンタル大丈夫だろうか。虐待を受けていたら、いつかひずみでダメージがくる。
子供の場合は急激に悪化することがある。
男の子の場合は外に向かっていくことが多い。犯罪、非行や家庭内暴力。
女の子の場合は厄介だ。リストカット、摂食障害、性非行など自分を傷つける行為に走る。
***
ほうじ茶なんて、中学生には年寄臭いかもと思い直して、ココアを作って持っていく。
朝日はソファーに座ると、ココアをすする。
「おいしい」
うんうん。やっぱり甘くてほっとする飲み物がいいよね。
まだ軽く咳をするので、背中をさすってあげた。
「栄は、やさしいね。こんなに優しくしてくれる人って東京にはあまりいなかったよ」
「そうなんだ」
「なんで僕のことひきとってくれたの?」
自分でも分からなかった。たぶんただの思い付きで気まぐれってやつだ。
「伊達や酔狂で」
見栄っ張りや物好きでと言う意味だ。こんな古風な言い回しは中学生は知らないか。
「僕にあまり触らないほうがいいよ。風邪うつるかも知れないし」
「もう、人にはうつらないと思うよ。雨に濡れて冷えたから体調崩したんだね」
またぐすっと泣きそうな声になる朝日。
「僕、汚いから触らないほうがいいよ」
「汚いって? 別にそう思わないけど」
「クラスのやつらに汚いって言われた。しかたないよね。ベランダで寝てたし、親にも嫌われていたし」
「ベランダで?」
「冬なんて、すっごく寒いの。ホームレス中学生や」
朝日は無理に笑って言ってるけど、どこか声が変。
そんなの全然面白くないよ。
ベランダで凍えている中学生を想像して、胸が痛んだ。
「悲しくなるから、もう、言わないで」
朝日の肩を抱いた。
またぼろぼろ泣き出す朝日。
「京都いたときは普通の生活だった。じいちゃんとばあちゃんと普通の一軒家に住んで、友達もいっぱいいて。東京ではよそ者扱い。なにも悪いことしてないのに、なんで? 京都に帰りたい。もう嫌だ。東京には住みたくない」
「もう大丈夫だから。ここにいればいいよ。春休みになったら、京都に遊びに行こうよ」
頭を撫でる。
やわらかい髪、こどもっぽい匂いがふっとした。
少し安心したのか、泣き止んでうとうとし始めている。
かわいいな。
朝日はソファーで寝ていた。
そんなにソファーがいいのかね?
まあ、僕と同じベッドで一緒に寝るのも嫌だろうし。
咳はまだ治らない。
あの医者、きちんと診察したのかな。やぶだよ。絶対やぶだ。
明日、大学病院に行って聴診器とって来よう。
夜中、朝日の咳で目が覚めた。
気になってリビングに行く。
「大丈夫?」
明かりをつけると、毛布をかぶった朝日が「うん」とくぐもった声で答えた。
温かいほうじ茶でも飲めば、喉のいがらっぽいのも和らぐかな。
「お茶でも飲む?」
頭をそっと撫でた。
ぐすっと涙をこらえる音が聞こえた。
「泣いてるの?」
「泣いてない」
涙声じゃないか。
ただの風邪じゃなくて、敗血症とか重症化しているのかもと激しく心配になった。
「病院に行こう」
「風邪がつらいんじゃなくて。これから僕どうなっちゃうんだろうって考えたら悲しくなってきて」
なんだ、それでか。
「涙が止まらなくなって。変だな。こんなこと今までなかったのに」
この子のメンタル大丈夫だろうか。虐待を受けていたら、いつかひずみでダメージがくる。
子供の場合は急激に悪化することがある。
男の子の場合は外に向かっていくことが多い。犯罪、非行や家庭内暴力。
女の子の場合は厄介だ。リストカット、摂食障害、性非行など自分を傷つける行為に走る。
***
ほうじ茶なんて、中学生には年寄臭いかもと思い直して、ココアを作って持っていく。
朝日はソファーに座ると、ココアをすする。
「おいしい」
うんうん。やっぱり甘くてほっとする飲み物がいいよね。
まだ軽く咳をするので、背中をさすってあげた。
「栄は、やさしいね。こんなに優しくしてくれる人って東京にはあまりいなかったよ」
「そうなんだ」
「なんで僕のことひきとってくれたの?」
自分でも分からなかった。たぶんただの思い付きで気まぐれってやつだ。
「伊達や酔狂で」
見栄っ張りや物好きでと言う意味だ。こんな古風な言い回しは中学生は知らないか。
「僕にあまり触らないほうがいいよ。風邪うつるかも知れないし」
「もう、人にはうつらないと思うよ。雨に濡れて冷えたから体調崩したんだね」
またぐすっと泣きそうな声になる朝日。
「僕、汚いから触らないほうがいいよ」
「汚いって? 別にそう思わないけど」
「クラスのやつらに汚いって言われた。しかたないよね。ベランダで寝てたし、親にも嫌われていたし」
「ベランダで?」
「冬なんて、すっごく寒いの。ホームレス中学生や」
朝日は無理に笑って言ってるけど、どこか声が変。
そんなの全然面白くないよ。
ベランダで凍えている中学生を想像して、胸が痛んだ。
「悲しくなるから、もう、言わないで」
朝日の肩を抱いた。
またぼろぼろ泣き出す朝日。
「京都いたときは普通の生活だった。じいちゃんとばあちゃんと普通の一軒家に住んで、友達もいっぱいいて。東京ではよそ者扱い。なにも悪いことしてないのに、なんで? 京都に帰りたい。もう嫌だ。東京には住みたくない」
「もう大丈夫だから。ここにいればいいよ。春休みになったら、京都に遊びに行こうよ」
頭を撫でる。
やわらかい髪、こどもっぽい匂いがふっとした。
少し安心したのか、泣き止んでうとうとし始めている。
かわいいな。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
天然くんはエリート彼氏にメロメロに溺愛されています
氷魚(ひお)
BL
<現代BL小説/全年齢BL>
恋愛・結婚に性別は関係ない世界で
エリート彼氏×天然くんが紡いでいく
💖ピュアラブ💖ハッピーストーリー!
Kindle配信中の『エリート彼氏と天然くん』の大学生時のエピソードになります!
こちらの作品のみでもお楽しみ頂けます(^^)
♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡
進学で田舎から上京してきた五十鈴は、羊のキャラクター「プティクロシェット」が大のお気に入り。
バイト先で知り合った将が、同じキャンパスの先輩で、プティクロシェットが好きと分かり、すぐ仲良くなる。
夏前に将に告白され、付き合うことになった。
今日は将と、初めてアイスを食べに行くことになり…!?
♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡・・*・・♡
ラブラブで甘々な二人のお話です💕
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
制服の少年
東城
BL
「新緑の少年」の続きの話。シーズン2。
2年生に進級し新しい友達もできて順調に思えたがクラスでのトラブルと過去のつらい記憶のフラッシュバックで心が壊れていく朝日。桐野のケアと仲のいい友達の助けでどうにか持ち直す。
2学期に入り、信次さんというお兄さんと仲良くなる。「栄のこと大好きだけど、信次さんもお兄さんみたいで好き。」自分でもはっきり決断をできない朝日。
新しい友達の話が前半。後半は朝日と保護司の栄との関係。季節とともに変わっていく二人の気持ちと関係。
3人称で書いてあります。栄ー>朝日視点 桐野ー>桐野栄之助視点です。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
どうも俺の新生活が始まるらしい
氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。
翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。
え? 誰この美中年!?
金持ち美中年×社会人青年
某サイトのコンテスト用に書いた話です
文字数縛りがあったので、エロはないです
ごめんなさい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる