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第一章 突入
6, 第一回 日シルドア使節交流
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────同年4月11日 08時00分
ユグ・シルドア王国との友好的な接触を図るために派遣された、外務省職員2名と幹部自衛官1名からなる、日本国のシルドア使節団。
彼らは、王城の謁見の間にて、シルドア王国の第四十代国王 セルキ=シルドアの前に跪いていた。
「面を上げよ。歓迎するぞ、日本国の使者達よ」
使節団の団長である水谷は、今までに無いほどに緊張していた。
彼は、外務省で15年を勤務している。ここ10年は、一向に進む気配がない露との北方領土問題を担当し、北方領土の二島返還まであと一歩のところまで漕ぎつけていた。
──── しかし、今回発生した『異界』騒動により少し近づきつつあった、露との関係性は完全に破綻してしまったのだが…… ────
そんな彼でも、一国の王を相手にするのは初めての事だった。
ましては、相手は存亡危機が文字通りすぐ側にあり続ける状態の国家を、十数年間常に引っ張り続けた百戦錬磨の国王だ……貫禄が違う。
だからと言って、ビビる訳には行かない。私にも守るべき国がある。そして、日本のエリート官僚としてのプライドというものがあるのだ。
そう覚悟を決め、国王の言葉通りに顔を上げる。
目の前の玉座に座っていたのは、六十代後半の少し髭を生やしたイケおじ。
体格は、特段良い訳では無いが、痩せている訳でもない。
一見体調が良いように見えるが、目の下にはっきりと隈が見えている。連日の公務であまり睡眠が取れていないだろう。
「お初にお目にかかります、セルキ国王陛下。今回は、我が国の使節団を歓迎していただき、誠にありがとうございます」
「ほう、礼儀正しいのだな」
「いえ、セルキ国王陛下は一国の王でございますが、私共は一介の公務員でしかございません。目上の方に礼儀を示すのは、当然のことでございます」
水谷の言葉に、他二人も頷き同意した。
そんな、3人と水谷の言葉にシルドア王国の重鎮たちは、一様に驚いた反応を示していた。
何故驚くのだろう?そう思い、水谷がセルキに問う。
「なぜ、大臣の方々は驚いておられるのですか?」
「あぁ、すまんな。こちらにも、いろいろあってな。それよりも、早く貴国との文化交流を始めようではないか」
あくまでも、そこは明かさないか。
まあ、自国の弱みを敵かもわからない奴には話さないよな。
水谷はそう納得して、セルキ言葉に応える。
「はい。ですが、始める前に一点だけ、お伝えしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?申してみよ」
続く、水谷の言葉で一瞬だけ場が凍る。
「我々も、日本国一億二千万人の命、ひいては地球の七十億人もの命を背負っています。そこを踏まえて、今回の交渉に臨むことをご理解いただきたい」
水谷の顔に怯えはなく、それどころか不敵に笑っていた。
自分らの情報を一部だけ開示し、相手の反応を伺う。
これは、場合によっては悪手になりうるが、今回は相手側に我々の情報は一切ない。それを利用し、こちら側に都合のいい情報だけを渡すことができる。
しかし、それはあちらも同じだ。
渡される情報の真偽は、しっかり見分けなければいけない。慎重に行こう。
そう、水谷が考えている中、セルキは辛うじて表情には出していないが、内心とても驚いていた。
基本的には、下手に出る。
しかし、自国の利益の部分は強気に出る…か。
ふっ、面白い。最近は、皇国の無駄に傲慢な使者ばかりで、まともに交渉などしていなかったからな。
良い、交渉になりそうだ。
「はっはっは。なるほど、貴国の人口が本当にそれ程なのかはわからんが……いいだろう。貴殿等も一国を背負っている点は我と変わらぬ。良い交渉としようじゃないか」
「はい、是非とも良い関係を」
その、言葉と同時に場所を謁見の間から移すことになった。
謁見の間を出ると、七三式小型トラックから交渉用のサンプルや物資が下ろした隊員たちが、物資を両手に抱え待っていた。
「待たせたな。場所を変えることになった。移動するぞ」
『はい!』
鍋島の言葉で、隊員たちは一斉に移動し始める。
案内役と思われる騎士に先導され、しばらく歩いていると、広めの会議室のような場所に着いた。
その部屋には、長机が中央に置かれており、その周りにたくさんの椅子が置かれていた。
所謂、お誕生日席と呼ばれる場所に座るのは、セルキ国王。
そして、向かい合う形で日本国とシルドア王国のメンバーがそれぞれ席に着く。
「それでは、日本国とシルドア王国の異文化交流を始めさせていただきます。進行は、私シルドア王国外務大臣、アトリが行わせていただきます」
進行を務めるアトリの言葉で、第一回 日シルドア使節交流がスタートした。
「まずは、我が国の存在するカラスコ大陸についてご説明します。手元の資料をご覧ください」
シルドア使節団副隊長の柳井は、手元に重ねてある紙の一枚目を見る。
その紙には、この大陸の地図と国の名前が記入されていた。
さらには、川や山などの地形までもが正確に記されていた。
「これは、なかなか正確な地図ですね」
地図などの地形情報は、とても重要な交渉カードなはずだ。
それをなぜ……あぁ、なるほど。そういうことか。
水谷の納得をよそに、地形情報をいち早くほしいであろう、自衛隊の代表である鍋島がアトリに質問する。
「なぜこのような、重要な情報を我々に?」
「簡単な話です。日本国には、簡単に空を飛べる乗り物を有しているのです。それも、憶測ではありますが、相当な数を」
「なるほど、これは一本取られましたね。アトリ殿は、よく頭が回るようで」
その水谷の言葉に、鍋島もアトリの思惑に気づいたのか、苦笑して頭をかいていた。
我々が、地形情報ぐらいなら直ぐに把握できることを読んで、交渉の材料に使ったわけか。やはり、油断できないな。
「それで、対価として何をお求めで?」
「そうですね……。では、日本国の技術者の派遣などでどうでしょうか?」
アトリから、提案されたのは水谷も望んでいたものだった。
「そんなものでいいですか?」
「はい。今の我が国には、リナを始めとした優秀な技術者がそろっています。その才能を無駄にするのも惜しいですから」
「そういうことでしたら、上に掛け合ってみますね」
「ありがとうございます」
その後も、日本とシルドアの文化交流は続き、シルドア王国は日本の科学技術の高さに、日本もシルドア王国の魔法や魔力といった未知の概念に多くの驚きを得た。
そんなこんなで、使節交流はあっという間に1日目が過ぎていった。
「いやー、魔法というのも面白いですね」
豪華な食事でもてなされた使節団のメンバーは、食事後に水谷の部屋に集まっていた。
「そうだな。シルドア王国の魔法技術に我が国の科学技術を上手く融合することができれば、インフラにも大きな革命が起きるぞ」
「シルドア王国だけじゃなく、近隣諸国ともぜひ良い関係を作りたいですね」
「その話なんだが、俺たち以外の隊はだいぶ苦戦しているらしいぞ」
各隊の定例会議にも顔を出している鍋島は、他の隊の状況も知ることができているのだ。
「そうなんですか?」
「ああ。特に渋谷隊は中々厳しいらしい」
「はー、そう上手くはいかないものですね」
───同年4月1日 正午 渋谷門
渋谷の『門』を向けた先は、なだらかな傾斜が続く丘の頂上であった。
『異界』内部の空は、青く澄み渡っており、日本とあまり変わているようには感じなかった。
だが、そんな感想も束の間。一足早く突入していった第五偵察戦闘隊からの報告により、臨戦態勢で突入した隊員たちに緊張が走る。
『目標正面、距離500。接近目標、敵騎兵。数推定5,000』
今回の突撃の主戦力となるのが、七四式戦車だ。
七四式戦車の中に、緊張した面持ちで座る隊員たち。その耳に着けられた無線機から聞えてくる、射撃の準備を促す無線。その言葉に、戦車内の空気は少しずつ緊張感が増していく。
「こちら、日本国陸上自衛隊…………」
戦車内部にも届く、敵対行為の最終確認。
しかし、拡声器による呼びかけは無視され、敵騎兵は依然引き返すそぶりを見せない。
『目標正面、距離400』
指揮官からの、目標修正の無線が入る。あの、呼びかけを無視された以上、自衛隊に容赦はない。
『撃てェッ!』
その言葉と同時に、事前に決められている目標に向け、七四式戦車の105㎜ライフル砲の雨が降り注ぐ。
斥候からの情報で、事前に計画されていた完璧な計画射撃は、敵兵の熱意や意地など関係なく、無慈悲に冷酷に敵兵の命をより効率よく奪っていく。
砲弾一つで十人、もしくはそれ以上の人数が最期の言葉もなく一瞬で散っていく。
敵騎兵は完全に乱れており、先ほどまでの威勢は既に見る影もなくなっていた。
だが、案ずるな。地獄はまだ始まったばかりだ。
ユグ・シルドア王国との友好的な接触を図るために派遣された、外務省職員2名と幹部自衛官1名からなる、日本国のシルドア使節団。
彼らは、王城の謁見の間にて、シルドア王国の第四十代国王 セルキ=シルドアの前に跪いていた。
「面を上げよ。歓迎するぞ、日本国の使者達よ」
使節団の団長である水谷は、今までに無いほどに緊張していた。
彼は、外務省で15年を勤務している。ここ10年は、一向に進む気配がない露との北方領土問題を担当し、北方領土の二島返還まであと一歩のところまで漕ぎつけていた。
──── しかし、今回発生した『異界』騒動により少し近づきつつあった、露との関係性は完全に破綻してしまったのだが…… ────
そんな彼でも、一国の王を相手にするのは初めての事だった。
ましては、相手は存亡危機が文字通りすぐ側にあり続ける状態の国家を、十数年間常に引っ張り続けた百戦錬磨の国王だ……貫禄が違う。
だからと言って、ビビる訳には行かない。私にも守るべき国がある。そして、日本のエリート官僚としてのプライドというものがあるのだ。
そう覚悟を決め、国王の言葉通りに顔を上げる。
目の前の玉座に座っていたのは、六十代後半の少し髭を生やしたイケおじ。
体格は、特段良い訳では無いが、痩せている訳でもない。
一見体調が良いように見えるが、目の下にはっきりと隈が見えている。連日の公務であまり睡眠が取れていないだろう。
「お初にお目にかかります、セルキ国王陛下。今回は、我が国の使節団を歓迎していただき、誠にありがとうございます」
「ほう、礼儀正しいのだな」
「いえ、セルキ国王陛下は一国の王でございますが、私共は一介の公務員でしかございません。目上の方に礼儀を示すのは、当然のことでございます」
水谷の言葉に、他二人も頷き同意した。
そんな、3人と水谷の言葉にシルドア王国の重鎮たちは、一様に驚いた反応を示していた。
何故驚くのだろう?そう思い、水谷がセルキに問う。
「なぜ、大臣の方々は驚いておられるのですか?」
「あぁ、すまんな。こちらにも、いろいろあってな。それよりも、早く貴国との文化交流を始めようではないか」
あくまでも、そこは明かさないか。
まあ、自国の弱みを敵かもわからない奴には話さないよな。
水谷はそう納得して、セルキ言葉に応える。
「はい。ですが、始める前に一点だけ、お伝えしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?申してみよ」
続く、水谷の言葉で一瞬だけ場が凍る。
「我々も、日本国一億二千万人の命、ひいては地球の七十億人もの命を背負っています。そこを踏まえて、今回の交渉に臨むことをご理解いただきたい」
水谷の顔に怯えはなく、それどころか不敵に笑っていた。
自分らの情報を一部だけ開示し、相手の反応を伺う。
これは、場合によっては悪手になりうるが、今回は相手側に我々の情報は一切ない。それを利用し、こちら側に都合のいい情報だけを渡すことができる。
しかし、それはあちらも同じだ。
渡される情報の真偽は、しっかり見分けなければいけない。慎重に行こう。
そう、水谷が考えている中、セルキは辛うじて表情には出していないが、内心とても驚いていた。
基本的には、下手に出る。
しかし、自国の利益の部分は強気に出る…か。
ふっ、面白い。最近は、皇国の無駄に傲慢な使者ばかりで、まともに交渉などしていなかったからな。
良い、交渉になりそうだ。
「はっはっは。なるほど、貴国の人口が本当にそれ程なのかはわからんが……いいだろう。貴殿等も一国を背負っている点は我と変わらぬ。良い交渉としようじゃないか」
「はい、是非とも良い関係を」
その、言葉と同時に場所を謁見の間から移すことになった。
謁見の間を出ると、七三式小型トラックから交渉用のサンプルや物資が下ろした隊員たちが、物資を両手に抱え待っていた。
「待たせたな。場所を変えることになった。移動するぞ」
『はい!』
鍋島の言葉で、隊員たちは一斉に移動し始める。
案内役と思われる騎士に先導され、しばらく歩いていると、広めの会議室のような場所に着いた。
その部屋には、長机が中央に置かれており、その周りにたくさんの椅子が置かれていた。
所謂、お誕生日席と呼ばれる場所に座るのは、セルキ国王。
そして、向かい合う形で日本国とシルドア王国のメンバーがそれぞれ席に着く。
「それでは、日本国とシルドア王国の異文化交流を始めさせていただきます。進行は、私シルドア王国外務大臣、アトリが行わせていただきます」
進行を務めるアトリの言葉で、第一回 日シルドア使節交流がスタートした。
「まずは、我が国の存在するカラスコ大陸についてご説明します。手元の資料をご覧ください」
シルドア使節団副隊長の柳井は、手元に重ねてある紙の一枚目を見る。
その紙には、この大陸の地図と国の名前が記入されていた。
さらには、川や山などの地形までもが正確に記されていた。
「これは、なかなか正確な地図ですね」
地図などの地形情報は、とても重要な交渉カードなはずだ。
それをなぜ……あぁ、なるほど。そういうことか。
水谷の納得をよそに、地形情報をいち早くほしいであろう、自衛隊の代表である鍋島がアトリに質問する。
「なぜこのような、重要な情報を我々に?」
「簡単な話です。日本国には、簡単に空を飛べる乗り物を有しているのです。それも、憶測ではありますが、相当な数を」
「なるほど、これは一本取られましたね。アトリ殿は、よく頭が回るようで」
その水谷の言葉に、鍋島もアトリの思惑に気づいたのか、苦笑して頭をかいていた。
我々が、地形情報ぐらいなら直ぐに把握できることを読んで、交渉の材料に使ったわけか。やはり、油断できないな。
「それで、対価として何をお求めで?」
「そうですね……。では、日本国の技術者の派遣などでどうでしょうか?」
アトリから、提案されたのは水谷も望んでいたものだった。
「そんなものでいいですか?」
「はい。今の我が国には、リナを始めとした優秀な技術者がそろっています。その才能を無駄にするのも惜しいですから」
「そういうことでしたら、上に掛け合ってみますね」
「ありがとうございます」
その後も、日本とシルドアの文化交流は続き、シルドア王国は日本の科学技術の高さに、日本もシルドア王国の魔法や魔力といった未知の概念に多くの驚きを得た。
そんなこんなで、使節交流はあっという間に1日目が過ぎていった。
「いやー、魔法というのも面白いですね」
豪華な食事でもてなされた使節団のメンバーは、食事後に水谷の部屋に集まっていた。
「そうだな。シルドア王国の魔法技術に我が国の科学技術を上手く融合することができれば、インフラにも大きな革命が起きるぞ」
「シルドア王国だけじゃなく、近隣諸国ともぜひ良い関係を作りたいですね」
「その話なんだが、俺たち以外の隊はだいぶ苦戦しているらしいぞ」
各隊の定例会議にも顔を出している鍋島は、他の隊の状況も知ることができているのだ。
「そうなんですか?」
「ああ。特に渋谷隊は中々厳しいらしい」
「はー、そう上手くはいかないものですね」
───同年4月1日 正午 渋谷門
渋谷の『門』を向けた先は、なだらかな傾斜が続く丘の頂上であった。
『異界』内部の空は、青く澄み渡っており、日本とあまり変わているようには感じなかった。
だが、そんな感想も束の間。一足早く突入していった第五偵察戦闘隊からの報告により、臨戦態勢で突入した隊員たちに緊張が走る。
『目標正面、距離500。接近目標、敵騎兵。数推定5,000』
今回の突撃の主戦力となるのが、七四式戦車だ。
七四式戦車の中に、緊張した面持ちで座る隊員たち。その耳に着けられた無線機から聞えてくる、射撃の準備を促す無線。その言葉に、戦車内の空気は少しずつ緊張感が増していく。
「こちら、日本国陸上自衛隊…………」
戦車内部にも届く、敵対行為の最終確認。
しかし、拡声器による呼びかけは無視され、敵騎兵は依然引き返すそぶりを見せない。
『目標正面、距離400』
指揮官からの、目標修正の無線が入る。あの、呼びかけを無視された以上、自衛隊に容赦はない。
『撃てェッ!』
その言葉と同時に、事前に決められている目標に向け、七四式戦車の105㎜ライフル砲の雨が降り注ぐ。
斥候からの情報で、事前に計画されていた完璧な計画射撃は、敵兵の熱意や意地など関係なく、無慈悲に冷酷に敵兵の命をより効率よく奪っていく。
砲弾一つで十人、もしくはそれ以上の人数が最期の言葉もなく一瞬で散っていく。
敵騎兵は完全に乱れており、先ほどまでの威勢は既に見る影もなくなっていた。
だが、案ずるな。地獄はまだ始まったばかりだ。
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