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突入編

5, 王都到着

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───同日 16時00分

 夕暮れ時の夕陽が射し込み少し冷え込んできた、ユグ・シルドア王国の王都。
 その王都に、夕方を知らせる鐘が響き渡る。いつもならば、外で遊んでいた子供たちが、働いていた大人たちが、家へと帰り始めるであろうこの時間。

 しかし、今日は何時もとは何処か異なっていた。

 何時もなら賑やかな酒場には人一人居らず、もぬけの殻であり、家に帰ろと大人に注意される子ども達の姿もなく、代わりにそこにあるのは静寂のみだった。
 しかし、住宅街から王都中心に建つ王城の方へと向かうと、そこには静寂とは真逆の空間が存在している。

 王都には、王城を中心とした放射状に道路が敷かれている。その中でも、特に大きい東西南北へと伸びる大通り。その北門へと続く通りには、王都の住民が押し寄せ沿道を埋めつくしていた。

 沿道に押しかけてきている彼らは、先日に行われた国王の日本国シルドア使節団を歓迎すると言う宣言により、王都の住民たちが扇動されて使節団が通ると言うこの通りに集まることとなったのだ。

 更に、たまたま王都に商売や旅で寄っていたもの達もなんの騒ぎだと見物に集まってきた。人混みが人を呼び込み事となり、最終的に沿道に集まった人数はおよそ1万人にも及んだと言う。



 
 ───同日  16時03分

 夕刻を知らせる鐘の音が鳴り止むと同時に北門の扉が少しずつ、ゆっくりと重厚な音を立てながら開き始めた。

 開き終わった門からは、1台のオートバイが速度を押えて入ってきた。

 使節団は先導のオートバイを先頭に、軽装甲機動車、使節団のメンバーを乗せている馬車、高機動車、七三式小型トラックと続き、先頭のオートバイを含め、馬車の両脇に1台ずつと最後尾に2台のオートバイを配置した陣形で入場していた。

  彼らの入場と同時に。沿道の民衆たちからは不思議なものを見るような視線だったものの、少しずつ拍手や歓声が増えていき、使節団は歓迎されいるようだった。


 ちなみに、北門到着までは川上と共に高機動車に乗っていたリナは、今は御者として馬車を操縦しており、ガラガラだった高機動車の中には川上の部下たち数人が座っていた。



 使節団の車列が北門から入場を終えた瞬間、通りの観衆達の耳には車とは違う、腹の奥に響くような音が上空から聞こえ始めていた。


 上空から王都に向かうのは、CH-47JA 輸送ヘリコプター───通称チヌークが2機とゴブラ3機からなる5機編隊だ。

 ここには居ない、残りのチヌーク2機とEC-225LP 特別輸送ヘリコプター1機、そして今回の王都行きのメンバーに選ばれなかった隊員たちは、最初に着陸した場所の平野に陣地を張り留守番だ。



 最初に民衆に姿を見せたのはゴブラ1機だけだった。その機体が北門の奥から姿を見せると同時に、北東、北西方向からそれぞれゴブラ1機が高速で進入した。

 ゴブラが空中で交わりぶつかるかと思われたその瞬間、斜めから進入した2機が機体の向きを変えゴブラ3機がズレることなく横一列にピッタリ並んだ。
 数秒遅れて、後方から2機のチヌークがこれも横に並びながら高速に進入し、ゴブラと合流したことで空中には2列5機のヘリコプターがズレる事無く整列した。


 5機編隊は、王都上空に進入するなり機体ゴブラ3機が三角形を作り、先頭のゴブラの後ろにチヌーク2機が縦に並ぶことで矢印のような形の隊列に一瞬で組み直した。


 これには、なんだなんだと頭上を見上げていた民衆達からも拍手が沸き起こった。


 そのまま、ヘリ達はローター音を響かせ陣形を崩すことなく大通りの真上を飛行して南へと飛んで行った。


 たった数十秒の飛行だったが、絶妙な速度調整と精密な機体操作技術、そして自身の操縦技術への絶対の自信など……隊員たちの凡人には想像し難いほどの努力の末にようやく実行出来る事になる、まさに神業であった。

 更に、チヌークとゴブラではそれぞれ操縦する隊員の所属部隊が違う急造のチームなのだ。リハや演習なども無く、ぶっつけ本番での成功を求められる隊員たちのプレッシャーも中々のものだろう。


「おぉ!二偵と輸送隊の人達もだいぶ暴れてますね」

 そう能天気に言うのは市川2等陸曹だ。彼自身が川上と余り年齢に差がないことや、川上が堅苦しいのを嫌ったのもあり、川上と市川はこの様に気楽に話せる関係になっている。

 そして何故、川上がリナのサポート役に選ばれたのかをすぐに察し、他の隊員たちを高機動車から下ろす位には、とても空気が読める男なのだ。
 北門に到着した後には、意図に気づいた川上に「必要ない!」と言われたのだが………まぁ、今はそれは置いておこう。 


「そうだな、今まであんまり活躍できてなかった分、今日は暴れるんじゃないのか?」

「あれ?『門』突入作戦の時に、二偵も俺たちと一緒にだいぶ暴れてませんでしたっけ?」


 数ヶ月前の記憶を頭の中から引っ張り出し、川上に自分の記憶を伝える。


「アイツらも暴れてたけど、それ以上に僕たちが暴れ過ぎたんだよ。アイツらに作戦が終わったあと、暴れすぎだって愚痴言われたよ……」


 二偵の隊長に言われた愚痴を思い出してしまい、急いで頭を振って嫌な記憶を忘れる。

 札幌隊の中では、一偵と二偵は第一空挺団の隊員達と同じぐらいに怖がられているのだが、本人たちは至って真面目に任務をこなしているだけである………筈だ、多分。

 そんな事を話していると、正面からヘリコプター5機編隊が再び姿を現したのだが………


「なーに、やってんだアイツらは?」


 きっと、この光景を見た自衛隊員ならば絶対にそう思うだろう…………多分1人を除いて。

 彼らが目にしたのは、チヌーク2機の周囲をくるくると旋回して飛ぶ3機のゴブラ、ではなく。中心のチヌークのいつの間にか開け放たれている後部ハッチから吊るされている、巨大な旭日旗きょくじつきだった。

「どこから持ってきたんでしょうね?あの、大きさとなると無断で、という訳には行かないでしょうし」

 まだ離れているであろうに、はっきりと視認できる大きさがあり、民衆の目もそちらに釘付けとなっていた。

「きっと、高谷1佐が許可出したんだよ。あの人ならこういう事やりそうだし」

 自分達の───札幌隊のトップであり、何本か頭のネジが外れている上司の顔を思い出す。

「あぁー、あの人ですか。なんか、すごいやる気なさそうな雰囲気出してますけど、ほんとに強いんですか?」

 そう言うのは、川上の部下の1人──上坂こうさか2等陸曹。
 政府が自衛隊の人員補強政策を始めた最近では、特に珍しくも無くなってきた女性自衛官(WAC)だ。
 ちなみに、現地人との接触も考えられいるため、普通の部隊より少し多いが、第一偵察戦闘隊の凡そ3分の1はWACが占めている。
 

「あぁ、あの人は間違いなく達人の域に居る化け物だ。あの人を一目見た瞬間に勝てないと悟ったよ」

「噂では、あの人は今回呼ばれるまで自衛隊の名簿から消えていたらしいですよ」


 その言葉の意味が指すのは───


「───特戦か。そりゃ勝てるわけないわな」


 川上の独り言が思わず漏れてしまい、急いで周囲を確認する。幸いにも、関係者以外には誰にも聞かれていなかったらしい。


 そんなこんなで、民衆の歓迎を受けながら王城へと向かうこと20分。ようやく、今回の使節団の目的地であるユグ・シルドア王国の王城へと案内される事となった。
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