Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋

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第一章 突入

3, 出発

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  ───同年 4月10日 正午 

 自衛隊異界方面総合作戦部隊、ローツ駐屯地から、外務省の職員等を乗せたEC-225LP 特別輸送ヘリコプター1機と、必要な物資を乗せたCH-47JA 輸送ヘリコプター4機。
 更にそれに加えて、前述の2機の護衛の名目で、AH-1S 対戦車ヘリコプター───通称ゴブラの3機を含めた、8機編隊が使節団としてユグ・シルドア王国の王都へと飛び立って行った。

 使節団の王国派遣が決定した当初は、ゴブラ3機の派遣は計画に含まれていなかった。
 しかし、高谷一佐によるゴリ押しにより、使節団の護衛というでの同行が許可された。

 しかし、護衛と言うのは建前であり、ゴブラ3機派遣の本当の目的は、ユグ・シルドア王国への示威行為を行うためだ。


「2度にわたる周辺地域の偵察活動により、この世界の──最低でもシルドア王国の──軍事力の水準がとても低いことが分かったのは、みんなも知っているだろ。だからこそ、使節団にゴブラ3機を同行させることで、相手国に我が国との軍事力の差を見せつけ、我が国に対して武力行使を行うのは困難だと理解させることが出来る。それによって、我々も余計な戦闘を避けることもできる。正に一石二鳥だな」

 と言うは、会議での高谷一佐の発言である。

 この提案は、高谷の上司に当たる異界方面隊の隊長も渋々ながら「余計な戦闘避けるためなら……」と、戦闘は絶対に行わないとの条件付きで許可を出し、今に至る。


『異界』に存在する国との初接触となり、後の歴史にその名を刻むこととなる使節団───シルドア使節団。その団員数は3人。
 人数が少ないのは仕方がない。外務省も人員不足なのだ。
 しかし、その分団員の質は選りすぐりのベテラン達だ。


───シルドア使節団メンバー

 シルドア使節団代表  水谷 純一みずたにじゅんいち
 副代表 柳井 昌平やないしょうへい
 異界方面隊代表 鍋島 煌鬼 2等陸佐

                 以上3名──── 


 水谷と柳井は、今回の使節団派遣決定の報を受け、外務省が急遽招集した優秀な人材だ。

 水谷は、外務省勤務なんと今年で15年目になる大ベテランだ。
 今回の招集前は、欧州局ロシア課で露との外交を行っていた。
 その補佐役の柳井も勤務10年目になるベテラン職員だ。彼の招集前の部署は、アジア太平洋局北東アジア第一課で、主に韓国との竹島の領土問題を担当していた。

 2人とも、外交の最前線で積み重ねてきた経験を買われ、今回新設された部署───異界局ローツ第一課に異動となった。

 そして、高谷の側近───鍋島の同行は、これも高谷の『2人じゃ少ないから』と言うゴリ押しで決まった。

「はぁ。相変わらず人使いが荒いな、アイツは」

 ため息が思わず出てしまうのも仕方がないのだろう。彼はこちらに来てから、ブラック企業も真っ青なブラック労働を続けていた。

 下から挙がってくる報告書をまとめて、上に報告する書類を書く。
 逆に上から来た指示を下に伝え、指示を出す。
 そんな事を、ここ3日は続けていたため殆ど寝ていないのだ。

 しかし、高谷も同等かそれ以上のタスク量をこなしているので、上司である彼が一概にも悪い訳では無い。それどころか、こうして外に出る機会をくれたのだ、高谷には感謝している。
 しかし、頭のネジが数本飛んでる上司の愚痴を、少しくらいは吐いてもバチは当たらないよね?と思ってしまう鍋島であった。

 その声は、同じヘリの隣に座っていた水谷と柳井にも聞こえていたが、彼らは自衛隊の特に幹部のブラックさを知っているため、苦笑いを浮かべて聞こえなかったことにするしかできなかった。


 
 離陸からおよそ40分後。
 使節団を乗せたヘリとその護衛ヘリの8機編隊は、王都郊外の平原に着陸していた。

 着陸後、ヘリから使節団の面々が降りると、ひとつの馬車の扉が開き、一人の男が降りてきた。
 その男は、彼らの前に来ると恭しく礼をして、名乗った。

「お初にお目にかかります、日本国の使者の皆様。私は、ユグ・シルドア王国で外務大臣を務めさせて頂いております、アトリ=ルシファーと申します」

 いきなり出てきた男が外務大臣を名乗り、さらに頭を下げられ使節団の全員が少し動揺するも直ぐに姿勢をただし、挨拶を返す。

「これは、丁寧な挨拶ありがとうございます、アトリ殿。初めまして、今回の使節団の代表を任されております、水谷と申します」

「副代表の柳井です」

「自衛隊異界方面札幌隊副隊長の鍋島です」

 水谷の自己紹介に続くように、使節団の面々も名乗っていく。

「私たちの国は、貴方の国との対等な関係を望んでいます。丁寧な対応は、とてもありがたいのですが、もう少し力を抜いてもらってもいいですよ?」

 その言葉に男───外務大臣アトリは少し安心したのか、先程まではガチガチだった表情が少し和らいだ気がした。

「ありがとうございます。そうですね、そう言っていただけると嬉しいです。早速案内したいのですが……後ろにいる彼等はどうしますか?」

 アトリはそう言って、輸送ヘリコプターから荷物を下ろしている隊員たちに目線を送る。

「あぁ。彼らは私たちの後ろを追ってもらうので大丈夫ですよ」

「そうですか、分かりました。では……案内のものを何人か付けましょうか?」

 水谷の答えに少し思案したあと、アトリはそう提案してきた。

「……そうですね。では、お願いしても宜しいでしょうか?」

 何か思いついたのか、鍋島と目を合わせ頷いた。

「はい!では……リナ!お前に任せる。もう1人、適当に誰か選んで連れてこい!」

 リナと呼ばれた、まだ若い少女は元気に返事をしてどこかへ去っていった。

「なるほど。それでは、こちらは……川上くん!」

 鍋島に川上と呼ばれた──こちらもまだ若い少年の隊員が、移動させていた荷物をほかの隊員に任せ、走ってきた。

「はい!なんでしょうか?」

「君に今から来る案内役の子のサポートをお願いしたい」

「分かりました!車両はヘリに乗ってる高機動車でいいですよね?」

 彼は、元気に返事をして鍋島に確認を取る。

「あぁ、構わない。らに存分に車の旅を楽しませてやれ」

「え……女性の方ですか?」

 鍋島の言葉に驚いたのか、さっきまでの元気な返事が出ていなかった。

「女性では不満か?」 

「いえ!全く問題ありません!」

「そうか、頼むぞ」

「はい!」

 そんな上司の言葉に、直ぐに姿勢をただし元気な返事で去っていった。その背中はどこか、いつもより元気が良いように見えた。

「男はやっぱ単純だよね」

 少し悪い笑みを浮かべた鍋島の呟きに、柳井が反応した。

「なぜ彼なのです?」

「ずっと男ばかりの所にいたんだ、女が来ると分かれば、やる気も出るだろうよ」

 その言葉に、柳井は何かを察したのかこれ以上は追求しなかった。それどころか、少しニヤニヤしていた。
 そんな2人を水谷は呆れた顔で見ていた。

「それでは、馬車に案内しますね」

 そんな事をしているとアトリに呼ばれ、使節団は馬車へと乗り込み、王都へと出発して行った。
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