砂漠の剣闘士

七海琴音

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希望

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 デリーゲレの死後、シリア属州はようやく息をついた。新たな総督は、民衆に笑顔を取り戻させようと努めた。ローマ帝国はクレストゥス教を公認し、迫害の時代は終わりを告げた。
 反乱軍は、自由を求める者たちの集まりとして、新たな章を迎えようとしていた。
 かつて一つの目標に向かって団結していた反乱軍は、デリーゲレの死後、その内部に深い亀裂が生じた。
 ローマ帝国との和平を望む穏健派と、徹底的にローマ帝国と戦うことを主張する強硬派に分裂し、それぞれの道を選ぶことになった。
 ハイダルとナディムは、こうした反乱軍内の対立を目の当たりにし、自分達の進むべき道を決断した。ローマ帝国の支配から完全に離れ、自由な生活を送るために、砂漠へと旅立つことを選んだ。
 ハイダルとナディムはルキウスやゼノ達反乱軍と別れ砂漠へと向かった。
 
 夕陽が砂漠を赤く染める中、ハイダルとナディムは駱駝に乗り、ゆっくりと歩き始めた。かつて共に戦った仲間達の姿は、もうそこにはなかった。別れは寂しかったが、二人は未来への希望に胸を膨らませていた。広大な砂丘が続く風景は、まるで人生そのもののように感じた。彼らは、この砂漠で自分たちの新たな物語を紡いでいくつもりだった。
 方角を決めるため二人は一旦駱駝から降りた。

「ハイダル、どこに行こうか?」
「お前の故郷に帰りたい。」
「それは…!」
「ナディム、お前の家族の一員になりたいんだ」
 ナディムの瞳には、涙が光り輝いた。
「きっと母も兄も喜ぶ。」
「これを渡そう。」
 ハイダルは父からの指輪をナディムの指に嵌めた。
「これが俺の故郷、そして大切なもの。それはお前だ。」
 ハイダルはナディムに口付けを落とした。
 ナディムは感動し、ハイダルを抱きしめ涙を流した。
 二人は晴れて運命共同体となった。

「さぁ、行こう。私達家族のもとへ。」
「あぁ、俺達二人ならどんな困難も乗り越えよう。」

 二人は駱駝に乗り込み、再び旅を始めた。
 夕日が二人の門出を祝うように、優しく照らしていた。
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