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「それで? 例の作戦は成功したの?」

 綺麗に巻かれた髪を指に絡める。その爪もまた、ピンク色で綺麗に塗られている。彼女は隣のクラスの羽田 真澄はねだ ますみ。あたしの大親友だ。

「もちろん! 大成功だった!!」

 思い出しただけでも、まだドキドキする 。

「うそ! ホントに!?」

「すんげー格好いい王子様だったぜ」

「あたしも行けばよかったー! 絶っっっ対にムリだって思ってたから」

 なんて失礼なやつ。

「相手の見た目は?」

「見た目は……金髪でサラサラヘアー。絵本に出てくる王子様そのもの」

 なんせ馬に乗ってたしな。

「馬に? なんで?」

「さぁ? 好きなんじゃね?」

「ま、まぁいいわ……で、年はいくつ?」

「知らね。あ! でも、通学中って言ってたから……たぶん学生」

「馬に乗って通学……ますます謎ね。で、彼女はいるの? いないの?」

 そこが最大のポイントだと、真澄が鼻息荒く聞いてくる。

「う~ん、分からん。てか、あたし王子様と話ししてないんだよな。緊張しちゃって」

「はぁ? 何よそれ! そんなとこで乙女感だすんじゃないわよ! 王子様見つけたって彼女がいたら意味ないでしょ!」

 ごもっとも。ちゃんと聞いときゃ良かったなー。

「放課後逢いに行くから、そん時ちゃんと聞く!」

「え? デート!? 話ししてない割にはちゃっかりしてるわね」

「違う。デートじゃなくて、お詫びのしるしにケーキ奢ってくれる」

 星夜とあたしに。なんで星夜も一緒なのか分からないけど。

「てか、星夜どこ行った? あたし腹が減って死にそうなんだけど」

 さっきからF1のエンジン並に音を立ててる腹を抑えながら、下僕を探す。

「星夜くんなら、さっき呼び出されたわよ。3組の井手いでマリコに」

「井手……?」

「あんたの下駄箱にヘドロを詰め込んだ女よ。ほら、あんたにしつこく付きまとってた剣道部の先輩と付き合ってた!」

 あたしのせいで先輩と別れるはめになったとかほざいてた、プチ整形の女か。あのヒステリー女のせいで下ろし立ての上履きが、見るも無惨な姿になってたんだよな。

「おかえしに、机いっぱいにトミ江のふんを詰め込んでやった時は最高だったな!」

「あの真夏の異臭事件は、3組の間じゃ伝説になってるわ」

 やられたら完膚なきまでにやり返す、それがモットー。校舎裏で大事に育ててる豚のトミ江の糞を集めに、夜中に忍びこんだっけ。

「で、なんで星夜が呼ばれたんだ? ヤキでも入れられんの?」

「あんたいつの時代を生きてんのよ? バカね~! 女に呼び出されたら話しは一つしかないでしょ? 告白に決まってんじゃない!!」

「告白~? 誰が?」

「井手がよ」

「誰に?」

「星夜くんよ! 言っとくけどね、彼すごくモテるんだから。うちの高校もそうだけど、近隣の女子からだって狙われてるんだからね?」

 星夜がモテるだと……! 目から鱗どころか魚本体が飛び出してきそう!

「おかしい! 世間はおかしすぎるぞ!! あの泣き虫星夜が、あたしを差し置いてモテるなんて──!!」

「あんただけよ、星夜くんのこと眼中にないのは。……いや、近すぎて意外と見えてないのかしら?」

「なになに? 何の話し?」

 噂をすればなんとやら。暢気な顔した色男のお帰りだ。

「星夜、お前告白されたんだってな?」

「うん、そうだよ」

 それがなにか……なんて、とぼけた顔がムカつくぜ。

「で、付き合うのか?」

「あれ?伊織ちゃん、もしかして気になる?」

「べ、別に! き、きになんかしてねーよ!」

 下僕が誰と付き合おうが、あたしの知ったこっちゃねー。

「ふ~ん……じゃ、教えな~い」

「なっ!?」

 なんて生意気なヤツ! すました顔して弁当まで食べ始めやがって。……てか、あたしも真澄も、てめー待ちだったんだぞ? なに勝手に食べてんだよ!

「おい、せい」
「こらァ、姫川ァ!!」

 あるじとして、ここは一発ガツンとなんて思ってたら、

「また問題起こしやがって!! N高から抗議の電話があったぞ!!」

我らが担任、大熊 三郎おおくま さぶろうの姿が。

「『うちの生徒をボコボコにしたあげく、亀甲縛りにして道端に放置した』って、電話口で怒鳴られたわ!」

 チッ、そんなんで一々抗議なんかしてくんじゃねーよ。

「この前、先生の車にうんこの絵を描いて怒られた時に誓ったよな? もう悪さはしないって? あれ吉永先生に見られて笑われた時、先生すごく恥ずかしかったんだからな!」

「あんた女子の癖して、なんてことしてんのよ?」

「伊織ちゃんの頭ん中、男子小学生並だから」

「悪さじゃねーよ! 今回のは、ちゃんとした理由があるんだよ!」

「ほう……どんな理由だ。言ってみろ?」

「カツアゲされてた亀(着ぐるみ)を助けてやったんだよ。アイツらノロマとか何とか言って3人で虐めてたから、亀甲縛りにしてやったら少しは亀(着ぐるみ)の気持ちが理解出来んだろーと思って」

 人助けならぬ、亀助け。ただ、血反吐吐くまでボコボコにしてる最中に、ビビった亀(着ぐるみ)は走って逃げてったけど。

「な? ちゃんとした理由だろ?」

「そうかそうか……よぉぉぉ~く、分かった!」

「ホントに? じゃあ、お咎めなし?」

 かめだけに、なんちって。

「んなわけェ……あるかぁぁー!! 今から職員室で30分正座ァ!!」

「なんでだよ! あたし悪くねーぞ!」

「嘘をつくなら、もうちょっとマシな嘘をつけ!どこの世界に街中で亀から金巻き上げるヤツがいるんだ!! ほら、来い!!」

「痛ってーな、腕引っ張んじゃねぇ、三郎! それでも教師かよ? 生徒を疑うなんて最低だぞ!!」

「教師に向かってなんたる口の利き方!! もう、昼休み中正座の刑だ!!」

 そんな! それじゃあ昼メシは? 今日は大好きなハンバーグなのに!

「おい、お前ら助けろ!」

 親友と下僕に助けを求めるが、

「頑張ってね~」

「5限目は音楽だから、忘れずに音楽室に来るんだよ?」

あっさり見捨てられた。

「てめーら、覚えてろよ!!」

 こうして恒例行事と化した職員室へと引きずられて行った。














「黙ってたら、本っっっ当に美少女なのにね。もったいない」

「でも、それじゃあ伊織ちゃんじゃなくなっちゃうからね。個性が死んじゃうし」

「個性って言うのかね、アレは。……で、それはそうと、いいの?」

「何が?」

「分かってるくせに~、とぼけちゃって。王子様よ、伊織が言ってた」

「あぁ! あの馬に乗った!」

「その変人が伊織の王子様になったら、星夜くんどうするの?」  

「別に、どうもしないよ」

「またまた~、裏で伊織あのこに興味を持つヤツら全員、あなたがシメてたの知ってるんだからね?」

 あの剣道部の先輩も。伊織を襲おうと計画していた先輩の利き手、へし折ったことも。二度と竹刀握れなくなって結局、学校辞めたっけ。

「あれ? バレちゃってた?」

「ざまぁみろって、あたしはスッキリしたけど」

 相手にされないからって、無理強いする男はカス以下だし。

「……俺はね、伊織ちゃんの王子様には絶対になれないんだよ」

──いいかセイヤ、あたしがおまえをいっしょうまもってやる!!

「俺はいつまで絶っても、伊織ちゃんに守られ続ける存在だからね」

「星夜くん、あなた──」

 なんて目をしてるの。

王子様それに俺がなれないんだったら、他のヤツにも、その役は絶対渡さない。どんな手を使ってでも捻り潰す」

「……そう。あたしには関係ないから好きにしたら? ただし、伊織あのこを泣かせるような事があったら、あたしはあなたを許さないから」

 大事な親友ですもの。彼女の涙は見たくない。

「肝に銘じます。でも心配しないで、伊織ちゃんだけは泣かせたりしないから。だって俺の命だもん」

 これがヤンデレってヤツね。あたしの親友も大変な男に好かれたものだわ。

「伊織を監禁したりしないでね? ふたりに逢えなくなるのはイヤだから」

「あはは、なに言ってんの! 面白いね、真澄ちゃん」

 否定はしないのね。まぁ、いざとなったらあたしも乗り込んで、一緒に住んでやるけど。

「話し戻るけど、その金髪王子は伊織の王子様になりそう?」

「いや、ならないよ」

「あら? すごい自信、なんで?」

「白馬がインパクトありすぎて忘れてたけど……俺、彼のこと知ってる」

 そう言ったっきり何も教えてくれない。けど彼が言うなら心配ないわね。

「放課後、会いに行くんでしょ? 物語の結末はちゃんと教えてね」

「りょーかい」

 笑った星夜くんの顔が、まるで悪事を企む魔王みたいだったことは、ナイショ。
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