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第2章 呪われし者
Stray kitten
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「約束の時間まで4時間ちょっとか……」
ハチドリと別れ東区へと戻って来たが、ホテルへ向かうには時間が早すぎる。
「一度、事務所に帰ろうか……」
事務所があるビルからホテルまでの距離はそう遠くない。そうと決まればと歩きだした時、横道から走ってきた一人の少女とぶつかった。
「うわっ!?」
とっさに腕を掴んで引き寄せたので、転倒は避けられた。犬飼は少女に大丈夫かと尋ねる。
「……ゴメンナサイ。よそ見してて気づかなかったの」
長い髪に青いリボンをつけ水色のワンピースと、その装いは実に女の子らしい。こぼれ落ちそうなほど大きいモスグリーンの瞳が見上げてくる。
「そんなに急いでどうしたんだい?」
年齢は10才くらいだろうか、こんな人気のない場所に一人でいるなんて。狼子と同じ銀色の髪を指に巻きながら、少女はこう答えた。
「パパを探してるの」
少女の話しによると、父親に用事が入りどこかへ行ってしまったらしい。その際、車で待つようにと指示されたが、なかなか帰って来ない父親にしびれを切らし探すため、運転手の制止を振り切って飛び出してきた。
「そっか……迷子か」
犬飼は辺りを見回した。ここいらの路地裏は複雑迷路のようで、まだ彼自身も道に慣れていない。
「どこから来たか分かるかい?」
「う~ん……分かんない」
少女が首を横に振る。これは困った。
「お父さん、今ごろ探してるよな……」
しかし下手に動けば、かえって状況を複雑にしかけない。
(どうしよう……)
悩む犬飼とは対照的に、少女の方はやけに落ち着いている。
「君、名前は?」
「子猫!」
「年はいくつだい?」
「9才!」
(狼子さんの子どもの頃って、こんな感じなのかな……)
綺麗に切り揃えられた前髪と色のせいだろうか、顔のパーツはさほど似ていないのに、なぜだが目の前の少女が、狼子と被って見えた。
(ここで悩んでても仕方ないか……とりあえず、)
「キティちゃん、一緒にパパを探そうか」
「うん!」
少女の前に手を差し出す。すると彼女の小さな手が繋がれた。
「とりあえず、向こうに行ってみよう」
迷子の子猫ちゃんと、元犬のおまわりさんは歩きだす。父親を探して。
◇
「──で、巣へ来たと?」
「はい……。かれこれ一時間探したんですけど、人っこ一人見当たらなくて」
このままじゃ犬飼が迷子になると、キティを連れハイエナの元にやってきた。
「うちは託児所じゃねーぞ? てか、あんたのとこ連れてきゃいいじゃねーかよ」
巣の下の階に事務所があるのだからと、歩き疲れてソファーで眠っているキティに目をやる。
「いやそれが、あちこちに書き置きを残して来たんだよね」
にっちもさっちもいかなくなり途中でペンと紙を購入した犬飼は、『ハイエナの巣で娘と待つ』そう書き記して至るところに貼ってきた。もしかしたら、キティの父親が見つけてくれるかもしれないと期待を込めて。
「はぁ!? だから何で俺の店なんだよ!!」
「実を言うと……あと2時間ちょっとしたら仕事に行かなきゃならなくて」
事務所に少女一人残しては行けない。
「でも巣なら、安心して任せられると思って!」
ならば同じビルのよしみで、信頼できるハイエナに頼もうと連れて来た。
「なら仕方ねーな……って、なるかボケェ!! あんた、俺に恨みでもあんのか!?」
「えぇ~! ダメなの~?」
まさか断られるとは……ショックを受ける犬飼。
「ダメ! 絶対に!!」
そもそも自分が引き受ける前提の思考回路に、ハイエナもまた衝撃を受けた。
「てかホントに迷子なのか? ただ捨てられただけじゃねーの?」
「そんな酷いこと!」
「だってよー、普通だったら娘がいなくなりゃ必死こいて探し回るだろ?いくらソイツが車から飛び出したって運転手に捕まるだろ?9才の足の早さに、大人が負けるわけねーんだから?」
一理ある。もしかしたら……そんな不安が頭を過った。
「どどどど、どうしよう!? け、警察! 警察に連絡した方がいいのかな!?」
「落ち着け、てか警察はあんた」
元だけど。慌てる犬飼を宥めながら、ハイエナは助言する。
「たぶんソイツは本国から来たと思うから、ゴリラ女の親父に頼んで送り帰してもらえ」
「……なんでこの子が本国の子って分かるの?」
「そりゃソイツの服を見れば分かんだろ?そんな高級な服着てるやつ、rebirthにいるわけねーじゃん」
どこかの政治家か資産家の隠し子だろう。配偶者や世間に子どもの存在がバレそうになり、抹消するため連れて来られたのだとハイエナは推測した。
「IDなりDNAなり調べりゃ分かるから、何とかしてもらえよ?」
政府の仕事を受ける代わりに、雅家の当主の頼みを政府も断ることは出来ない。両者は、持ちつ持たれつの関係なのだから。
「そういえば、前にハイエナくん言ってたよね?」
──もともと雅家の為に造られたんだよ。rebirthはな
「あれって……どういう意味?」
聞きそびれた言葉の真意を問う。
「そういや話してなかったっけ……。ま、いいや教えてやるよ。何百年も前に移民たちが施設へ送られた本当の理由」
ハイエナは語りだした。真の歴史を。
──それは、雅家を抹殺するためだ
ハチドリと別れ東区へと戻って来たが、ホテルへ向かうには時間が早すぎる。
「一度、事務所に帰ろうか……」
事務所があるビルからホテルまでの距離はそう遠くない。そうと決まればと歩きだした時、横道から走ってきた一人の少女とぶつかった。
「うわっ!?」
とっさに腕を掴んで引き寄せたので、転倒は避けられた。犬飼は少女に大丈夫かと尋ねる。
「……ゴメンナサイ。よそ見してて気づかなかったの」
長い髪に青いリボンをつけ水色のワンピースと、その装いは実に女の子らしい。こぼれ落ちそうなほど大きいモスグリーンの瞳が見上げてくる。
「そんなに急いでどうしたんだい?」
年齢は10才くらいだろうか、こんな人気のない場所に一人でいるなんて。狼子と同じ銀色の髪を指に巻きながら、少女はこう答えた。
「パパを探してるの」
少女の話しによると、父親に用事が入りどこかへ行ってしまったらしい。その際、車で待つようにと指示されたが、なかなか帰って来ない父親にしびれを切らし探すため、運転手の制止を振り切って飛び出してきた。
「そっか……迷子か」
犬飼は辺りを見回した。ここいらの路地裏は複雑迷路のようで、まだ彼自身も道に慣れていない。
「どこから来たか分かるかい?」
「う~ん……分かんない」
少女が首を横に振る。これは困った。
「お父さん、今ごろ探してるよな……」
しかし下手に動けば、かえって状況を複雑にしかけない。
(どうしよう……)
悩む犬飼とは対照的に、少女の方はやけに落ち着いている。
「君、名前は?」
「子猫!」
「年はいくつだい?」
「9才!」
(狼子さんの子どもの頃って、こんな感じなのかな……)
綺麗に切り揃えられた前髪と色のせいだろうか、顔のパーツはさほど似ていないのに、なぜだが目の前の少女が、狼子と被って見えた。
(ここで悩んでても仕方ないか……とりあえず、)
「キティちゃん、一緒にパパを探そうか」
「うん!」
少女の前に手を差し出す。すると彼女の小さな手が繋がれた。
「とりあえず、向こうに行ってみよう」
迷子の子猫ちゃんと、元犬のおまわりさんは歩きだす。父親を探して。
◇
「──で、巣へ来たと?」
「はい……。かれこれ一時間探したんですけど、人っこ一人見当たらなくて」
このままじゃ犬飼が迷子になると、キティを連れハイエナの元にやってきた。
「うちは託児所じゃねーぞ? てか、あんたのとこ連れてきゃいいじゃねーかよ」
巣の下の階に事務所があるのだからと、歩き疲れてソファーで眠っているキティに目をやる。
「いやそれが、あちこちに書き置きを残して来たんだよね」
にっちもさっちもいかなくなり途中でペンと紙を購入した犬飼は、『ハイエナの巣で娘と待つ』そう書き記して至るところに貼ってきた。もしかしたら、キティの父親が見つけてくれるかもしれないと期待を込めて。
「はぁ!? だから何で俺の店なんだよ!!」
「実を言うと……あと2時間ちょっとしたら仕事に行かなきゃならなくて」
事務所に少女一人残しては行けない。
「でも巣なら、安心して任せられると思って!」
ならば同じビルのよしみで、信頼できるハイエナに頼もうと連れて来た。
「なら仕方ねーな……って、なるかボケェ!! あんた、俺に恨みでもあんのか!?」
「えぇ~! ダメなの~?」
まさか断られるとは……ショックを受ける犬飼。
「ダメ! 絶対に!!」
そもそも自分が引き受ける前提の思考回路に、ハイエナもまた衝撃を受けた。
「てかホントに迷子なのか? ただ捨てられただけじゃねーの?」
「そんな酷いこと!」
「だってよー、普通だったら娘がいなくなりゃ必死こいて探し回るだろ?いくらソイツが車から飛び出したって運転手に捕まるだろ?9才の足の早さに、大人が負けるわけねーんだから?」
一理ある。もしかしたら……そんな不安が頭を過った。
「どどどど、どうしよう!? け、警察! 警察に連絡した方がいいのかな!?」
「落ち着け、てか警察はあんた」
元だけど。慌てる犬飼を宥めながら、ハイエナは助言する。
「たぶんソイツは本国から来たと思うから、ゴリラ女の親父に頼んで送り帰してもらえ」
「……なんでこの子が本国の子って分かるの?」
「そりゃソイツの服を見れば分かんだろ?そんな高級な服着てるやつ、rebirthにいるわけねーじゃん」
どこかの政治家か資産家の隠し子だろう。配偶者や世間に子どもの存在がバレそうになり、抹消するため連れて来られたのだとハイエナは推測した。
「IDなりDNAなり調べりゃ分かるから、何とかしてもらえよ?」
政府の仕事を受ける代わりに、雅家の当主の頼みを政府も断ることは出来ない。両者は、持ちつ持たれつの関係なのだから。
「そういえば、前にハイエナくん言ってたよね?」
──もともと雅家の為に造られたんだよ。rebirthはな
「あれって……どういう意味?」
聞きそびれた言葉の真意を問う。
「そういや話してなかったっけ……。ま、いいや教えてやるよ。何百年も前に移民たちが施設へ送られた本当の理由」
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