11 / 40
第1章 犬と狼
ハイエナの巣 2
しおりを挟む
「何しに来やがった! このゴリラ女ッ──!!」
狼子の姿を見た途端、カウンターを蹴って飛び出しす。
「てめえにやられた頭の責任取りやがれェ──!!」
そのままの勢いで一蹴りを喰らわせようと足を振り下ろした。
──ヒョイ、
「お前が勝手に突っかかってきたんだろ?」
頭に巻かれた包帯が何とも痛々しい。だがそんなこと気にも留めない。
「……避けてんじゃねぇよ!!」
「避けなきゃ当たるだろ?」
着地した少年は、しゃがんだ体勢からボディを狙おうと小さく縦に振り上げたが、
──バシッ!
その重い拳を平然とした顔で受け止められた。
「な、離せ! くそ女ッ!!」
「避けるなって言ったり離せって言ったり……うるさい男だな?」
「いたたたたた! 痛い痛い痛い……って!!」
掴まれた拳に力を込められ少年が喚く。あの繊細そうな手のどこからそんな力が湧くのか。
「…いッッ、てぇな、チクショーー!!」
痛みに耐え拳を勢いよく引き寄せる。そのことで狼子の体勢が一瞬だけ崩れた。ここぞとばかりに空いていた左手に力を込めると、彼女の横っ面めがけてパンチを繰り出したが、
「く、たばれ……ご──!?」
拳は空を切った。少年の右拳から手を離しすぐさま体を反転させ腕を持ち直すと、襟首を掴み引き付け体ごと巻き込むように彼を投げ飛ばした。
──ガッシャーァン!!!!
投げ出された体は宝石類が飾られたガラスケースに激しく衝突する。飛び散った破片が辺りに散乱し、頭から地面に崩れ落ちた。その間わずか十秒足らず。二人の戦闘を唖然として見ていた犬飼は我に返り、慌てて止めに入った。
「な、なにやってるんですか!? 相手はまだ子どもですよ!!」
「そいつが先に手を出してきたんだ」
自分は悪くない。腰に手を当て動かない少年を見下ろす。
「……大丈夫かい?」
「……うっせぇ……」
寝転がる姿になんだか既視感を覚える。衣服に刺さったガラスの破片を一つ一つ抜きながら、彼に話しかけた。
「君もダメだよ? か弱い女性にいきなり襲いかかるなんて?」
「……『か弱い』? ……なんだか幻聴が聞こえたけど、おっさん今あのゴリラ女のこと『か弱い』って言わなかったか?」
ガバッと起き上がった少年は、犬飼の襟首を勢いよく掴む。
「それだけ動けたら大丈夫だね。」
昨夜といい今といい、けっこう打たれ強い少年に感心した。
「なにニッコリ笑ってんだよ! ──いやいや、それよりもあのゴリラがか弱いってなんだよ!! さては目ん玉腐ってんのか!?」
「こら! あんな綺麗な女性に向かってゴリラなんて失礼でしょ?」
「ゴリラにゴリラって言って何が悪い!! ……見て俺を!ズタボロのこの姿を!! そして見て狼子を! 一つも怪我してないよね!?」
そう叫ばれ犬飼は二人を交互に見る。そして、
「……女性が顔や体に怪我なんてしたら大変だもんね」
何故か顔を赤らめた。
(こいつ……やべーわ)
いろんな意味で。少年にとって犬飼との出逢いは未知との遭遇だった。
◇
「……で、用件は?」
どっと疲れた。犬飼のおかげで。ガラスの破片を集めている犬飼を横目に、少年こと店主であるハイエナが狼子に尋ねた。
「こいつを探してる」
マリアの写真を見せた。もしかしたら彼女のブローチがここへ流れているかもしれないと。
「……知らねぇな。まだうちには来てないぜ」
それを手に取りじっくり見るが、覚えがないと首を横に振る。
「本当に!? ──狼子さん!!」
それは彼女が生存している確率がまだ残っているということ。最悪の事態を覚悟していた犬飼にとっては何よりの朗報。
「ハイエナ、もしこれが流れてきたら連絡をくれないか?」
番号を記した紙を手渡す。
「別にいいけどよ……その前に何かあんだろ?」
「なんだ? 報酬か?」
キョトンとした表情の狼子が首をかしげる。
「いやいやいや、違うから! ……いや違わないけど。報酬はもらうけど、それよりもアレどうすんだよ!!」
無惨に散らばった宝石類の数々と粉々のショーケース。
「ちゃんと弁償しろよな!」
「何故だ? お前が突っ込んで行ったんだろ?」
「お前が投げたからだろうが!?」
ぎゃあぎゃあと喚くハイエナ。放っておいたら一生喚きそうだと、うんざりした様子の狼子は仕方なく折れる。
「わかったわかった……雅家に請求しろ。だからブローチの件必ず連絡しろよ?」
店主に念押しすると、犬飼に向かって『行くぞ』と声をかける。
「あ、はい! えっと……それじゃ、またね!」
箒と塵取りを手渡し彼女の後を追った。受け取った道具と全然片付いていない部屋を眺めて一言。
「──ぜってーいつか殺すからな!!」
怒りに燃えるハイエナの叫びは二人には届かず、むなしく響くだけだった。
狼子の姿を見た途端、カウンターを蹴って飛び出しす。
「てめえにやられた頭の責任取りやがれェ──!!」
そのままの勢いで一蹴りを喰らわせようと足を振り下ろした。
──ヒョイ、
「お前が勝手に突っかかってきたんだろ?」
頭に巻かれた包帯が何とも痛々しい。だがそんなこと気にも留めない。
「……避けてんじゃねぇよ!!」
「避けなきゃ当たるだろ?」
着地した少年は、しゃがんだ体勢からボディを狙おうと小さく縦に振り上げたが、
──バシッ!
その重い拳を平然とした顔で受け止められた。
「な、離せ! くそ女ッ!!」
「避けるなって言ったり離せって言ったり……うるさい男だな?」
「いたたたたた! 痛い痛い痛い……って!!」
掴まれた拳に力を込められ少年が喚く。あの繊細そうな手のどこからそんな力が湧くのか。
「…いッッ、てぇな、チクショーー!!」
痛みに耐え拳を勢いよく引き寄せる。そのことで狼子の体勢が一瞬だけ崩れた。ここぞとばかりに空いていた左手に力を込めると、彼女の横っ面めがけてパンチを繰り出したが、
「く、たばれ……ご──!?」
拳は空を切った。少年の右拳から手を離しすぐさま体を反転させ腕を持ち直すと、襟首を掴み引き付け体ごと巻き込むように彼を投げ飛ばした。
──ガッシャーァン!!!!
投げ出された体は宝石類が飾られたガラスケースに激しく衝突する。飛び散った破片が辺りに散乱し、頭から地面に崩れ落ちた。その間わずか十秒足らず。二人の戦闘を唖然として見ていた犬飼は我に返り、慌てて止めに入った。
「な、なにやってるんですか!? 相手はまだ子どもですよ!!」
「そいつが先に手を出してきたんだ」
自分は悪くない。腰に手を当て動かない少年を見下ろす。
「……大丈夫かい?」
「……うっせぇ……」
寝転がる姿になんだか既視感を覚える。衣服に刺さったガラスの破片を一つ一つ抜きながら、彼に話しかけた。
「君もダメだよ? か弱い女性にいきなり襲いかかるなんて?」
「……『か弱い』? ……なんだか幻聴が聞こえたけど、おっさん今あのゴリラ女のこと『か弱い』って言わなかったか?」
ガバッと起き上がった少年は、犬飼の襟首を勢いよく掴む。
「それだけ動けたら大丈夫だね。」
昨夜といい今といい、けっこう打たれ強い少年に感心した。
「なにニッコリ笑ってんだよ! ──いやいや、それよりもあのゴリラがか弱いってなんだよ!! さては目ん玉腐ってんのか!?」
「こら! あんな綺麗な女性に向かってゴリラなんて失礼でしょ?」
「ゴリラにゴリラって言って何が悪い!! ……見て俺を!ズタボロのこの姿を!! そして見て狼子を! 一つも怪我してないよね!?」
そう叫ばれ犬飼は二人を交互に見る。そして、
「……女性が顔や体に怪我なんてしたら大変だもんね」
何故か顔を赤らめた。
(こいつ……やべーわ)
いろんな意味で。少年にとって犬飼との出逢いは未知との遭遇だった。
◇
「……で、用件は?」
どっと疲れた。犬飼のおかげで。ガラスの破片を集めている犬飼を横目に、少年こと店主であるハイエナが狼子に尋ねた。
「こいつを探してる」
マリアの写真を見せた。もしかしたら彼女のブローチがここへ流れているかもしれないと。
「……知らねぇな。まだうちには来てないぜ」
それを手に取りじっくり見るが、覚えがないと首を横に振る。
「本当に!? ──狼子さん!!」
それは彼女が生存している確率がまだ残っているということ。最悪の事態を覚悟していた犬飼にとっては何よりの朗報。
「ハイエナ、もしこれが流れてきたら連絡をくれないか?」
番号を記した紙を手渡す。
「別にいいけどよ……その前に何かあんだろ?」
「なんだ? 報酬か?」
キョトンとした表情の狼子が首をかしげる。
「いやいやいや、違うから! ……いや違わないけど。報酬はもらうけど、それよりもアレどうすんだよ!!」
無惨に散らばった宝石類の数々と粉々のショーケース。
「ちゃんと弁償しろよな!」
「何故だ? お前が突っ込んで行ったんだろ?」
「お前が投げたからだろうが!?」
ぎゃあぎゃあと喚くハイエナ。放っておいたら一生喚きそうだと、うんざりした様子の狼子は仕方なく折れる。
「わかったわかった……雅家に請求しろ。だからブローチの件必ず連絡しろよ?」
店主に念押しすると、犬飼に向かって『行くぞ』と声をかける。
「あ、はい! えっと……それじゃ、またね!」
箒と塵取りを手渡し彼女の後を追った。受け取った道具と全然片付いていない部屋を眺めて一言。
「──ぜってーいつか殺すからな!!」
怒りに燃えるハイエナの叫びは二人には届かず、むなしく響くだけだった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる