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第1章 犬と狼
Welcome to rebirth 3
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「驚かせちゃったね。彼は猿磨 右近。僕のお世話兼ボディーガードなんだ」
「よろしく」
武骨な手が差し出される。
「あ……こちらこそお願いします」
握った手から伝わってくる力強さと、瞳の奥に残された鋭さは、まだ完全に犬飼を信用していない証拠。
「……大丈夫だよ。右近はボクの命令がない限り、犬飼くんに手は出さないから」
それは虎之助の機嫌を損ねさせないように気をつけろという警告か。
「まぁ、そういうことになるかな」
──これでもボクは怒ると怖いんだからね
嘘か本音かあるいはその両方か。いまだ手の内がみえない虎之助に、犬飼はある違和感を覚える。
(そういえば……さっきからこの人……、)
言葉にしなくても何故か伝わっている。まるで心を読まれているかのように。犬飼は虎之助を見た。
「……気づいちゃった? やっぱり犬飼くんは賢いね~。そう、ボクは心が読めるんだよ」
それが自分に与えられた能力だから。
「もちろんそれだけじゃないけどね。ま、いろいろあるのさ。雅家には」
口にはしないが虎之助をみれば明らかだった。この話題を深く追究するのは許さない、そんな態度を見せていた。
◇
「犬飼くんは来たばかりだから、rebirthについて簡単な説明をしておくね」
懐から一枚の紙を取り出し広げると、大まかに島の図を描いていく。
「ここは四つの区で構成されてて、それとは別に島のここ……丸で囲んだ中央にボクたちは住んでる」
次に東の位置をペンで指し示した。
「昨夜、犬飼くんが入ってきた正門があったでしょ? そこからビルやホテルが見えたと思うけど、あそこらへんはボクの息のかかった者がたくさんいるから、安全面は心配しなくていいよ」
それから…と、南区にペンを向けた。
「ここは区の全体が歓楽街になっていて、何十もの遊女屋が集まった遊廓があるんだ」
遊廓を仕切る楼主の美意識が高いため、そこで働く遊女たちも美女ばかりだそうだ。
「一度遊びに行ってみるといいよ」
「あ、いえ……僕は……」
「あれ? 女の人はダメな方? それなら陰間茶屋もあるから。そっちも負けず劣らずでいい子がそろってるよ」
異性愛だろうが同性愛だろうが気にする者は誰もいない。
「……なんならボクはどう? 犬飼くん可愛いし」
色気を含ませた手で、優しく頬を撫でられた。いきなりの展開に目が右往左往する。別に女が駄目なわけではない。ただ恋愛沙汰にめっぽう真面目なだけ。愛するのはただ一人。その女性を生涯愛し抜く、現代ではめずらしい生きた化石のような男なのだ。
「あまりからかってやるな」
返答に迷う犬飼に、右近が助け船を出してくれる。
「困ってる顔が面白くて……つい」
脱線した話を元に戻し、今度は西区について話しはじめる。
「一言でいうとマフィアの巣窟。群雄割拠で飽きもせず毎日抗争に勤しんでるよ。西区には近寄らないほうがいいね」
資源が豊富なこの島は、銃器の材料となる鉄はもちろんチタンが採掘できる。西区の主な生業として武器製造と販売は欠かせないのだ。
「最後に北区だけど、ここには色んな人種が混在しててね、漁業と農業で生計を立てて暮らしいるんだ。あと本国ではお目にかかれない半獣も少なからず生活してるよ」
彼らは争いを望まないが、縄張り意識はどの区よりも強い。平穏を脅かす者には容赦ない。
「地下には穴ぐらといって本国でいうスラム街みたいな場所もある。……rebirthには法律なんて存在しない。自分自身がルールであり、何をするにも自己責任。この島の住人になるなら覚えておいてね」
「あの、失礼ですが……雅家はどうやって生計を?」
「うちかい? うちは何でも屋みたいなもんさ。要人警護から暗殺まで、裏の仕事はなんでもござれかな」
「暗殺……って」
「ここじゃ普通だよ?」
──異端なのは犬飼の方さ
殺るか殺られるか、その二択しかない。
「それがrebirth、ようこそ……犬飼くん」
「よろしく」
武骨な手が差し出される。
「あ……こちらこそお願いします」
握った手から伝わってくる力強さと、瞳の奥に残された鋭さは、まだ完全に犬飼を信用していない証拠。
「……大丈夫だよ。右近はボクの命令がない限り、犬飼くんに手は出さないから」
それは虎之助の機嫌を損ねさせないように気をつけろという警告か。
「まぁ、そういうことになるかな」
──これでもボクは怒ると怖いんだからね
嘘か本音かあるいはその両方か。いまだ手の内がみえない虎之助に、犬飼はある違和感を覚える。
(そういえば……さっきからこの人……、)
言葉にしなくても何故か伝わっている。まるで心を読まれているかのように。犬飼は虎之助を見た。
「……気づいちゃった? やっぱり犬飼くんは賢いね~。そう、ボクは心が読めるんだよ」
それが自分に与えられた能力だから。
「もちろんそれだけじゃないけどね。ま、いろいろあるのさ。雅家には」
口にはしないが虎之助をみれば明らかだった。この話題を深く追究するのは許さない、そんな態度を見せていた。
◇
「犬飼くんは来たばかりだから、rebirthについて簡単な説明をしておくね」
懐から一枚の紙を取り出し広げると、大まかに島の図を描いていく。
「ここは四つの区で構成されてて、それとは別に島のここ……丸で囲んだ中央にボクたちは住んでる」
次に東の位置をペンで指し示した。
「昨夜、犬飼くんが入ってきた正門があったでしょ? そこからビルやホテルが見えたと思うけど、あそこらへんはボクの息のかかった者がたくさんいるから、安全面は心配しなくていいよ」
それから…と、南区にペンを向けた。
「ここは区の全体が歓楽街になっていて、何十もの遊女屋が集まった遊廓があるんだ」
遊廓を仕切る楼主の美意識が高いため、そこで働く遊女たちも美女ばかりだそうだ。
「一度遊びに行ってみるといいよ」
「あ、いえ……僕は……」
「あれ? 女の人はダメな方? それなら陰間茶屋もあるから。そっちも負けず劣らずでいい子がそろってるよ」
異性愛だろうが同性愛だろうが気にする者は誰もいない。
「……なんならボクはどう? 犬飼くん可愛いし」
色気を含ませた手で、優しく頬を撫でられた。いきなりの展開に目が右往左往する。別に女が駄目なわけではない。ただ恋愛沙汰にめっぽう真面目なだけ。愛するのはただ一人。その女性を生涯愛し抜く、現代ではめずらしい生きた化石のような男なのだ。
「あまりからかってやるな」
返答に迷う犬飼に、右近が助け船を出してくれる。
「困ってる顔が面白くて……つい」
脱線した話を元に戻し、今度は西区について話しはじめる。
「一言でいうとマフィアの巣窟。群雄割拠で飽きもせず毎日抗争に勤しんでるよ。西区には近寄らないほうがいいね」
資源が豊富なこの島は、銃器の材料となる鉄はもちろんチタンが採掘できる。西区の主な生業として武器製造と販売は欠かせないのだ。
「最後に北区だけど、ここには色んな人種が混在しててね、漁業と農業で生計を立てて暮らしいるんだ。あと本国ではお目にかかれない半獣も少なからず生活してるよ」
彼らは争いを望まないが、縄張り意識はどの区よりも強い。平穏を脅かす者には容赦ない。
「地下には穴ぐらといって本国でいうスラム街みたいな場所もある。……rebirthには法律なんて存在しない。自分自身がルールであり、何をするにも自己責任。この島の住人になるなら覚えておいてね」
「あの、失礼ですが……雅家はどうやって生計を?」
「うちかい? うちは何でも屋みたいなもんさ。要人警護から暗殺まで、裏の仕事はなんでもござれかな」
「暗殺……って」
「ここじゃ普通だよ?」
──異端なのは犬飼の方さ
殺るか殺られるか、その二択しかない。
「それがrebirth、ようこそ……犬飼くん」
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