6 / 40
第1章 犬と狼
Welcome to rebirth 3
しおりを挟む
「驚かせちゃったね。彼は猿磨 右近。僕のお世話兼ボディーガードなんだ」
「よろしく」
武骨な手が差し出される。
「あ……こちらこそお願いします」
握った手から伝わってくる力強さと、瞳の奥に残された鋭さは、まだ完全に犬飼を信用していない証拠。
「……大丈夫だよ。右近はボクの命令がない限り、犬飼くんに手は出さないから」
それは虎之助の機嫌を損ねさせないように気をつけろという警告か。
「まぁ、そういうことになるかな」
──これでもボクは怒ると怖いんだからね
嘘か本音かあるいはその両方か。いまだ手の内がみえない虎之助に、犬飼はある違和感を覚える。
(そういえば……さっきからこの人……、)
言葉にしなくても何故か伝わっている。まるで心を読まれているかのように。犬飼は虎之助を見た。
「……気づいちゃった? やっぱり犬飼くんは賢いね~。そう、ボクは心が読めるんだよ」
それが自分に与えられた能力だから。
「もちろんそれだけじゃないけどね。ま、いろいろあるのさ。雅家には」
口にはしないが虎之助をみれば明らかだった。この話題を深く追究するのは許さない、そんな態度を見せていた。
◇
「犬飼くんは来たばかりだから、rebirthについて簡単な説明をしておくね」
懐から一枚の紙を取り出し広げると、大まかに島の図を描いていく。
「ここは四つの区で構成されてて、それとは別に島のここ……丸で囲んだ中央にボクたちは住んでる」
次に東の位置をペンで指し示した。
「昨夜、犬飼くんが入ってきた正門があったでしょ? そこからビルやホテルが見えたと思うけど、あそこらへんはボクの息のかかった者がたくさんいるから、安全面は心配しなくていいよ」
それから…と、南区にペンを向けた。
「ここは区の全体が歓楽街になっていて、何十もの遊女屋が集まった遊廓があるんだ」
遊廓を仕切る楼主の美意識が高いため、そこで働く遊女たちも美女ばかりだそうだ。
「一度遊びに行ってみるといいよ」
「あ、いえ……僕は……」
「あれ? 女の人はダメな方? それなら陰間茶屋もあるから。そっちも負けず劣らずでいい子がそろってるよ」
異性愛だろうが同性愛だろうが気にする者は誰もいない。
「……なんならボクはどう? 犬飼くん可愛いし」
色気を含ませた手で、優しく頬を撫でられた。いきなりの展開に目が右往左往する。別に女が駄目なわけではない。ただ恋愛沙汰にめっぽう真面目なだけ。愛するのはただ一人。その女性を生涯愛し抜く、現代ではめずらしい生きた化石のような男なのだ。
「あまりからかってやるな」
返答に迷う犬飼に、右近が助け船を出してくれる。
「困ってる顔が面白くて……つい」
脱線した話を元に戻し、今度は西区について話しはじめる。
「一言でいうとマフィアの巣窟。群雄割拠で飽きもせず毎日抗争に勤しんでるよ。西区には近寄らないほうがいいね」
資源が豊富なこの島は、銃器の材料となる鉄はもちろんチタンが採掘できる。西区の主な生業として武器製造と販売は欠かせないのだ。
「最後に北区だけど、ここには色んな人種が混在しててね、漁業と農業で生計を立てて暮らしいるんだ。あと本国ではお目にかかれない半獣も少なからず生活してるよ」
彼らは争いを望まないが、縄張り意識はどの区よりも強い。平穏を脅かす者には容赦ない。
「地下には穴ぐらといって本国でいうスラム街みたいな場所もある。……rebirthには法律なんて存在しない。自分自身がルールであり、何をするにも自己責任。この島の住人になるなら覚えておいてね」
「あの、失礼ですが……雅家はどうやって生計を?」
「うちかい? うちは何でも屋みたいなもんさ。要人警護から暗殺まで、裏の仕事はなんでもござれかな」
「暗殺……って」
「ここじゃ普通だよ?」
──異端なのは犬飼の方さ
殺るか殺られるか、その二択しかない。
「それがrebirth、ようこそ……犬飼くん」
「よろしく」
武骨な手が差し出される。
「あ……こちらこそお願いします」
握った手から伝わってくる力強さと、瞳の奥に残された鋭さは、まだ完全に犬飼を信用していない証拠。
「……大丈夫だよ。右近はボクの命令がない限り、犬飼くんに手は出さないから」
それは虎之助の機嫌を損ねさせないように気をつけろという警告か。
「まぁ、そういうことになるかな」
──これでもボクは怒ると怖いんだからね
嘘か本音かあるいはその両方か。いまだ手の内がみえない虎之助に、犬飼はある違和感を覚える。
(そういえば……さっきからこの人……、)
言葉にしなくても何故か伝わっている。まるで心を読まれているかのように。犬飼は虎之助を見た。
「……気づいちゃった? やっぱり犬飼くんは賢いね~。そう、ボクは心が読めるんだよ」
それが自分に与えられた能力だから。
「もちろんそれだけじゃないけどね。ま、いろいろあるのさ。雅家には」
口にはしないが虎之助をみれば明らかだった。この話題を深く追究するのは許さない、そんな態度を見せていた。
◇
「犬飼くんは来たばかりだから、rebirthについて簡単な説明をしておくね」
懐から一枚の紙を取り出し広げると、大まかに島の図を描いていく。
「ここは四つの区で構成されてて、それとは別に島のここ……丸で囲んだ中央にボクたちは住んでる」
次に東の位置をペンで指し示した。
「昨夜、犬飼くんが入ってきた正門があったでしょ? そこからビルやホテルが見えたと思うけど、あそこらへんはボクの息のかかった者がたくさんいるから、安全面は心配しなくていいよ」
それから…と、南区にペンを向けた。
「ここは区の全体が歓楽街になっていて、何十もの遊女屋が集まった遊廓があるんだ」
遊廓を仕切る楼主の美意識が高いため、そこで働く遊女たちも美女ばかりだそうだ。
「一度遊びに行ってみるといいよ」
「あ、いえ……僕は……」
「あれ? 女の人はダメな方? それなら陰間茶屋もあるから。そっちも負けず劣らずでいい子がそろってるよ」
異性愛だろうが同性愛だろうが気にする者は誰もいない。
「……なんならボクはどう? 犬飼くん可愛いし」
色気を含ませた手で、優しく頬を撫でられた。いきなりの展開に目が右往左往する。別に女が駄目なわけではない。ただ恋愛沙汰にめっぽう真面目なだけ。愛するのはただ一人。その女性を生涯愛し抜く、現代ではめずらしい生きた化石のような男なのだ。
「あまりからかってやるな」
返答に迷う犬飼に、右近が助け船を出してくれる。
「困ってる顔が面白くて……つい」
脱線した話を元に戻し、今度は西区について話しはじめる。
「一言でいうとマフィアの巣窟。群雄割拠で飽きもせず毎日抗争に勤しんでるよ。西区には近寄らないほうがいいね」
資源が豊富なこの島は、銃器の材料となる鉄はもちろんチタンが採掘できる。西区の主な生業として武器製造と販売は欠かせないのだ。
「最後に北区だけど、ここには色んな人種が混在しててね、漁業と農業で生計を立てて暮らしいるんだ。あと本国ではお目にかかれない半獣も少なからず生活してるよ」
彼らは争いを望まないが、縄張り意識はどの区よりも強い。平穏を脅かす者には容赦ない。
「地下には穴ぐらといって本国でいうスラム街みたいな場所もある。……rebirthには法律なんて存在しない。自分自身がルールであり、何をするにも自己責任。この島の住人になるなら覚えておいてね」
「あの、失礼ですが……雅家はどうやって生計を?」
「うちかい? うちは何でも屋みたいなもんさ。要人警護から暗殺まで、裏の仕事はなんでもござれかな」
「暗殺……って」
「ここじゃ普通だよ?」
──異端なのは犬飼の方さ
殺るか殺られるか、その二択しかない。
「それがrebirth、ようこそ……犬飼くん」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる