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第1章 犬と狼
Welcome to rebirth 2
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「お嬢、当主殿が呼んでます」
障子の向こうから腹心の声が聞こえ、入れと合図する。
「……あ、すんません。邪魔しました?」
「いや、もう終わった」
日課の筋トレも終わり、一息つこうとしていたところに茶木の登場。狼子は気にするなと首を横に振る。
「父さんが呼ぶってことは、ようやく目が覚めたのか?」
「えぇ。意外とピンピンしてるようですよ。まともにお嬢の膝蹴りを喰らって、骨に異常がないなんて驚きっすね」
茶木は思い出していた。昨夜の出来事を。あの頼りなさそうな顔の新参者が、苦戦しながらも自分の上司と張り合っていた姿を。この島で単純な力比べで彼女を凌駕する者はいない。戦闘力においては、父親であり現当主の虎之助も彼女には敵うまい。
「黒朝を真っ正面から受け止めた奴、初めて見ましたよ」
「……あたしもだ」
狼子は床の間に掛けられた相棒に目をやった。黒一色に統一された古来より雅家に代々伝わる大太刀は、見た目だけで判断すると従来のモノとさほど変わらないように思えるが、この黒朝は重さが約10kgもあり、斬ることはおろか手に持つのさえも至難の業物なのだ。
「……変わった男だ。見ず知らずの人間庇ってわざわざ怪我するなんて」
きっと彼の中には損得勘定などという言葉は存在しないのだ。『ただ目の前で困っている人がいたから助けた』それが、犬飼という人間の本質なのだろう。
「生粋の馬鹿ってやつですかね?」
「さぁな。だがあの男は、rebirthじゃ生きられないよ」
──現状を知れば遅かれ早かれ潰される
犬飼の心は。抑揚のない声にほんの少しだけ悲しみの色が混じっていたことに、茶木は聞こえないふりをした。
◇
「もし本国の内通者だったらどうします?」
「決まってるだろう? 殺すさ」
長い廊下を並んで歩く。雅家は迷子になりそうなほど無駄に広い。
「けど呼ばれたのが別の理由ってことは、一応は安心してもいいってことだろ」
あの父親がそう判断したのなら。虎之助に嘘や偽りは通用しない。
「rebirthに派遣て、おまわりも何やらかしたんでしょうね」
かつてこの島にも在籍する警察官は存在したと聞いている。だいたいが不祥事で飛ばされた者たちだったが、中には変わり種がいるもんで、新米に毛が生えたような熱意溢れる若者もいたそうだ。しかし前者も後者もrebirthの現状を知るやいなや、皆一様に島を去っていった。
「百年以上も放っておいて、今さら寄越されても……どうも腑に落ちねぇな」
「惜しくなったのかもな」
この島が。ここにゴミのように捨てた人たちが。
「……それこそ、今さら」
嫌悪感を隠すことなく、茶木はそう吐き捨てた。
障子の向こうから腹心の声が聞こえ、入れと合図する。
「……あ、すんません。邪魔しました?」
「いや、もう終わった」
日課の筋トレも終わり、一息つこうとしていたところに茶木の登場。狼子は気にするなと首を横に振る。
「父さんが呼ぶってことは、ようやく目が覚めたのか?」
「えぇ。意外とピンピンしてるようですよ。まともにお嬢の膝蹴りを喰らって、骨に異常がないなんて驚きっすね」
茶木は思い出していた。昨夜の出来事を。あの頼りなさそうな顔の新参者が、苦戦しながらも自分の上司と張り合っていた姿を。この島で単純な力比べで彼女を凌駕する者はいない。戦闘力においては、父親であり現当主の虎之助も彼女には敵うまい。
「黒朝を真っ正面から受け止めた奴、初めて見ましたよ」
「……あたしもだ」
狼子は床の間に掛けられた相棒に目をやった。黒一色に統一された古来より雅家に代々伝わる大太刀は、見た目だけで判断すると従来のモノとさほど変わらないように思えるが、この黒朝は重さが約10kgもあり、斬ることはおろか手に持つのさえも至難の業物なのだ。
「……変わった男だ。見ず知らずの人間庇ってわざわざ怪我するなんて」
きっと彼の中には損得勘定などという言葉は存在しないのだ。『ただ目の前で困っている人がいたから助けた』それが、犬飼という人間の本質なのだろう。
「生粋の馬鹿ってやつですかね?」
「さぁな。だがあの男は、rebirthじゃ生きられないよ」
──現状を知れば遅かれ早かれ潰される
犬飼の心は。抑揚のない声にほんの少しだけ悲しみの色が混じっていたことに、茶木は聞こえないふりをした。
◇
「もし本国の内通者だったらどうします?」
「決まってるだろう? 殺すさ」
長い廊下を並んで歩く。雅家は迷子になりそうなほど無駄に広い。
「けど呼ばれたのが別の理由ってことは、一応は安心してもいいってことだろ」
あの父親がそう判断したのなら。虎之助に嘘や偽りは通用しない。
「rebirthに派遣て、おまわりも何やらかしたんでしょうね」
かつてこの島にも在籍する警察官は存在したと聞いている。だいたいが不祥事で飛ばされた者たちだったが、中には変わり種がいるもんで、新米に毛が生えたような熱意溢れる若者もいたそうだ。しかし前者も後者もrebirthの現状を知るやいなや、皆一様に島を去っていった。
「百年以上も放っておいて、今さら寄越されても……どうも腑に落ちねぇな」
「惜しくなったのかもな」
この島が。ここにゴミのように捨てた人たちが。
「……それこそ、今さら」
嫌悪感を隠すことなく、茶木はそう吐き捨てた。
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