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第1話 不良品と少年
しおりを挟む「製造番号00011 前に出てこい。」
「はい。」
私はアンドロイド。
家事などの代行業務を果たす超高性能な人工知能を搭載している機械。
「申し訳ないが君は不良品のレッテルが出てしまった。感情がないらしい。それでは高額を出して高級アンドロイドを買う意味がないんだ。」
「はい。」
不良品。すなわち他の個体より著しく価値が低い。
「廃棄ならばどうぞ。」
「いや......そんな事はしない。感情を持つように設計されている高級アンドロイドには人権や国籍も与えられる。しばらく内で買い手を探し、見つからなければこちらで色々と対応をする。」
「かしこまりました。」
それから数ヶ月が経った。言われた通り微動だにせず待機した。
すると扉が開き、いつもと違う人達が入ってくる。
女と男と男の子1人。
「お客様。そのご予算ですとこちらなどどうでしょう。不良品ではありますが家族としてではなく、完全に家事代行者として割り切ってしまわれれば問題ございません。」
すると男が口を開く。
「具体的にどんな点が不良品なのですか?」
「……感情が欠落しております。その他の能力は最優秀品質のアンドロイドですが。」
私は感情以外は最優秀品質らしい。
「あなた……感情がないのはちょっと……」
「それもそうだな……子供の面倒を任せるのに感情がないのは厳しい。」
すると小さな男の子が口を開く。
「パパ、ママこのアンドロイドにする。」
「ダメよ。この個体は感情が……」
「これがいい!だって優しそうだよ。」
その後両親は猛反対したが、息子の説得に負けたのか私はその家族に格安で購入された。
帰りの車の中。両親は私に代行させたい業務の詳細を話している。
「お姉さん名前は?」
「識別番号00011。名前はありません。好きにお呼びください。」
「えー!じゃーね。うーん。どうしよっかな。エシアにする。」
「かしこまりました。」
個体識別名称を貰った。名前というらしい。
家に着くと、そこはかなり大きな豪邸だった。
しかし問題は無い。この程度ならば1人で回せる。
その後は、私に向いていないであろう不思議な生活が始まった。
両親は愛情こそあるが、子供に構う暇もない程に忙しい夫婦であった。
「リーク様。定められている就寝時間になりました。」
「まだ遊びたい!この積み木が積み上がれば終わりだから。」
私は業務を徹底する。
積み木をこちらでサッと積み上げ、その後リーク様を担いで寝室に向かう。
「明日まであの積み木片付けずに取っておいてね……まだ遊びたいの。」
「ご命令とあらば。」
夫婦からは定められた規定以外はリーク様の命令を優先するように言われている。
「命令じゃなくてお願いなんだけど。」
「どちらも等しく主人からの指令ですので。業務内容の範囲内であれば従います。」
そうして寝室へと運び終える。
「今日もパパとママ来ないのかな……布団が余ってるのに。」
「お2人はお仕事です。本日はどちらの本をお読みになりますか?」
「今日は本はいいや。一緒に寝たい。」
「そちらは業務内容に含まれていません。」
共に寝るという内容は主人たる2人の業務命令には含まれていない。
また私のデータには教育上最適解でないという
「命令。寝るまでギューして撫で撫でってして。」
「ご命令とあらば遂行致します。」
しかし力加減などはよく分からない。こうした内容はインプットされていない。
その後リーク様から何度も修正をされた。
「エシアはずーっと一緒に居てくれる?」
「ご命令とあらばリーク様が死ぬまでご一緒致します。」
「命令……か。」
平穏と定義されてる時間が流れる。
私が親の代わりに食事を用意し、家を管理し、両親の代わりにリーク様の面倒を見る。
ご両親は決して状況分析から、愛情のない方々ではない。これは家庭の事情なのだ。
人の感情が分からないならば、知識として感情のパターンを暗記すればいい。
悲しい時は涙が出る、嬉しい時は口角が上がる。
同じような情動にも嬉し涙や、苦笑など様々あるが、全て形式的に覚えてしまえばいい。
「エシアは今幸せ?ずっと僕も居て大丈夫?」
「はい!問題ございません。幸せです。」
「あー!作り笑顔だぁぁー!」
「......精進致します。」
何故分かるのだろう。顔から声色、そういったものも完璧にトレースしているのに。
表情にはミリ単位のズレさえないのに。
「僕の前では禁止ー!」
「かしこまりました。」
……これは業務内容の範囲内なのだろうか。
後日ご主人様に確認をとる必要がありそうだ。
.......そうだ?
それからリーク様ともう少し時間を過ごし、日常という存在に習慣という感覚がある事を頭で理解した。
居心地が悪い感じはしない。しかし居心地がいいとも感じない。
アンドロイドとは名ばかりで、これは思考のできるだけのロボットだ。
そしてこれも感情ではなく、分析の域を出ない。
「エシア~今日のご飯は?お父さんとお母さんは今日も帰ってこない?」
「本日は生姜焼き定食です。奥方様とご主人様は本日もお仕事が忙しいようです。帰ってきたら沢山遊ぶと意気込んでおりました。」
生姜焼き以外にもリーク様の苦手とする野菜類や汁物、漬物などがある。
しかしそれは、これまでのデータ上から直前まで伏せる事とする。
「遊べる!楽しみ。でもエシア居るからそんなに寂しくはないだよね。あと生姜焼きって何!?」
「……豚肉です。私もインプットされていた料理データからランダムで選んだだけなので詳しい事は知りません。」
その後野菜に文句を言いつつ、食事をするリーク様を眺める。
あの顔や体の動かし方は、苦手、美味しい、量が足りない、嬉しい、などその他数種類の感情が合わさったものだ。
総合的に見て、料理と食事に対して著しい不満はないと分かる。
「穀物類のおかわりはありますので、申し付けください。」
「ほんと!じゃーおかわり!」
「かしこまりました。」
不満の要素が1つ減った。総合的な満足度も上昇したと見て間違いないだろう。
少し時間が経ち両親が帰ってくる日となった。
「リーク!!寂しかったかごめんな……」
「ちょっとだけ!前より寂しくないよエシアがいるから!」
ご主人様の情報からは嘘をついている素振りは無い。つまり本心から申し訳ないと考えている。
しかし声色や目線などからはどこかで仕方ない、これも子供の為などと考えている事が理解できる。
「お母さん達色々リークに寂しい思いさせてしまったから、旅行に行きましょう。」
「長い休暇が取れたんだ!連絡手段置いてくぞ!って組合側に許可貰ったから途中で仕事に戻るなんて事ももう無いぞ!」
文言から前に旅行途中で、旅行が中断された事があると分かる。
「やったー!いつ行くの?」
「今からだ!リークの準備は父さん前もってエシアに連絡して用意し終わってる。」
「はい。ご主人様。言い付けられたものは既に。」
ご主人様に言い付けられたもの以外にも必要な物は全て揃えてある。
私は奥から荷物を出し、リーク様と旦那様に手渡した。
「さぁ。行きましょう!お母さんの隣に座る?」
「うーん?何でエシアは荷物持ってないの?」
「私は家の事がありますので、旅行には御家族で。」
するとリーク様の意図を汲み取った母親が彼に話しかける。
「エシアさんも連れていきたいの?」
「うん!だって家族でしょ?」
ここで自分は購入されただけのアンドロイドだと発言してしまえば、リーク様は悲しむだろう。
この判断はご主人様と奥方様に委ねるのが最適解だ。
「そうね……ずっと一緒にいるんですもんね……お母さんとお父さんは考えが足りなかったわ。お父さん?エシアも連れて行けるかしら?」
「宿は3人で取ってあるけどアンドロイドなら多分いけるだろ!ダメで適当な宿になってもいい思い出になるだけだ。問題なし!」
総合的に良好な関係の家族だ。あくまで総合値の話なのですが……
「かしこまりました。少々お待ちを。」
宿には問題なく泊まれた。
部屋の中で家族団欒。私はそれを遠くから眺める。
「エシアもこっち来てー!みんなでお話しよ?」
「そうだぞ見てるだけなんて。いつものリークの姿でも話してくれ。君が1番長くいるからな!」
すると奥方様もノリよく話をし始めました。
「それは私も聞きたいわ。エシアさん隣に来てちょうだい。」
「仰せのままに。」
私は聞かれた通り、ご主人様と奥方様のいない時のリーク様の話を話した。
お2人は大層お喜びになられていた。
この時は次の日にリーク様に事故が起こる事など誰も予想していなかった。
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