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迫り来るゾンビの恐怖

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晴香の視点

都丸君と連絡が取れなくなった。けど、私は彼の生存を信じてる。

そんな気がする。

この山岳地帯はゾンビが登って来ないから安全だと言われてるけど、私はそれは信じてない。

検問で止めていても、裸を見るわけに行かない。いつかはゾンビが夜襲って来るのではないか。

都丸君にもここも安全ではないと連絡を送ったのだけど。

晴香! と私を呼ぶ声が聞こえた。お父さんだ。

水色の防水テント3人用の場所で暮らしている。お父さんがいるから、誰かに襲われる心配が要らない。お父さんには本当感謝している。

私はすぐに駆けつけて行った。呼ばれた理由は、銃を手に入れた、晴香も持てということだった。

「お父さん、私持ちたくない。人を殺したり、ゾンビを撃つのも嫌。」


「駄目だ。生き残る為には、絶対に必要だ。俺は晴香には生きてて欲しいんだ。それと、お母さんを守ってやってくれ。」


何故急にそんな事を? 何か嫌な予感でもしたのだろうか? あまりに突然な台詞に私はその場に立ち尽くしてしまった。

周りの人達の憔悴しきった顔が見えた。心が締め付けられる思いだ。

彼等も戦ってるんだ。私だけ逃げようとしても、それは後ろめたさを感じる。

私はお父さんの握っていた銃を受け取ろうと思い、両手を出した。

泣き出しそうになりながらお父さんを見つめた。

「でも、どうしてお父さんは急に銃を私に?」

「情報が入ってな。スキルを持つものがいると。にわかには信じられないが、肉親を殺すと手に入るらしい。」

「それってもしかして…嘘よね?」

嫌だ…それはもしお父さんがゾンビになったら殺してスキルを得て生き延びろ…そんなメッセージを受け取った気がした。

無言の圧力が私に汗をかかせた。

しばらく2人だけの静寂が過ぎる。

呼吸が浅くなり吐きそうな気分だ。
私はお父さんの返事を待った。

いや、念のためさ。そんな事起きない様にする。2人を俺が守らないとな!

お父さんは作り笑いで、私を安心させようとしていた。

私も作り笑いをして、そうだよ! お父さんは私たち守らなきゃ。と精一杯強がってみせた。

でも、本当は良い知れぬ恐怖でおかしくなりそうだった。

それから銃をテントにしまって、料理を作った。大自然の美味しい空気を吸って、気を紛らわした。


それからしばらく経ち、夜も暗くなったので私は就寝する事にした。


朝起きられるだろうか? 朝起きて意識がなくゾンビになっていたら? ゾンビに喰われているかも?

睡眠不足になるのは当然だろう。憔悴していた人達の気持ちがよく分かる。寝れないのだ、恐ろしくて。

何か変な音がした様な気がする。なんだろう?

きゃー、いやー! うわぁ! 

悲鳴が聞こえた…人同士で争ってるんだよね?
まさかゾンビが襲撃したんじゃないよね?

お父さんとお母さん交互に顔を見た。

「ちょっと様子を見て来る。」

お父さんが険しい表情で言う。

お父さん私も…そう言うと、お母さんを守ってくれと言われた。お母さんは心臓がちょっと弱いのだ。

だから私が側に居てあげないといけなかった。

気をつけて。お父さんに言った。

静寂な夜に声が聞こえて来た。

「ゾンビだ! 検問で入れなかった奴がトラックにゾンビを入れて運んできやがったんだ!」

恐ろしいことが耳に届いた。

「なんだと、ちっくしょう。殺しておけば良かった。こんな事になるなら…ふざけやがって!」

「言っても手遅れだ。早く逃げよう!」

「どこに逃げようって? もう俺たちにはここしかないだろう…うわぁ!」

男の人たちの言い争いが聞こえて、その後に悲鳴がこだまする。

怒声と震える声が混ざり合った、心臓を抉り出すほどの恐怖を彼等と共有してしまった。

パンパン、銃声が鳴り響いた。

私たちに嫉妬したのだろうか? トラックでゾンビを連れて来るなんて、恐怖でその人もおかしくなったのだろうか? 

ああ耳を塞いでも、ゾンビの奇声が聞こえて来る。

自分の頬を叩いて、恐怖を振り払った。そして、しまっておいた銃を両手で持ち、震える手で安全装置を解除し、右手にしっかりと握り締めた。


果たして撃てるだろうか? 練習しておけば良かった…でも1日したところで、対して違いはないだろう。


私はお母さんの震える冷たい手を取り、お父さんを探しに、テントを出た。
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