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朱莉ちゃんの不穏と、時村真美へのトラウマ。
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神楽さんが周りを見て、車を発進させた。
ゾンビの少ない安全な場所と、コンクリートの壁のある方向へと向かう。
脱出前にマンションから、沢山落とした、ラジオの大ボリュームのお陰で、ゾンビが少なくなっていた。
ここまでは、計画が上手く行っていると安堵した。
だが道を開けるため、車外に出なければいけない。
ゾンビが急に現れたりしない場所、つまり見晴らしが良い所である必要がある。
エアコンの涼しさが効いてきて、緊張で疲れているみんなを癒してくれている様に、表情が少し和らいだ。
車が止まり、神楽さんが深呼吸をして、お願いねと、振り返り呟く。
すぐに真剣な表情で俺は頷き返す。
なんてことはない、そう自分を奮い立たせた。
それは、スキルが突然使えなくなったりしないか、その恐れが少しあるからだ。
このスキルに頼りきりで、使えなくなったら、誰も守れなくなる。
その考えを捨て去るように首を振る。
車のドアが、自動で開いた。
壁の前に急いで駆け寄り、アイテムBOXのスキルを発動させた。
スッと壁が消え去り、車道が目の前に見えた。
ゾンビの姿が少し遠くに2、3匹は見受けられる。
俺は車に戻ろうと振り返り、慌てて車内に戻った。
車内に座り、深い溜息を吐いた。
「本当に消した…都丸さん、どうしてそんなことできるの?」
望みちゃんが、困惑している風に見えた。
「分からないんだ、自然に使える様になってて。」
どうしてか…こっちが聞きたいと言うのが本音だ。
「そう、でも便利な能力だね。でも、その能力がなくても、都丸さんのこと頼りにしてるからね。イェーイ!」
望みちゃんが、笑顔でウインクした。
彼女のその言葉に胸が締め付けられる。
能力がなくても…か。嬉しい反面、スキルがなかったら…生き残れなかった現実がある。
「驚いたけど、このゾンビの世界で何が起きても不思議じゃないわよね…夫もゾンビに…ごめんなさい。つい思い出しちゃって。」
神楽さんが涙を流して腕で拭いた。彼女の辛さが痛いほど分かった。
なんで声を掛けたらいいのだろう。年下に慰められても、複雑だろうから。
だけど、何も言わないのも家に引きこもってた俺に戻るようで、勇気を出して、彼女に声を掛けた。
「神楽さん、大丈夫。辛かったら泣いて下さい。その気持ちは、ここにいるみんなが知っているので。」
「都丸さん…もう…そんなこと言われたら、おばさん嬉しくて涙止まらないからね。」
「おばさんじゃないですよ、お姉さんです。これからも支え合って生き抜いていきましょう、お姉さん。」
「フフ、お姉さんか…ありがとう。都丸さんのお陰で元気出てきた。さてと、車動かすね。」
「んー? ちょっと妬けるなー。」
口を尖らせ、望ちゃんが言う。
俺は頭を掻き、思い出したように、無口になった朱莉ちゃんを見る。
真剣な表情で前を見据えていた。
心ここに在らずと言った感じだ。何故だろう?
少し彼女に恐怖を感じた。
朱莉ちゃんの眼の中に、鬼が潜んでいるかの様に、穏やかとは無縁な表情だった。
…何かある…それは、昔俺がいじめられていた女子の眼とそっくりなんだ。
車が静かに動き出した。まだここは、安全地帯だ。ただ…ゾンビが無数にいる場所は、地獄だろう。
そんな場所には近寄りたくないな。車の窓から、俺は遠くのゾンビの顔を見る。朱莉ちゃんと見比べる様に…憎しみも、喜びも何もない表情だ。何も感じない、ただ虚しく目線が遠くを見つめ、そして不気味であった。
その時、キキッと音が鳴る。
突然キューブレーキが引かれのだ。
何事か前方を見る。
「危ないわね。都丸さん、人が突然出てきたの。」
振り返って神楽さんが俺に言う。
こんこんと、誰かがガラスを叩く音がした。
神楽さんが車のウインドウを開けた。
「あーやっと、まともな人に会えたぁー。
ねぇ、あーしも車に乗せて。」
聴き覚えのある声だ。これは…最悪だ、俺をいじめた女子だ。生きていたのかくそっ。
こんな奴が生きて、俺の親は死ぬ…理不尽だ!
俺は怒りを覚えた。
「噛まれてないなら…良いわよね? 乗せても?」
俺は…拒否したいが…それでゾンビになられても、人殺しみたいで嫌だ。
俺は仕方なく頷く。見捨ろと言う声が何度も頭の中に響く。彼女に対する恐怖で体が震えても来る。
「おっしゃー。あざまーす。助手席乗るぅ。あれぇ? えろきじゃん。もしかしてあーし助けに来たん? さすが子分だ。」
満面の笑みで助手席に乗ろうとしてきた。俺の隣に朱莉ちゃんがいたので、彼女に感謝した。
えろき…俺のあだ名…違う俺の名前は政樹だこの…バカ女!
しかも子分だ? 最低だな、本当に。
こんな大変な時にまで、俺を侮辱し、子分として扱う。
助けなきゃ良かったと後悔が襲う。
「良かったー。知ってる顔がいて。あーしの仲間はぐれちってさー。でもあーし、不死身だからさ。ゾンビ野郎に囲まれても、平気なんよ。」
不死身? 俺みたいなもんか? 確かに殺しても死ななそうだけど、それにしても良く喋る。暗い雰囲気を明るくする様な話し方…相手がこいつでなければだが。
「私、神楽望です、よろしくお願いします。」
こんなやつに挨拶は勿体ないよ。でも挨拶は大事…そう心で言う。
俺はすっかり声に出して喋れなくなった。
トラウマだろう。一刻も早く、離れたい。
「あーし、時村真美。よろしこ!」
ゾンビの少ない安全な場所と、コンクリートの壁のある方向へと向かう。
脱出前にマンションから、沢山落とした、ラジオの大ボリュームのお陰で、ゾンビが少なくなっていた。
ここまでは、計画が上手く行っていると安堵した。
だが道を開けるため、車外に出なければいけない。
ゾンビが急に現れたりしない場所、つまり見晴らしが良い所である必要がある。
エアコンの涼しさが効いてきて、緊張で疲れているみんなを癒してくれている様に、表情が少し和らいだ。
車が止まり、神楽さんが深呼吸をして、お願いねと、振り返り呟く。
すぐに真剣な表情で俺は頷き返す。
なんてことはない、そう自分を奮い立たせた。
それは、スキルが突然使えなくなったりしないか、その恐れが少しあるからだ。
このスキルに頼りきりで、使えなくなったら、誰も守れなくなる。
その考えを捨て去るように首を振る。
車のドアが、自動で開いた。
壁の前に急いで駆け寄り、アイテムBOXのスキルを発動させた。
スッと壁が消え去り、車道が目の前に見えた。
ゾンビの姿が少し遠くに2、3匹は見受けられる。
俺は車に戻ろうと振り返り、慌てて車内に戻った。
車内に座り、深い溜息を吐いた。
「本当に消した…都丸さん、どうしてそんなことできるの?」
望みちゃんが、困惑している風に見えた。
「分からないんだ、自然に使える様になってて。」
どうしてか…こっちが聞きたいと言うのが本音だ。
「そう、でも便利な能力だね。でも、その能力がなくても、都丸さんのこと頼りにしてるからね。イェーイ!」
望みちゃんが、笑顔でウインクした。
彼女のその言葉に胸が締め付けられる。
能力がなくても…か。嬉しい反面、スキルがなかったら…生き残れなかった現実がある。
「驚いたけど、このゾンビの世界で何が起きても不思議じゃないわよね…夫もゾンビに…ごめんなさい。つい思い出しちゃって。」
神楽さんが涙を流して腕で拭いた。彼女の辛さが痛いほど分かった。
なんで声を掛けたらいいのだろう。年下に慰められても、複雑だろうから。
だけど、何も言わないのも家に引きこもってた俺に戻るようで、勇気を出して、彼女に声を掛けた。
「神楽さん、大丈夫。辛かったら泣いて下さい。その気持ちは、ここにいるみんなが知っているので。」
「都丸さん…もう…そんなこと言われたら、おばさん嬉しくて涙止まらないからね。」
「おばさんじゃないですよ、お姉さんです。これからも支え合って生き抜いていきましょう、お姉さん。」
「フフ、お姉さんか…ありがとう。都丸さんのお陰で元気出てきた。さてと、車動かすね。」
「んー? ちょっと妬けるなー。」
口を尖らせ、望ちゃんが言う。
俺は頭を掻き、思い出したように、無口になった朱莉ちゃんを見る。
真剣な表情で前を見据えていた。
心ここに在らずと言った感じだ。何故だろう?
少し彼女に恐怖を感じた。
朱莉ちゃんの眼の中に、鬼が潜んでいるかの様に、穏やかとは無縁な表情だった。
…何かある…それは、昔俺がいじめられていた女子の眼とそっくりなんだ。
車が静かに動き出した。まだここは、安全地帯だ。ただ…ゾンビが無数にいる場所は、地獄だろう。
そんな場所には近寄りたくないな。車の窓から、俺は遠くのゾンビの顔を見る。朱莉ちゃんと見比べる様に…憎しみも、喜びも何もない表情だ。何も感じない、ただ虚しく目線が遠くを見つめ、そして不気味であった。
その時、キキッと音が鳴る。
突然キューブレーキが引かれのだ。
何事か前方を見る。
「危ないわね。都丸さん、人が突然出てきたの。」
振り返って神楽さんが俺に言う。
こんこんと、誰かがガラスを叩く音がした。
神楽さんが車のウインドウを開けた。
「あーやっと、まともな人に会えたぁー。
ねぇ、あーしも車に乗せて。」
聴き覚えのある声だ。これは…最悪だ、俺をいじめた女子だ。生きていたのかくそっ。
こんな奴が生きて、俺の親は死ぬ…理不尽だ!
俺は怒りを覚えた。
「噛まれてないなら…良いわよね? 乗せても?」
俺は…拒否したいが…それでゾンビになられても、人殺しみたいで嫌だ。
俺は仕方なく頷く。見捨ろと言う声が何度も頭の中に響く。彼女に対する恐怖で体が震えても来る。
「おっしゃー。あざまーす。助手席乗るぅ。あれぇ? えろきじゃん。もしかしてあーし助けに来たん? さすが子分だ。」
満面の笑みで助手席に乗ろうとしてきた。俺の隣に朱莉ちゃんがいたので、彼女に感謝した。
えろき…俺のあだ名…違う俺の名前は政樹だこの…バカ女!
しかも子分だ? 最低だな、本当に。
こんな大変な時にまで、俺を侮辱し、子分として扱う。
助けなきゃ良かったと後悔が襲う。
「良かったー。知ってる顔がいて。あーしの仲間はぐれちってさー。でもあーし、不死身だからさ。ゾンビ野郎に囲まれても、平気なんよ。」
不死身? 俺みたいなもんか? 確かに殺しても死ななそうだけど、それにしても良く喋る。暗い雰囲気を明るくする様な話し方…相手がこいつでなければだが。
「私、神楽望です、よろしくお願いします。」
こんなやつに挨拶は勿体ないよ。でも挨拶は大事…そう心で言う。
俺はすっかり声に出して喋れなくなった。
トラウマだろう。一刻も早く、離れたい。
「あーし、時村真美。よろしこ!」
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