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頭脳戦
しおりを挟むエリオットの視点。
私はミウとやらに、決闘を申し込む為に手紙を彼女に送った。
もし来なければ、自宅がどうなるか分からないと脅したのだ。あまり好かないやり方だが、一対一で試合をするには、これが最善の手だと考えた。
昼間の住宅街。人通りがまばらに過ぎていく。
ここでは下手な真似はしないと彼女を安心させる旨も書いておいた。
彼女の姿が見えた。私は胸を撫で下ろし、話しかけた。住宅の木の匂いが、更に気晴らしになった。
私は勝負を早速申し込んだ。
「嫌ですぅ!」
ミウが首を横に振り断った。だが普通に振った様には見えなかった。周りに敵がいないか、探る仕草をしたのを、私は見逃さなかった。
まさに百戦錬磨を感じさせる、一流の警戒だ。
普通の者なら、断られたことに気を取られるだろう。
「何故嫌なんだ? 嫌な理由を教えてもらっていいかな? その理由を消すから、勝負して欲しい。」
「無理な理由一万個あるので消せないですぅ~。諦めて下さい。」
なるほどな…想像以上の手練れだな。ふーむ。
「だが、君が一万個の理由があろうがなかろうが、君が勝負したくなる状況に追い込めば良いと私は思うのだが? そうなる前に勝負した方が賢明では?」
「分かりました、勝負受けますが条件を飲んで下さい。」
彼女は考える様に顎に手をやる。だが私には芝居かかった様に見えた。
既に彼女の望む展開にいるのだろう。手のひらで踊らされている。
初めから条件を私に飲ませて、戦う気だろう。
だからこそ彼女はここに1人で来たのだ。
「条件は聞いて良いかな?」
「はい、私の命の保証ですん。それがあれば勝負しますぅ!」
自分の命の保証? 仲間の命ではないのかと疑問が湧いた。
なるほど、よく考えると、デスマッチをするつもりは無いということだろう。それを了承させる為仲間の事は伏せたな?
「ふふ、素晴らしい答えだ。だがその条件、飲んでも構わないが、私がそれを守られるかどうか? 戦いの最中私が無視したとして、ペナルティは何もない。」
私説明をして、確認を取る様に彼女に迫った。
「それでも構わないのかな?」
「むむ、正直ですねぇ。それって保証はするけど、口約束だから、それを破っても、問題なし…確かに…ですけど、殺す気に気がついたら、勝負を一方的にキャンセルして、逃げるのもありになりますねん。」
フッ、私の相手に相応しいと胸が高鳴るよ。
「良いだろう、命の保証はしよう。その代わり逃げることは、許されない。これでどうかな?」
「…良くないですぅ。凄い思考したんでけど、結局勝負の決め方は?
私が参りましたって言えば、これ逃げることに当てはまってしまいますぅ。」
参ったな、これには私も苦笑いするしかないが…策はある。
「制限時間を決めて戦おう。その間降参はなしだ。これなら、お互い良い試合が出来るのではないだろうか?」
彼女は相当私と戦うのが嫌そうだった。しかし、妹を人質には取らなかった。
それをすればすぐに私は身を引いたろう。つまり考えられるのは、妹は彼女らと良好な関係性を築けいてる可能性が高い。
まずは安心だな。
「でも女子に決闘申し込むなんて、呆れますぅ。」
ミウの喋り方に疑惑が浮かんだ。何故この様な喋り方なのだろうと。相手を苛立たせる為?
油断させる為か?
好きな人間の真似なのか?
彼女の知性からは意外な喋り方だ。だが、それだけに油断はできない。
心を許せば、喰われる。
「私は君を女子とは思わず、1人の戦士だと思っている。
だからこそ真剣にやり合いたいのだ。」
そして彼女に考える隙を与えず続けて言う。
「では時間と場所を決めよう。お互い納得の上で。」
「場所は私が決めますぅ! 時間も私が決めますん。10分でどうですかぁ?」
「短過ぎる1時間だ。」
1時間と言ったが、彼女は、はいとは言わないだろう。
恐らく30分程度に妥協案で納得させるしかない。
「長すぎますん。」
口をすぼめて、うんざりした様な表情を見せる。
「一つ聞いて良いかな。何故そこまで私との試合を嫌がる?」
「決まってますぅ。魔族は人間と違って体が頑丈ですん。それだけで自分には不利なのですん。」
納得のいく言い分だ。だが、彼女の体を丈夫にしてやることはできない。
「つまり、2体1なら、喜んでうけますん。」
少し彼女の頬が緩んだ。この提案を受けるのは、自信過剰過ぎる。
「それは飲めない案だな。特にそれがヒーラーだとすると私の身が危ない…君の全力は恐らく、私と互角と見積もっているからね。」
身体能力の高さを除けばの話だがな。戦えば私が勝つだろう。
「ヒーラー以外でも駄目な癖にいぃ~。中々の臆病者ですぅ。」
彼女が不満そうに眉根を寄せる。挑発してきたか…苛立ちを募らせる気が見え見えだな。
むしろ臆病者と言うのは褒め言葉だとして受け止めておこう。慎重なやつだと言うのが彼女の真意なのだから。
「一応釘を刺すが、共闘は無しだ。
もし共闘が分かればその者の命はないからな。」
「共闘ってタイマンなら文句なしにして貰わないと駄目ですぅ。例えばこの武器使うのも言わば、共闘になりますん。」
流石にこの言い分には、私も失笑してしまう。
だが、ミウから発せられた言葉だと、探る様に言う。
「ならないだろう?」
「いえいえ、武器は職人さんが作りましたぁ。言わば職人さんの共闘ですん。」
剣を見て彼女が言った。
「ああ、そういうことか。問題ない。」
「ありがとうですぅ。なら決まりですん。」
彼女が礼を言ったということは、不味い返事をしてしまったのかと、首を捻る。
だが、それがなんだというのか? 私にはわからなかった。
「30分でどうだ? これ以上の妥協は飲めない。だが、場所はそちらで決めてもらう。」
「良いですぅ。それでやりますん。」
上手くいった。思わず手に力が入る。
「最後に言っておくが、妹には手を出すなよ?」
念の為にミウに忠告した。そうなれば、私は全力を持って彼女達を潰す。
「私にも手を出さないでくれません?」
「ステーキが目の前にあるのに食べない男がいるか?」
「そのステーキ毒が塗ってあるかもしれませんよ?」
「毒が塗ってあれば薬を飲むさ。それに食べて見なければ分からないからな。」
日付を決め、ではよろしく頼むと私は彼女に別れを告げ、楽しみで微笑む自分の顔を手で押さえた。
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