インフィニティ•ゼノ•リバース

タカユキ

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心理戦②

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エリオット視点

「デスロードはいるか!」

私は懐かしい友を呼んだ。

「なんだ、裏切り者のエリオットではないか。
何様だ?」

久しぶりの再会だと言うのに、つれない態度であった。気分を害した私は、苛立ちで歯ぎしりした。


「何様だと? 我が妹が人間に捕まったそうではないか? 居ても立っても居られず、こうして来た訳だ。」

彼が冷淡な態度を取る裏には、私が魔王軍を抜けたことによる、反感があるからだろう。

「それなら心配いらん…既にヴィクターを派遣した。奴ならうってつけだろう。」

対策は打ってあるということか。だがそれでは不十分だ。

確かにいい人選だろうが、その人間達は、相当手練なのだろう? 襲来のガビーネを倒すほどの。

「何故無比のミリアルドと吸血姫アイラも送らなかったのだ?」

彼等2人なら、圧倒的戦闘力で捩じ伏せてくれるだろうと考えている。
なので私は、デスロードに提案した。

「その2人は其方の言うことしか聞かん。文句があるなら、其方が命ずればいい。」

「恐らく失敗するだろうな。私が指揮を執る、デスロードよ、ヴィクターが死ねば私が行くが…妹の命が優先される。」

勝負師ヴィクターでは、戦力に不安が残る。
知力でなら引けを取らないだろうが、もし倒されるようなら、私に連絡が行くようにしておくか。

「他の者に手出しはさせるなよ。」

人間が妹に友好的ならば…私はある秘策をデスロードに授けた。

最も安全な方法だ。恨みを抱かせず、むしろ有り難みを妹に感じさせる。

だが、デスロードと私にはかなりの怒りの念を持つだろう。


大喜利大会場外。
アキラの視点に戻る。 

なぁ、ミウ。引きこもりのカッコいい言い方パート2してよ。

「闇夜に活発な親を絶望させし者。」

「あはは、それ俺じゃないか?」

笑いながら、俺はレイナと合流して、帰る三段をつけていた。

見つけたぞ!  

「フフフ、お初にお目にかかります。私、勝負師ヴィクターでございます。」

誰だ? あっ…セレーネが言ってた魔王幹部の1人だ。

俺はなんの要件かと聞いた。

ヴィクターが剣を出した。俺たちとここでやる気か? そう思ったがどうやら違うらしい。

その剣は蒼い輝きを放ちながらも、その刃は透き通ってすら見える。

鞘の上には赤いダイヤが付いていて、周りは黄金の装飾が施されていた。

それが揺らぐたびに僅かに光を反射させていた。
その鋭い剣先は氷柱のようであり、冷たさを感じさせる。

「私は殺し合いに来たのではなく、あなたの持っている、セレーネ嬢を取り戻しに来ました。」

ヴィクターが言うには、これは魔族の幹部が使っていた伝説の剣で、8千万ゼノはすると説明された。

「どうですか? この剣とセレーネ嬢をかけたギャンブルをしませんか?」

俺はそんなのはしないと断ったが、ヴィクターは、俺たちを一瞥すると、ミウに指を指して、あなたと私は同じ匂いがするとか、上手いこと言って、勝負を仕掛けた。


ギャンブルを申し込まれたミウに俺は断れと言ったが大丈夫勝ちますと余裕の笑みで答えた。


「フフフ、では始めます。コイントス表か裏か当ててください。」

どんな勝負を仕掛けるのかと思ったら、コイントスか。平等ではあるな。ただ少し拍子抜けをした。

とんでもない複雑なゲームを仕掛けられるんじゃないかと、ヒヤヒヤしていたのだ。

「分かりましたぁ!」

ミウが手を上げながら元気良く言った。

彼がコインを宙に上げて手の甲で受け止める。

「さぁ、表か裏か当てればこれは差し上げます。」


男が言うと、ミウが手を上げていた手を一気に降ろし、彼の手首を切り裂いた。


男の叫び声が響くがミウは気にする様子もなく、男の取れた手を開き表ですぅ! と叫んだ。

「ふ、ふざけるな!」
男は苛立ちながら言った。

「レイナ治してあげて下さい。勝負は私の勝ちですん。剣は頂きますぅ。」

ミウが満面の笑みで剣を抱えて喜んでいた。
冷酷ー! 俺は内心彼女の恐ろしさに震えた。

レイナご苦労様。敵をまた回復…デジャブだな。それでもミウが回復させたのは、俺とは違って、悪意からだろう。

でなければ彼女が回復をレイナに頼むなんてあり得ないからだ。

「ばっばかな! 認められるわけがない。」

ヴィクターが声を震わせて、涙を流しがら言った。

レイナが治して男は再び言う。

「酷いやつだ。そんなの反則だろ!」

ヴィクターが自分の手首をさすりながら言う。

「反則ではないですぅ。表か裏か当てれば良いとあなたは言いましたん。」

出た。ミウのトンチ。言い訳の天才だな、こいつ。

「甘いこと言ってますん。勝負に勝つには手段を選ぶべきではないのですぅ。」

そして今度は説教だ。ミウが論説を述べた。

「その痛みは勉強代ですん。治してあげるのだから、文句なしですぅ。」

「これは頂いていきますん。」

言う前から貰ってるじゃんと、心で言う。

「待て! まだだ。もうひと勝負だ。」

完全にミウに乗せられている。こうなったら、この男は破産するだろう。可哀想に。

「駄目ですぅ。やりたくないですん。」

本心ではないだろう。俺はこれが揺さぶりにしか思えなかった。最後のチャンスだよ、辞めとけと俺は敵を応援した。


「勝ち逃げする気か? 俺との勝負に怖気ずいたか?」

引き下がらず、ヴィクターが挑発するように言う。だが焦っているのは明白だ。汗が額から溢れていた。

「はい~怖気付いたのでバイバイですぅ~。」

ミウがこの場を立ち去ろうとする。

「待ちやがれ!」

男が必死に呼び止める。


「まだなにかあるのですぅ?」

ミウの眼光が鋭く獲物を捉えたかのように光る。


「俺の命を賭けよう…命を使ったスキルだ。もし断ればお前の命はないぞ。」

息を切らして男が言う。

レイナが呆れた様に鼻で笑って、小声で俺の耳元で呟く。

「この勝負ミウの勝ちね。」


「なら受けますけど、負けても良いんですよねー?」

ミウが言うと、レイナが吹き出して俺の肩に顔を伏せ、笑うのを必死に我慢していた。

「良いわけあるか!」

「えぇ、勝負してあげるのになんですかぁ? その上から目線!」

「挑発行為だろ? その手は食わんぞ。」

先程まで挑発していたヴィクターが、冷静に言った。

「それで勝負方法は、私が今度は決めて良いんですよね?」

ミウが主導権を完全に握る。

「もちろん。」

彼は術中にハマった。ミウが勝負を仕掛けるのは、もう自分の勝ちが決まった時だ。


「私が今手に持っているのはなんでしょう?」

全員口を開けて、一体何を言ったのか一瞬分からなかった。

「何?」

ヴィクターも聞き直す。

「それを当て下さいですぅ。」

ミウが無理難題をふっかける。

「当てろ? 無理だろ、そんなのは。」

俺はヴィクターに同意するように首を縦に振る。

「私はさっきコイントス当てましたぁ!」

確かに当てたな、恐ろしい方法でな。

「さっきのように攻撃するのはアリなのか?」

「アリですぅ! 何をしても良いので当てて下さい!」

これは、さっきミウがやったことをやらせるつまりか? 俺なら断るな。それか耳をくすぐるか? 真面目な話同じようにしたら、痛い思いをするだろうな。


「フッ、馬鹿め! ならお前の手首を頂く!」

彼は嬉しそうに先程の仕返しとばかりに手を振り下ろした。

「あっれ?」  

ヴィクターの首が地面に転がった。

「もちろん私の反撃もありですん。」

ミウがヴィクターを見下ろして言う。

「命懸けのゲームは、私の勝ちですん。」

「貴様…ぁ。」

「ふっふ、こんな簡単な罠に掛かるようじゃ、一生私に勝てないですぅ。」


「お…い、何しても良いと言ったはず。反撃なぞ認められるか!」

「さっきの台詞また言わせる気ですかぁ? 勝負に勝つには手段は問わずですぅ。」

ミウは甘くないんだ。それでも、一回勝負を終わりにするチャンスは与えたのだ。

「それに反撃ではないですん。攻撃されたので、抵抗してあなたの首を落としただけですん。」

今回のミウはイカサマも使ってない、戦闘をゲームに入れただけで、前者のヴィクターが非難した事をやらせている。

なんて狡猾なんだよ、恐ろしい女の子だな。俺はミウに驚嘆した。

敵が非難した事…そんなの認められないって。

にも関わらず、敵はこれを選択してしまった。

つまり最初のミウの行動も正当化を敵はしてしまった。

「ちなみに答えは何も持ってないでした!」

ミウが子供の様にお茶目に言った。

「くっ…何も持ってないと答えたら勝ちだったのか。」

男が無念そうに言った。

「フフフ、そんな訳ないですん。その答えをあなたが言ったら、正解は自分の指を持ってますって答えますん。つまりあなたは、最初から負けていたのですぅ~フフフ。」

彼女が腰をふりふりして、勝ち誇った。


「ふ、ふざけてやがる。手に持ってるのが指だと? はっ? 貴様もしかして…」

何かに気が付いた様に、ヴィクターが目を見開く。


「ご名答ですん。文句つけて来たら、自分の指を切れば良いのですぅ。つまりあなたとは覚悟が違うのですぅ!」

ミウが指を指し示し、ヴィクターに敗北を告げる。

良いだろう、俺の負けを認めてやる。だがな…俺の仇は、エリオットが晴らしてくれるわ。

そう言い彼は息を引き取った。

エリオット、セレーネの兄貴だよな? 
それは不味いな。でも、セレーネを玉に封じ込めているんだ。
いつかは対決しないとだろうな。

俺は別のことが気になり、彼女に質問した。

「レイナならどうするかな?」

「何を持っているでしょうか?」

ミウが手を伸ばして拳を作る。

「ウフフ、そうね~その手の中には夢を持っているのかも? ミウの手には無限の夢を叶えるちからがある。夢がないなんてあり得ないもの。」

ロマンチックだな、レイナ。

「ちなみにアキラならどう答えますかぁ?」

ミウが俺に聞いてきたので、必死になって考えて言う。

「俺かよ? うーん? 汗?」

「確かに汗持ってますけど~汗かいてないので見えないですぅ。」

「手垢もない?」

「不潔ぅー!」

ミウが不服そうに唇を尖らせて言う。

「なら俺は考えた! 希望を持ってる!」

「レイナのパクリですぅー!」

ミウがツッコミを入れると、
レイナがお腹を抑えながら笑う。

ふん。正解のない答えだけど、自分で作り出せる答えだな…俺は手を握り開けてを繰り返して、一つの答えを導き出した。


「正解は影を持ってる! 見ろ光で手に影が出来てる。」


「ハズレですん。手を開けば影は消えますぅ。浅はかなアキラらしい答えですん。」


「クソが!」

悪かったな浅はかで。

「ふふ、手を開けば影は消えるって言うけど、顔を近付ければ出来るよ? つまり浅はかじゃなくて、ピュアで哲学的な答えだと、私は思うなぁ。」

レイナが鋭くミウに反論した。さすがレイナ、一枚上手と言えるな!

「2体1は反則なので、2人は反則負けで私の勝ちですぅ。お疲れ様でしたん。」

ミウがお辞儀をして逃げる様に言った。

やれやれ、もう何も言わないけど、やっぱり最後に言わせてもらう。負けず嫌いにも程があるだろミウ!

俺は苦笑いして言った。

最近ずっとアキラのリアクション芸、薄くなりすぎですぅ。

彼女が、ジト目で俺に文句を言う。

ミウみたいなとんでもない子がいるのにいちいち驚いていられるか!

俺は強く反論した。

「なぁ、気になったんだけどさ、ヴィクターが勝負しなかったら、どうなってた? 手に何持ってるか、そう言う単純なのはやりたくないとか言われたら?」

「それはないですん。プライド高いのは知ってました。勝負師ヴィクターですよ? 勝負から逃げる事プライドが許さないんですよ。」


「どうしてそんなにヴィクターのこと詳しいの?」

「セレーネから聞き出しました。情報こそ、最大の武器って言いますん。」

仲良かったのかと俺が聞くと、褒めまくったと、言われて俺は、爆笑した。

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