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名前の秘密

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この玉の中、重力がない宇宙空間のようだ。そうは言っても、宇宙に行ったことはないが。

でも視点は変わらない…不思議な感じだ。

それにしてもこのスキル強すぎる。

遠くにいても逃げれないなら、名前被ったやつ全員閉じ込められるのか?

多分推測すると、1番近くにいるやつが吸い込まれるのかもしれない。

カノンとミウの悲鳴が聞こえた。

レイナの声は、聞こえなかった。

何か彼女に策があるのか?
きっとレイナならなんとかしてくれそうな気がする。

だけど1人に頼りきりも良くない。
俺たちにできる事をまずしよう。

「カノン! 魔法で破壊できないか?」

「無理ね…この玉の中魔法が発動しない。」

そんな! それじゃレイナで解除出来ないじゃないか…終わった…そうだ! 強盗に命乞いって手がまだ…いや…しかし、そんな手は使えない。

使ったところで、聞いてくれるとは思えない。ああ、俺の考えが甘かった…ん?

その時、強盗の戸惑う声が聞こえた。

「なんで? お前だけ無事なんだ?」

「残念でしたー! 私の本名レイナじゃないのよね。」

彼女の声が明るく、悪戯っ子のようにクスッと声が聞こえた。

そうだ! 彼女の本名は、レイナス! 良かった…助かった。

俺は心の底から安堵した。

「とぁ! えい!」

レイナが強盗とやり合う声がする。

この玉の中にいると、視界があまり良くない。
何が起こってるか、状況確認が至難だ。

「アキラ!」

ミウの声が聞こえた。

「大丈夫だ! レイナが助けてくれる!」
俺は彼女に安心させるよう、励ました。

「そうじゃなくて、やられたのにリアクション薄いですぅ~。もっとギャァ~とか叫ばないと!」

「何言ってんの? 今そんなこと言ってる場合か!」

俺はミウを叱るように言った。

「こんな時だからこそですぅ。異世界楽しみましょう!」

明るく彼女が返答した。

「アキラ、このバカの言うことほっときましょう! 今はレイナを応援しましょう!」

カノンが至極当然の事を言う。

「違いますぅ、ここは余裕を失ってはいけないのですん。バカなことは言ってないですん。」

ミウが反論したが、俺は失笑するしかなかった。

「レイナ頑張れ!」

彼女に精一杯の声援を送る。

「レイナなら、心配いらないですん。」

「まぁな。」

レイナのなんとかしてくれそう感は、疑いようがない。
彼女の戦闘中の冷静な行動を何度も見てきたからだ。

「納得しちゃ駄目よ! こんな時にふざけたこと言ってるんだから!」

カノンが怒って言う。

「むぅ~違うのにぃ!」

「違くない! 無神経ミウ!」

「フフフ、2人とも危機的状況なのに口喧嘩してる場合じゃないですよー。」

レイナが冷静に指摘する。

「アチョー!」

「ぐわぁ! この女強いなんなんだコイツら?」

「トドメ! てい!」

「ごっは!」

レイナと強盗のやり合う音が聞こえ、強盗の呻き声と共に聞こえなくなった。



「やりました、今から助けますね!」

彼女が呪文を唱え、俺たちは玉から脱出する事に成功した。

えらい目にあったと、服の埃を取るように叩いた。

「ふぅ、ここはレイナと俺しか活躍してないな。」

ため息をつきながら、自分とレイナの功績を称えた。

「アキラ活躍してないですぅ。」

ミウが笑いながら言う。

「そうね! レイナだけね。」

カノンが相槌をうつ。

「何を言うか! 強盗ほぼ倒したの俺だし!」

俺は語気を強めて言う。自分を卑下したりするのは嫌いなので、胸を張って言った。

「確かに私アキラに助けられましたけど、私の名前呼んだのアキラなので、戦犯でもありますぅ。」

…えっ! 嘘だろおい…そうだったか?
記憶にはないが、ミウが言うからそうなのだろう。

「なんだよ、酷いよミウ…この裏切り者!」

彼女を非難しながら、自分が情け無くなってきた。
謝ろうとしたところ、微笑む姿が見えた。

「冗談ですよぉ~、本当は凄く感謝してますぅ。助けてくれてありがとうアキラ。」

俺は思わず口を手で覆った。

「なんだよ! いや、そう言ってくれると素直に嬉しいから。」

俺は照れながら言う。


「何よコイツ! 私だけなんか同意して悪いみたいじゃん!」

カノンが恥ずかしそうに顔を手で隠す。
俺と似たような仕草をしたので、彼女に親近感が湧いた。


「ふふ、ミウにやられたわね2人とも。最初に批判しておいて、後から称賛するなんてサンドイッチ法ね…かなりの言葉のテクニシャンね!」

レイナが感心するように拍手する。

なに? そんな手法があるのか、気をつけよう。

「よく知ってますねー、さすがレイナですぅ。」

「何よ、わざとアキラ批判したの?」

「まさか、意識して使ってないですん。ただ先に褒めるのは良くないのは知ってますぅ。」


ミウって頭の回転が異常だな。
いつ考えてるのか知らないが、ふざけた事言ってるようで、まともな事言ってるんだよな。

リアクションが薄いとか言ったのも、実はパニックにならないよう、俺たちに気を遣ったのかも。

機転が効くやつだもんな…敵じゃなくて良かった。

あれ? もしかして俺って、ミウの1番の理解者じゃないか?

「ミウ俺もお礼を言うよ、ありがとう。レイナも助けてくれありがとう。」

どういたしまして。

2人にそう言われ、俺は笑みを浮かべた。

「うぅ、私だけお礼言われてない。」

心細そうにカノンが呟く。

「活躍してないですん、当たり前ですぅ。」

ミウが切り捨てるように言う。

「この強盗、魔法でギルドに運ぶんだから!
これから活躍するから! 大体ミウだって活躍してない!」

カノンが強盗を指差ししながら、ミウに強く反論した。


「確かに活躍してないですぅ。アキラの好感度高いから礼を言われたんですね。カノンのお陰で気がつきました!」

ミウが煽るように言う。気まずいだろ、そんなこというなと心で呟いた。

「何よそれ! 私の好感度が高くないって言いたい訳?」

腰に手を当て、カノンがイライラしながら言った。

「まぁまぁ、アキラがお礼したのは、ミウが先に感謝したから言っただけですよ。2人とも本当に喧嘩するのが好きですね。」

レイナが眉をひそめていう。
 

「カノン強盗運ぶのありがとうな。」

俺は空気を読んで言った。
カノンが頬を掻いて照れているのがわかった。

そして気絶した強盗の懐から玉を探した。

あった。盗みを働くようで、後味が悪かったが、この玉で俺も一回だけ、モノマネで敵を封じられるはず。

「さてギルドに一旦戻って、賞金貰って質屋から装備を取り戻そう!」

おー!
と俺は声高に叫んだ。

は~いとみんなが明るく返事をした。
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