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20.一時帰宅編③
しおりを挟む「あ、斗真くん!」
軽く小走りで公園に入ってきた斗真に、明日香が気づく。
「ごめん、遅かったな。電車が遅れて」
「いやいや、大丈夫だよ。時間を決めてたわけじゃないし」
こうしてここで集まるのはもう何度目だろう。
これといって有益な情報が集まるわけもなく、ただだらだらと続けているだけになっている。
それでも、あの場所のことを話せる機会は限られているため、3人ともこの時間が楽しかった。
「今ね、タクミくんからおもしろい話を聞いてたの」
「何か思い出したのか?」
ベンチにバッグを置きながら、斗真が聞いてみた。
「いや。思い出したというか、あれだ。俺ら3人に共通して接触してきたやつがいるって」
そう言われて思い出すのは、長谷川リン、星川ユイ、北仲亮平くらいだろう。
「誰だ?」
「北仲亮平。プログラムのことを調べている、貴族階級の人間」
「……おかしいか?」
斗真はそこまで関わりがないせいか、それほど違和感は覚えていない。
「紗奈様は、学園内で起きていることを簡単に知ることができる。手段は知らないけどな」
「どうしてそう断言できる?」
「あ、わたしがね、屋上で暴れた時があったの。転移してすぐの頃かな。あの時、黒滝紅蓮が呼びにきて」
「そうじゃなくても、プログラム被験者が何をしているか、知らないはずはないんだ。監視カメラか何かを取り付けて、学園内の様子をリアルタイムで監視していたはずだ」
言われてみればそうだと納得する。
「そして、明日香さんの屋上での一件からも、屋上にはそれがあることが断言できる。俺や明日香さんが北仲亮平と話したのは、屋上だった。斗真は?」
「……声をかけられたのは図書室だが、その後屋上に移動して話をした」
なぜ屋上だったのか。
その時は人がいないからだろう、くらいにしか考えていなかった。
しかし、こうして話してみると、確かにおかしい。
「もし紗奈様が屋上で起きていることを知っているのなら、北仲亮平の反逆行為も、知っているはずだよな」
東郷紗奈は、反逆行為を知っている。
それなのに、今まで北仲亮平は特に注意を受けた様子もない。
調査も続けているようだった。
その理由は……。
「紗奈様は、北仲亮平の反逆行為を否定する気がない、ってこと?」
「そういうことだよ、明日香さん。否定する気がなく、むしろ肯定していて、プログラムを世間に広めてほしいと思っているかもしれない。俺はそう思っている」
「いや、まさか、そんな」
「ありえるな」
斗真も口を開いた。
「その動機が明らかだ」
「動機って?」
「このプログラムには、東郷紗奈の弟が持っていた転生能力が使われている。東郷紗奈からゲームマスター、そして俺たち被験者がその能力の一部を借りているからな」
プログラムが世間に知られた時、おそらく一番に問われるのは、転生能力の大元だろう。
そして、東郷紗奈は、弟の存在を明らかにしたがっている。
斗真はそれを知っていた。
東郷紗奈の予想では、プログラムを知った北仲亮平が、周りにそれを話すと思っていた。
しかし、北仲亮平は、誰にも話さずに一人で調査を続けている。
それが、東郷紗奈の計画が壊れた原因だろう。
すべて、斗真の予想でしかない。
それでも確信に近い何かがあった。
「でもさ、そう考えれば、紗奈様には、協会や理事長に反抗する意思が前からあったってことにならない?和馬様がいなくなってからって説が、否定されることになると思うんだけど」
「いや、それも違う。今までは隠れていたんだ。澤山和馬が亡くなってから、隠す意思がなくなったんだと思う」
「だとしたら、協会や理事長は、もうずっとこの問題を見逃しているの?これからもずっと?そんなわけないよね?」
明日香の心配そうな顔が、どんどん暗くなっていく。
「紗奈様が危なくない?」
「いや、それは大丈夫だろう」
斗真は不確実ながらそう証言した。
「斗真くん、どうしてそう言い切れるの?」
「理事長はともかく、協会が気づいている可能性が低い。プログラムは、学園側に丸投げ状態のようだからな。学園の細かい部分まで見ているとは思えない」
これも予想でしかない。
それでも、東郷紗奈たちの様子を見るに、協会がプログラムに関わっていそうな雰囲気はなかった。
「でも理事長は?」
「気づいていても、何も言わないと思う。東郷家唯一の後継者を逃すわけにはいかないだろう」
東郷紗奈の弟の存在を認めるというのなら、話は別。
しかし、今のところその可能性はない。
「そういえばさ、斗真くんって、一時帰宅だったよね」
明日香の言葉で、話題が変わった。
「まぁ、そうだな。12月に迎えに来ると聞いている」
「わたしの時は、和馬様が亡くなって、プログラム中止になったのに、斗真くんは一時停止なんだ?」
「事の重大さの違い、かな」
タクミもその話に入ってくる。
「それもあるかもだけど……。斗真くんだけ、中止にできない理由があるんじゃない?」
「斗真だけ、俺らとは違う理由でプログラムに参加させられたってことか?」
「うん。だって、ゲームを始めた理由も違うしね?元々一族のことを知ってたんでしょ。それに、紗奈様に弟がいることも教えてもらってる」
「弟のことは、ただのミスだ。
「わたしたちの時に、写真を落とすようなミスはしなかったし、そもそもミスをすること自体がなかった。もしかして、紗奈様にとって斗真くんは、特別な被験者なんじゃない?」
「紗奈様の好きな人とか?」
「タクミくん!真面目に考えて!」
「考えてるだろ」
再び始まる喧嘩に、斗真が仲裁に入る。
「お前ら、やめろって。仲良すぎだろ」
3人で集まるようになってから、喧嘩するほど仲がいいということわざの意味を、斗真は実感していた。
「でも、斗真が紗奈様に信頼されてるっていうのは、そうだと思う」
タクミまで言い出した。
「婚約者が亡くなって、自暴自棄になっている様子が、斗真からでもわかったってことだろ?」
「黒滝紅蓮に言われてからだけどな」
「でも、紗奈様が弱いところを見せたってことじゃないか。この理由が、信頼しているから以外に、何があるんだ?」
信頼されている?
斗真は首をかしげる。
特に大きなことは何もしていない。
信頼される理由がない。
しかし、そう言われて、思いつくことはある。
「俺が一族について調べる時は、無条件で許可してくれた。協会について知りたいと言った時もだ」
「ほら、やっぱり!わたしたちなら、ありえないことだよ!」
「けどそれは、俺が一族についてだいたいのことを知っていたからで」
「ポジティブに考えよう!紗奈様に信頼されるって、すごいことだよ!」
なぜか興奮している明日香に、斗真の方が戸惑っていた。
「紗奈様から想われてるのかもな」
「うるさい」
タクミの意見は真っ向から否定したものの、今日のことは頭から離れなかった。
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