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13.室井斗真編③

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「……それで?俺は何をすればいいんだ?」

斗真とリンとユイだけになった室内で、最初に沈黙を破ったのは斗真だった。

「紗奈様があんなことを言われた以上、わたしたちにそれを止める権利はないわ。勝手にして」

「あ、でも、わたしたちの前でそういうことしたら、さすがに見逃せないからね?」

ユイとリンにそれぞれ言われ、玉響一族について調べるチャンスのヒントをもらった。

「まず、校内を案内しようか」

「いや、その前に名前を教えてくれ。お前らは俺の名前を知ってるみたいだけど、俺は知らないんだ」

「……?ゲーム、やってないの?」

リンが不思議そうに聞いてくる。

「ゲーム?もしかして、パラレルワールドがなんとかってやつ?」

「そう。スマートフォンの恋愛シミュレーションゲームって聞いてるけど」

「やってるけど……」

「じゃあどうしてわたしたちを知らないの?」

わからないのは斗真の方だ。

「お前たち、その関係者か?」

一応思いついたことを言ってみると、

「うん。そのゲームは、ここを舞台に作ってるんだって」

と返ってきた。

つまり、ここはある意味でゲームの世界だったわけだ。

そういえばと、東郷紗奈を見た時のことを思い出す。

彼女だけは別格で美少女のため、しっかりと覚えていた。

ゲームの中でも、重要な位置のようだったからだ。

「あぁ、それと」

ユイが付け加えた。

「紗奈様のことは、いくらあなたでも紗奈様と呼んだ方がいいと思うわ。理事長のご子息で、東郷家の後継者だから」

「ふぅん」

東郷家。

その言葉も、斗真は引っかかっていた。

2人の口ぶりから、かなりの家だろうということは想像できる。

しかし、祖父が残した本のどこにも、その記載はなかった。

調べなければいけないことが多すぎる。

「というか、お前たちの名前は?」

「星川ユイよ」

「長谷川リンだよ」

こうして斗真は、新生活を始めた。



玉響一族について調べるのは、簡単すぎた。

学校図書館にも本が置いてあった。

インターネットでも教材としてそれに合うものが出てきた。

自民族の歴史は、普通に必要な知識なのだろう。

ただ1つ。

“協会”という言葉は、どこを探しても見つからなかった。

この場所――パーラー街という名称らしい――を治めているのは、東郷家と黒滝家という2つの家。

東郷家の後継者である東郷紗奈にも、協会に対しては服従を示している。

“協会”がかなりの立場なのだろう、ということは想像できる。

なのに、それに関する記述が全く見当たらない。

そんなことがあるのか?と首をかしげる。

協会は存在しないのか。

そんなわけがないと思う。

では、秘密組織?

こちらの方が可能性としては高い。

ということは、直接聞くしかない。



ということで、斗真はその場所を訪れた。

「紗奈、様」

東郷紗奈がいる部屋には、珍しく黒滝紅蓮がいなかった。

「敬称をつけたくないのならなくてもいいわよ。そんなに無理につけなくても」

「……助かる」

どうも同い年に敬語を使うのはなれない。

「それで?あなたひとりでどうしたの?リンかユイにそばにいるように、いつも言っているはずだけど」

東郷紗奈はそう言うが、別の指示があるのだろう。

2人はなにかと理由をつけて、斗真のそばを離れることが多い。

そのおかげで、斗真は様々なことを調べられるのだが。

「聞きたいことがあって」

その場は素直にそう告げる。

「長くなりそうね。少し待って」

東郷紗奈はそう言って、数枚の紙にそうかきこんだ後、顔を上げた。

「いいわよ」

東郷紗奈が手帳を閉じた拍子に、何かがふわりと宙を舞う。

それは、斗真の足元まで飛んできた。

1枚の写真。

2人が映っている。

1人は、東郷紗奈。

斗真では、東郷紗奈の笑顔は見たことがないため、断言はできないが。

そして、問題のもう1人。

東郷紗奈と同じくらいの身長の男。

よく似ているが、少し幼さを残した顔。

「弟か?」

写真を手渡しながら聞く。

「えぇ。ありがとう」

「同じくらいの年齢だろう。お前はあれだけ騒がれているのに、なぜ弟は騒がれないんだ?」

東郷紗奈の親衛隊のような存在も知っている。

しかし、弟のことは噂すら聞こえてこない。

「学校にいないからよ」

東郷紗奈はあっさりと吐いた。

「この世にも、存在しない。そういうことになってるの」

「は?なんで?」

東郷家の権力があって、そんなことができるのか。

「東郷家の息子としてふさわしくないから」

「は?」

さらにわからない。

遊んでいる、とかそういうものであれば、存在くらいはあるだろう。

もちろん、写真を見ても、遊んでいるようには見えない。

……むしろ、身体が弱いような、そういう印象を受ける写真だった。

「英雄じゃないから、とか?」

「……いいえ」

少し含みがあった。

「じゃあなんでだよ」

これも好奇心だろうか。

気になる。

「知らないわ」

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