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12.室井斗真編②
しおりを挟む「どうしますか?紗奈様」
星川ユイが相談する。
「……」
連れてこられた校内の一室で、室井斗真は目の前の女性を見た。
綺麗な顔立ち。
その顔で、思い出す。
あのゲームの登場人物と似ている、と。
「よりによって、協会もそんな人を被験者にするなんて……」
東郷紗奈が困っている。
そんなことよりも、斗真は気になる言葉を聞いた。
“協会”
そんな言葉は、祖父からの本には書いていなかった。
ゲームにも出てこなかったはずだ。
「これが協会に知られれば、きっとプログラムは中止に……」
長谷川リンの戸惑う声に、
「紅蓮、どう思う?」
東郷紗奈が隣に立つ秘書に確認する。
「……やはり、協会に知られるわけにはいかないかと」
黒滝紅蓮がそう答えると、
「しかたがないわね。室井斗真、わたしたちに協力してもらうわ」
協力?と、斗真が首をかしげる。
「とにかく、玉響一族に関して知っていることは」
そう言って、東郷紗奈が止まった。
「紗奈様?」
リンが不思議そうに声をかける。
「なんでもないわ。室井斗真には、玉響一族に関して知っていることは、すべて知らないことにしてもらう。リン、ユイ、あとはお願いできるかしら」
「はい、紗奈様」
「もちろんです」
斗真は理解が追い付かないまま、その話を聞き流す。
祖父の本に書かれていなかった、斗真の知らないことが多すぎる。
玉響一族に関しては一応知っていると自負していたのに。
祖父でさえ知らなかったことがあったのだということに、斗真は複雑な思いを抱えていた。
一生を玉響一族の研究にささげた祖父でも知れなかったことがあった、ということに。
「お父様にも知られるわけにはいかないわね……。わたしが動きすぎると怪しまれるわ……」
「紗奈様、私が紗奈様のご指示を伝えるのはごく自然なことと思います。東郷様も疑問に思われることはないでしょう」
「……そうね。これからの指示は、紅蓮と通じてリンとユイに出すわ。今まで前例のない被験者だから、慎重にね」
「なぁ、俺の話は聞かないのか?」
「聞く必要はないわ」
なるほど、と思った。
斗真が暮らしてきた世界の法律は、ここでは通用しない。
「一応言っておくけど、俺は、たしかに人よりは少しだけ玉響一族に関する知識がある。だからって、玉響一族の力を悪用する気はないし、捕らえるつもりもない」
「……理解できないわ」
東郷紗奈が不審げに言った。
「わたしたちが知っている中で、あなたたちの世界にいる人間は1つだけ。一族に生まれる子ども全員が超能力を持っている理由を探る人間たちだけ」
そんなことがあるのか。
祖父はそういう人間たちだったのか。
「わたしたちを保護する人間がいるとも、そういう組織があるとも、聞いたことがないの。その状態で、あなたが言ったことを全部信じられると思う?」
確かに、それだけでは信じられないだろう。
「お前たちに協力する、と言ったら?」
「どういうこと?」
「そのままだ。俺は、協会とかいうやつらは知らない。けど、お前たちにとっていいやつらじゃないことはわかった。だから、お前たちに協力する。そう言ったら、信じてくれるのか?」
「何が目的?」
東郷紗奈は当然のように聞いてきた。
無条件だとは思っていないらしい。
「俺の知識は、祖父から聞いたものばかりだ。祖父が知っていたものだけが全てじゃないと、今知った。俺は、玉響一族に関して知りたいだけだ」
「つまり、わたしたちに教えてほしいと?」
「あぁ」
「それは無理ね」
東郷紗奈はあっさりと言い放つ。
「あなたたちの世界にも法律があるんでしょう?わたしたちにも守らなければいけない法律がある。わたしたちから教えることはできないわ」
ということは、外の人間にここのことを知られてはいけない、というのがルールらしい。
ではなぜ、ここに招いているのだろうか。
「ただ、人間の探求心は抑えられるものではない。あなたが、わたしたちの知らない間に自分で調べるのなら、わたしたちに止めることはできないわね」
「さ、紗奈様!」
黒滝紅蓮が驚いた様子で止める。
しかし、東郷紗奈は止まらない。
「話は以上よ。わたしは協会に呼び出されているから行かないといけないの。リン、ユイ、あとは任せるわ」
「はい」
「お気をつけて、紗奈様」
東郷紗奈と黒滝紅蓮が部屋を出ていった。
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