手向け花を捧ぐーREー

井上凪沙

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第38話

「・・・お母さんって、呼んでもいい?」

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「寝過ごしちゃったわ。シンアちゃん待っているかしら・・・」



祖母は時計を見ると時刻は5時を回っていた。
校門近くのところに車を停めると学校へと向かう。
校門を潜って真っ先に祖母の目についたのが、
血を流して倒れているキキョウだった。
そのキキョウの側にはカトレアが立っていて、手には血がベッタリとついたハサミが握られている。




祖母はそれを見て言葉をなくし、しばらくそこを動けないでいた。





ーーー





キキョウ「ん・・・・」




カトレアによ刺されたことで、死んだと思っていたキキョウは白い世界にて目を覚ました。



キキョウ「・・・ここは・・・」


カトレア「ここは狭間の世界。神により、生か死かを問われる場所というべきか」




その白い世界にはキキョウとカトレアしか居ないようで、キキョウは体を起こして立ち上がる。

そう言えば俺・・・腹を刺されて・・・。




と、キキョウは自分のお腹に手を当ててみれば何ともなっていなかった。





カトレア「貴方がわらわの元に来ると、一生かけてわらわの僕(しもべ)になることを誓うと言うのなら、貴方の心臓をわらわに捧ぐのよ」



キキョウは目の前にいるカトレアに目を向ける。



キキョウ「・・・・本当に・・・貴方は神様の生まれ変わりだったのですね」

カトレア「・・・まぁ、もともとわらわも普通の人間だったのよ。けど、ある日を境にして人間をやめた。
この世界を作り上げたとされる神により、わらわは神に生まれ変わったの。そして、その神から役目を与えられた」

キキョウ「この世界を作り上げた・・・って、、あの噂の・・・創造神・・・?」

カトレア「そう。信じられないと思うけどね」

キキョウ「・・・信じられないことなら、もう何回もこの目にしました」

カトレア「・・・そう。
役目とは、ここで心臓を捧げる代償として人生を新しくやり直すか、否かを問うコト。

絶対に誰しも死んだ人間がこの白い世界に来て神から問われるなどということはない。
この場にいれること自体は神から選ばれた者だけ・・・。

さぁ、今一度問うわ・・・貴方はわらわに心臓を捧げるのか、否かを。心臓を捧げれば貴方を蘇らせてあげるわ。そしてわらわの僕(しもべ)になるか、拒否してこのままここで一生を終えるか・・・」

キキョウ「・・・貴方様についていきます。一生かけて」



真っ直ぐなキキョウの揺らぎのない瞳に、カトレアはフッと笑う。



カトレア「交渉成立ね。
わらわの名前はカトレア。それが創造神より与えられた名よ。

今から貴方の心臓をもらい受けるわ。そして、貴方に永遠の命と力・・・それから、もう一度新しく人生を歩むための名を捧げよう。


貴方の名前は・・・シンア=レイズではない。
キキョウと言う花を捧げるわ。

キキョウの花言葉、強いてあげるなら、「誠実」かしら。
それがこれからの貴方の新しい名前になる」



キ・・・キョウ・・・?





カトレアは手の甲をキキョウの前に向けると、その手の甲からジャララララと鎖が現れその鎖はキキョウに向かっていく。
そしてキキョウの胸を貫いて中から心臓を引き抜いたのだ。


耐えられない痛みにキキョウはその場に血を拭いて倒れる。






カトレアはキキョウの心臓を手にして、意識を失っているキキョウを見る。






・・・さぁキキョウよ。貴方には永遠の命と、力を与える。




現世でまた、会いましょう?















ーーー







「・・・ア・・・・シ・・・・・ア・・・っ
シンアちゃん・・・!!」

誰かの呼ぶ声で目を覚ますキキョウ。そして自分の
の身に降り注ぐ火を見てキキョウは驚いて立ち上がるも、その火は全然熱くなかった。


あれ・・・

熱く、ない・・・?




この火は、一体・・・。


キキョウは自分の両手を見つめる。



「シンアちゃん!!」


その場に祖母が自分を呼ぶ声が聞こえ、キキョウは火の中からそちらに目を向ければキキョウの方に走って来ようと手を伸ばしていた。



おばちゃん・・・。



キキョウは昨日の夜、祖母と一緒に寝た事をふと思い返していた。


キキョウと祖母は一緒の布団に入り、
キキョウは祖母に抱きつく。
そして、ボソっと小さく呟いた。

キキョウ「・・・お母さんって、呼んでもいい?」
と。

そう言ったキキョウに、
祖母は「ええ、いいわ」と優しく微笑む。




その事を思い出したキキョウは祖母へと駆け出した。



キキョウ「・・・っお母さん!」

キキョウが祖母に手を差し伸ばすと、
体を纏っていた炎が祖母の方へと伸びていき祖母を焼いていく。


キキョウ「!」


祖母から悲鳴が漏れる。


その光景がまるで、火事にされた家を思い出す。
焼かれていく両親。悲痛の叫び声。

今でもこびりついて頭から離れない・・・。
両親の熱い、熱い、と声をあげて焼け死んでいったのを・・・。




祖母からの、熱い、たすけて、って言ってキキョウに手を伸ばしている祖母に。



おばちゃん・・・。
ごめん・・・。



キキョウは何も見たくなかった。何も聞きたくはなかったから目を瞑って両耳を強く、塞いだ。




カトレア「ふむ。まだ力のコントロールが出来ていないようね」



それを側で見ていたカトレア。
そうしてキキョウを包んでた炎が消えれば祖母を焼いていた炎も消える。



キキョウはその場にへたりこむ。



祖母は黒焦げになって、息絶えていた。


カトレアは焼かれ死んだ祖母へと近づいて瞳を赤く光らせて鳥の姿へと変える。



その鳥を手にするなり、キキョウの方に歩いていく。


カトレア「キキョウ」


カトレアはキキョウの肩をゆすり、耳を塞いで目を瞑っていたキキョウはそっと目を開けてみると、目の前に鳥を差し出された。


その鳥は口をパクパクとしている。




カトレア「貴方の家族、であったのでしょ?
ほら、ちゃんと鳥にしたらまだ生きているわ」


キキョウ「・・・たったひとりの家族、でした。
ずっと、、家事をしながら・・・俺を・・・
私を一人で面倒みて下さった」




キキョウはカトレアの手の中から鳥を受け取る。


そして鳥の姿になってしまった祖母を優しく抱きしめていた。












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