8 / 29
8
しおりを挟む神殺しの剣テュルファングと出会って以降、地味に呪い関連の事案が絡んでくる機会が増えた気がする。
ルーシーによれば「わたしの魔力の波長に反応しているのかも」とのこと。
ほら、幽霊とかって視える人のところに寄ってくるって話を聞いたことない?
自分のことが視えているのならば、きっと話も聞いてくれるだろうと、すがる想いにて、うらめしやー。
わたしを取り巻く状況は、どうやらそれに近いものらしい。
いくら健康スキルの恩恵にて、呪いなんてへっちゃらな体質の女とはいえ、なんて迷惑な! ノットガルドにはネクロマンサーがいるんだから、そっちへ行けよ! こっち来んな!
それでもって、今回はコレだよ。
井戸の底から聞こえてくるのは「ピチピチギャルとデートしてえ」とか「おっぱいの大きな未亡人に囲われてえ」とかいうふざけた台詞。
そんなもの、わたしだって囲われたいよ! そして膝マクラにて存分に甘やかしておくれ!
井戸の底にはロープを括りつけたルーシーさんに行ってもらった。
だってわたしだと、その辺にロープを括りつけて降りることになる。そして引き上げてもらえないので、自力でよじ登ることになる。しかも荷物をかついで。
作業効率を考えた結果が、この配役である。
ゆっくりとルーシーが吊るされたロープを下ろしていく。
ある程度いったところでロープが向こうからクイクイと反応。
すぐさま引き上げたところ、ルーシーの手には小さな石のコケシみたいなのが握られてあった。井戸の底が横に掘られており、一番奥の祭壇にて飾られてあったという。
五百ミリリットルのステンレスケトルぐらいの大きさ。重さもちょうどそれぐらい。
その石のコケシがお天道さまの下に出たとたんに「夏の太陽は嫌いだ。あとビーチのカップルども、うぜー。全員爆ぜろ。もしくはモゲろ」と言った。
「これがアルチャージルに災いをもたらす……、邪悪?」
わたしが首をかしげるとルーシーも「たぶん」と自信なさげに首をかしげた。
だが当の石のこけしはやたらと自信に満ち充ちていた。
「おうとも、オレさまがその気になれば、リゾートだのバカンスだのと浮かれているバカどもなんぞ、あっという間に不幸のどん底へと叩きおとしてやるわ」
ちょろちょろ漏れる呪染だけで、いろいろと災いを招いているところからも、実力はある。まんざら大言壮語というわけでもないのかもしれない。
だからとっとと叩き壊そうとしたら、ルーシーに止められた。
「いけません、リンネさま。この手のトラップは迂闊に手を出すと爆発すると相場が決まっているので」
「なら埋めるか? コンクリートでがっちりと固めて」
「おそらくですが、それとても一時しのぎでしょう。どうやら封印されている間に、身に染みついた呪いが薄まるどころか、ますます熟成されて濃くなっている様子。ヘタに埋めて放置していたら、次はとんでもないことになるかもしれません」
「えー、めんどくせー。でもそうしたらどうすればいいのよ」
「そうですね……。当人にきいてみるのが手っ取り早いかと」
「?」
「呪いというモノは強い想いの残滓。その想いを成就してやれば、呪いも自然と霧散するというもの」
「なるほど、そういうことか。よし、わかった。じゃあ、とりあえず石のコケシにたずねてみよう」
「コケシさん、コケシさん、どうすれば穏便に逝ってくれますか? 教えてください」
主従してめっちゃへりくだって教えを請うたら、「しょうがねえなぁ」とコケシ。「そうだな、オレさまデートがしたい」とか言い出した。
これにはさしものルーシーの青い目も点となる。あまりにもしょうもない願いだったからだ。
だがわたしには彼の気持ちがちょっぴりわかる。
いや、いささか見栄を張った。悲しいことに、むしろガッツリわかってしまう。
「カップル爆ぜろ」とか「リア充くたばれ」とか悪態をついてる人ほど、じつは内心でとっても彼らをうらやましがっている。
自分の殻に閉じこもり、斜にかまえることで、夏をやり過ごし聖なる夜に息を潜め、どうにか己のちっぽけな自尊心を守っているにすぎないのだ。
その殻とて、ほぼほぼ紙装甲。
だからやさしくしてちょうだい。すぐに破けちゃうから。
自分もイチャコラしたい。でも出来ない。相手がいない。ならば自分から動け。そんな真似が出来れば誰も苦労してねえよ! スズメ並みのチキンハートを舐めんな!
あー、自分から行く意気地なんてないし、誰か告白してくれないかなぁ。
いまならフリーよ。浮気もギャンブルも酒もタバコもしない。暴力なんてもってのほか。こう見えてマジメで一途な優良物件だよ。早い者がちだよ。ウエルカム、ラバー!
しかし、現実はどこまでもしょっぱい塩対応。
基本的に棚からボタ餅は降ってこない。大口を開けてバッチこーいと待っていても、口の中がカラカラに乾燥し、ノドがいがらっぽくなるだけ。
この石像を彫っていた古代の勇者も、はじめのうちは怨念を込めるかのようにして彫り進めていたのであろうけれども、歳月が経つうちに、そこに憧れやうらやましいという気持ちが上塗りされていったと。
誰かに愛されたい。
誰かに必要とされたい。
そして誰かを愛したい。
「デートがしたい」
石のコケシの、しようもない願いに込められた、切実なる心情。
これをくみ取ったわたしはひと肌ぬぐことにした。
「しようがないね。そういうことなら、このピッチピチのわたしが相手をしてやるよ」
報われない野郎の魂を鎮めるために、いま乙女が立ちあがる!
だというのに、石のコケシは「えー、オレは胸の大きな子が好みなんだけど」とかぬかしやがったから、すかさずスコーピオン断罪トゥーキック。
つい反射的に蹴飛ばしてしまい、森の奥へと飛んでいく石のコケシ。
おかげで探す手間が増えた。
だがこの一撃が功を奏す。
「へへっ、オレは気の強い女も嫌いじゃないぜ。ツンデレ、いいじゃないか」だってさ。
どうやらコイツを彫った男は、かなり守備範囲が広いらしい。
それから石のコケシが阿呆で助かった。
0
本作にはまだまだ改良の余地があると思っております。『ここがちょっと分かりにくいな』『ここはもっとこうした方がいいんじゃないか』等々、どのような意見でも構いませんので、コメントをいただけたらと思います。 十二田明日
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
小説家になろうでジャンル別日間ランキング入り!
世界最強の剣聖――エルフォ・エルドエルは戦場で死に、なんと赤子に転生してしまう。
美少女のように見える少年――アル・バーナモントに転生した彼の身体には、一切の魔力が宿っていなかった。
忌み子として家族からも見捨てられ、地元の有力貴族へ売られるアル。
そこでひどい仕打ちを受けることになる。
しかし自力で貴族の屋敷を脱出し、なんとか森へ逃れることに成功する。
魔力ゼロのアルであったが、剣聖として磨いた剣の腕だけは、転生しても健在であった。
彼はその剣の技術を駆使して、ゴブリンや盗賊を次々にやっつけ、とある村を救うことになる。
感謝されたアルは、ミュレットという少女とその母ミレーユと共に、新たな生活を手に入れる。
深く愛され、本当の家族を知ることになるのだ。
一方で、アルを追いだした実家の面々は、だんだんと歯車が狂い始める。
さらに、アルを捕えていた貴族、カイベルヘルト家も例外ではなかった。
彼らはどん底へと沈んでいく……。
フルタイトル《文字数の関係でアルファポリスでは略してます》
魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります~父が老弱して家が潰れそうなので戻ってこいと言われてももう遅い~新しい家族と幸せに暮らしてます
こちらの作品は「小説家になろう」にて先行して公開された内容を転載したものです。
こちらの作品は「小説家になろう」さま「カクヨム」さま「アルファポリス」さまに同時掲載させていただいております。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる