今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ

文字の大きさ
上 下
8 / 10

魔物住まう森2

しおりを挟む

 森林浴、歩きやすく整った道……そんなものは一切ありません。
 道自体がなく、そこら中からぼこっと大樹の根がせり出しているせいでとても歩きにくいです。

 飛び出している枝や雑草をかき分けながら、人を拒むような森をさらに奥へと向かいました

 まだ昼間なのに、大樹が空を隠しているせいで、異界に来てしまったかのように感じますね……。
 ただただ薄暗くて、じめっとしていて、気持ちのいい場所ではありません。

 ここに家を構えるのは難しいかもしれませんね……。
 がっかりしながらも、問題解決のため、私はさらに一歩を踏み出します。

 作物を食べてしまう魔物がいるらしいけれど、どうしてそうなったのか、調べる必要がありそうです。

「キュイ、キュイ」

 鮮やかなスカイブルーの小鳥が、頭上をぱたぱたと飛び、そばの枝にとまりました。

 あの子なら、魔物の食料問題について何か知っているかもしれません。
 私は小鳥に向けて【念話】の魔法を使いました。

『こんにちは~』
『? 今声が頭の中に……』

 チチチ、と鳴くと同時に向こうの声が聞こえました。
 魔法は成功したようですね。

 くりくり、と首を左右にかしげながら小鳥は周囲を見回しています。

『こっちですよ、こっち』

 おーい、と小鳥に手を振ると、目が合いました。

『ニンゲンだ!?』
『そうですよー。シルヴィと申しますー』
『なぜボクはニンゲンと話せているんだろう……?』
『そういう魔法を使ってますから』
『へえ。ニンゲンってすごいや!』

 ぱたぱた、と飛んできて、小鳥は私の肩にとまりました。

『危ないよ。ニンゲンがこの森に来ては』
『承知の上です』
『変なニンゲン』

 キチチチ、と鳴き声を上げました。どうやらこれが笑っているようです。
 小鳥は、自分のことをハリーと名乗りました。

『魔物たちが、最近町の畑を荒らすそうなんです。何か心当たりはありますか?』
『心当たりっていえば、ホーンラビットの数が増えたことかな』
『兎の魔物ですか』
『そ』

 ハリーの話によると、天敵の狼が最近いなくなり、この森で数が増えてしまったのが原因だそうです。

『数が増えて、食べ物がなくなっちゃったんだ。ボクらは今まで通りだけど、ホーンラビットと似たような物を食べている魔物や動物たちは、食べ物不足で困っていると思うよ』

 それで畑を……。

 ハリーが比較的歩きやすい獣道を教えてくれたおかげで、どんどん森を歩くことができ、開けた場所に小さな湖がありました。

 さっきまでの陰鬱とした森とは大違いで、抜けた空は広く、陽光が湖面をキラキラと輝かせています。

 湖の水を飲んでいた鹿が私に気づくと、軽やかに茂みの向こうへ行ってしまいました。

「鹿が、心なしかげっそりしていたような」

 やっぱり食べ物がないからでしょうか。

『あそこも、ここも、ほら。みんながいつも食べている草の群生地なんだけど、何もないでしょ?』

 ハリーは翼で私の足下を示します。
 草は短く刈り込まれているかのようで、食べやすそうな場所のエサはほとんどなくなっていました。

『ないなら作ればいいんです』

 キチチチチ、とハリーが笑います。

『作れたら苦労はしないよ』

 厳密には、作るっていうわけではないのですが――。

 しゃがんだ私は、一定の範囲を目がけて生産系魔法の一種【グロウアップ】の魔法を使いました。

 光の粒子が煌めき、それがなくなると目に見えるスピードで草花が生長をしていきました。

 よし。成功です。

『うわっ! は、生えていく……! す、すごいっ』

 ハリーが驚いてくれるのが嬉しくて、私は思わず笑みがこぼれました。

『これでしばらくは大丈夫でしょう』
『さてはシルヴィ、君ってば魔女なんじゃ……?』

 ……魔女ですか。

『いいですね、それ』

 聖女だなんて祭り上げられるよりも、そっちのほうが好みです。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

聖水を作り続ける聖女 〜 婚約破棄しておきながら、今さら欲しいと言われても困ります!〜

手嶋ゆき
恋愛
 「ユリエ!! お前との婚約は破棄だ! 今すぐこの国から出て行け!」  バッド王太子殿下に突然婚約破棄されたユリエ。  さらにユリエの妹が、追い打ちをかける。  窮地に立たされるユリエだったが、彼女を救おうと抱きかかえる者がいた——。 ※一万文字以内の短編です。 ※小説家になろう様など他サイトにも投稿しています。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

公爵令嬢のRe.START

鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。 自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。 捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。 契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。 ※ファンタジーがメインの作品です

悪役令嬢と呼ばれて追放されましたが、先祖返りの精霊種だったので、神殿で崇められる立場になりました。母国は加護を失いましたが仕方ないですね。

蒼衣翼
恋愛
古くから続く名家の娘、アレリは、古い盟約に従って、王太子の妻となるさだめだった。 しかし、古臭い伝統に反発した王太子によって、ありもしない罪をでっち上げられた挙げ句、国外追放となってしまう。 自分の意思とは関係ないところで、運命を翻弄されたアレリは、憧れだった精霊信仰がさかんな国を目指すことに。 そこで、自然のエネルギーそのものである精霊と語り合うことの出来るアレリは、神殿で聖女と崇められ、優しい青年と巡り合った。 一方、古い盟約を破った故国は、精霊の加護を失い、衰退していくのだった。 ※カクヨムさまにも掲載しています。

虚偽の罪で婚約破棄をされそうになったので、真正面から潰す

千葉シュウ
恋愛
王立学院の卒業式にて、突如第一王子ローラス・フェルグラントから婚約破棄を受けたティアラ・ローゼンブルグ。彼女は国家の存亡に関わるレベルの悪事を働いたとして、弾劾されそうになる。 しかし彼女はなぜだか妙に強気な態度で……? 貴族の令嬢にも関わらず次々と王子の私兵を薙ぎ倒していく彼女の正体とは一体。 ショートショートなのですぐ完結します。

嫌いな双子の姉が聖女として王都に連れてかれた→私が本当の聖女!?

京月
恋愛
クローバー帝国に農民として住んでいる双子の姉妹姉のサリーと妹のマリー 姉のサリーは何かと私を目の敵にして意地悪してくる そんなある日姉が光の魔法に目覚め聖女としてクローバー帝国の王都に連れていかれた 姉のサリーは豪華絢爛な生活をしている中マリーは1人農地で畑を耕す生活を送って来ると隣国のスパイが私を迎えに来る え?私が本当の聖女!?

処理中です...