今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~

ケンノジ

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聖女追放の代償2

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「……父上が?」

 何かいや~な予感を察知した長官は「では私めはこのへんで……」と一礼して去っていった。

「はい。陛下が、至急私室に参上せよと」

 首をかしげながら、ヴィンセントは執事に先導され王の私室へと足を運んだ。

 執事がノックをし、返事があったのち扉を開けヴィンセントが入室する。中には、腕を組み険しい表情をしている父王がいた。

「失礼いたします」
「……ヴィンセント。昨晩の出来事を説明してもらおうか」

 静かに怒りを堪える父王を見たヴィンセントは、悪びれることもなく、晩餐会での出来事を話した。

「昨晩、新しい婚約者としてマリアン・バーランド嬢を皆に紹介をし、それに加え、聖女の交代を」

 ガタッ、と立ち上がった父王は、ヴィンセントのそばまで歩み寄り拳で殴りつけた。

「――こんのッ! バカ者がッ!!」
「ほぎゃ!?」

 壁を背にし尻もちをついたヴィンセントは、殴打された頬を押さえ、目を白黒させながら怒れる父王を見上げた。

「い、い、一体なんですか、父上っ!? い、いきなり!?」
「それはこちらのセリフだ! いきなり聖女を代えただと!?」
「え、ええ……その代わりに、新聖女を……今は見当たりませんが……」

 ああ、と父王は額を掴み天を仰ぐ。

「なんと愚かな。ゴミ息子」
「ご、ゴミ……。――ち、父上、お言葉ですが、ゴミでも愚かでもありません! マリアンは、心の底からオレが愛した女性です。婚約関係しかなかった前聖女とは比べるまでもありません!」

 そして、キリッとした表情で言い放った。

「姿形が変わろうとも、オレはマリアンを永遠に愛するでしょう! この真実の愛が愚かなことでしょうか」

「バーランド家の娘に、聖女の素質があったのだな?」
「素質、でしょうか」

「ああ。それであれば、少々の行き違いで済む。いきなり手を上げたことも謝ろう」

 ヴィンセントは、長官との会話を思い出す。

『魔力の有無や魔法の素養など必要ない。祈るなど、誰にでも務まる仕事であろう』

 ソシツ?
 素質?
 素質……。

 嫌な予感が、ヴィンセントの足下から徐々に這い上がってきた。

「前聖女が認めた者を次の聖女とする。そうでなければ、素質を示す必要がある」
「そ、素質は…………あ、ありました。長官が、それを……判断して……」
「呼べ」

 控えていた執事に言いつけると、すぐさま部屋を出ていった。

 やがて顔面蒼白の長官が入室すると、さっそく父王は尋ねた。

「貴公がバーランド家の娘に聖女の素質ありと判断したそうだな?」
「そ、それは殿下からそうせよ、とのご指示が……」
「指示はあったが、彼女に素質自体はあったのだな?」

 ギロリとねめつけられた長官は、声を震わせながら青白い顔で首を振る。
 長官がヴィンセントを売るのは早かった。

「……い、いえ」

「バカ者がぁぁぁぁぁあ!」

 父王の怒号が再び響き渡った。

「ひい」

 と、長官は腰を抜かした。

「そなたのような者を長官にしてはおけぬ! 沙汰は追って伝える」
「へ、陛下、しかしッ」

 ずりずり、となめくじのように這って父王の足にしがみつく長官を見て、父王は執事に顎をしゃくった。

「連れて行け」
「は」
「そんな! 殿下が! 殿下の頼みを私は聞いただけで――、陛下ぁぁぁぁっ!?」

 執事と彼が呼んだ近衛騎士に抱えられ、長官は連れていかれた。

 ヴィンセントと二人きりとなった室内で父王はため息をつく。

 自分にどんな罰が下されるだろう、とビクつくヴィンセントは、冷や汗をだらだら流しながら直立不動のまま父王の言葉を待った。

「……聖女の祈りとは、ただの祈りではない」
「で、ですよね、この流れですと」
「ですよね、ではないわッ!」
「はいッ! すみませんッ!!」

「その恩恵は計り知れず、この国で我らがいとも簡単に魔法が使えるのも、彼女らの力によるものが大きい」
「え」
「知らぬのも無理はない。余も父から王位継承時に聞かされたことだ。知らなかったとはいえ……このような愚挙に出るとは。しかも長官を抱き込み無才の令嬢を聖女に任じるなど……」

 魔法が使えない原因はすべて自分にあることを、ヴィンセントはようやく理解した。
 血の気が引き、事の大きさに膝が震えはじめた。

「聖女の就任退任は王が差配すること。王子の身分で、これは明らかな越権行為であるぞッ!」

 怒声と剣幕にたららを踏んだヴィンセントは、尻もちをついて額を床につけんばかりに頭を下げた。

「も、もしゃ、申し訳ございましゃん……っ!」

 謝罪すら噛む息子に、父王は何度目かのため息をついた。

「そなたの王位継承権は剥奪とする」

「そ、そんなぁぁ……!」

 ヴィンセントが父にすがりつこうとすると、急を告げるようなバタバタとした大きな足音が近づいてきた。

「陛下。失礼いたします」

 入ってきたのは、王国軍をまとめる白髪を刈り上げた壮年の元帥だった。
 元帥はヴィンセントに目をやったあと、続けた。

「国境線を破った魔物が多数侵攻してきました。警備兵だけでは町に被害が出ます。援兵をお願いできないでしょうか。これにつけこみ兵を挙げる他国がいないとも限りません。対処は急を要するかと存じます」
「そうか……」

 父王が深いため息をつくと、ヴィンセントが声を上げた。

「け、警備兵だけでどうにかせよ! そ、それが仕事であろうっ!」
「――ヴィンセント。おまえがどうにかせよ」
「へ……? え?」

 自分を指差すヴィンセントに、父王は有無を言わせない声音でもう一度伝えた。

「おまえがどうにかせよ」

「え……え……は、はい……」

 急展開にヴィンセントが唖然としていると、父王は元帥にヴィンセントに王位継承権がなくなったこと、援軍の編成は任せることを伝えた。

「民を守るのが王家の務め。ヴィンセント、最前線でよく励むがよい」

 ヴィンセントは、事態にまだ頭が追いつかないでいた。

「え……え、最、前線? ま、マジで……? え、ほんとうに? ウソ……?」
「さあ、殿下、参りましょう」

 ぐいっと襟首を元帥に掴まれ、私室を出たヴィンセントはずるずると引きずられた。

「い――い、嫌だ、嫌だ! どうしてオレがこんな目に~~~ッ!!」

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