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第六章 夢であり、幻であっても

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『もう。なにやってんの。』
「…うるせぇ」

翌日。
孝之は熱を出して会社を休んだ。
長時間の水シャワーが、
孝之の身体を芯まで冷やしたのだ。
同じ部署に勤める殿上に電話を掛け、
仕事の引き継ぎを頼む。
殿上は呆れた様子ではいはい、と返事をした。

壊れていた。
欲望を全て叩きつけて、力尽きた。
未だにこだまする、自分を呼ぶあの声。
自ら作り上げた、自分を求める天使の顔。
全てが、思うままだった。

『食欲は?なんか買ってく?』
「良い…寝てれば治る」
『お大事に』
「…おう」

殿上の優しい言葉に安堵して、電話を切った。

物音一つしない部屋に、
時計の針が鳴り進む音だけが聞こえる。
天井を見上げ、重い瞼を閉じようとした時
メッセージの着信音が鳴った。
あらかた殿上の嫌がらせメールだろう。

メッセージは龍司からだった。
勢いよく身体を起こすも、関節の痛みに呻き、
またすぐベッドに倒れ込んだ。
メッセージは昨日電話を急に切ってしまったことの詫び文だった。
携帯を握る手に、汗が滲む。

”…仕事中にごめん”
「”今日は、熱出して会社休んでる”」
”熱?大丈夫?”
「”風邪だと思う”」

文字一つ打つだけで、
身体の熱が上がるような気がした。
電話の向こうの龍司の顔を思い浮かべる。
その顔はもう、”天使”でしか再現されなくなっていた。

”食欲は?なんか…買っていこうか”

「”…悪い……頼む”」

孝之は汗で湿った親指で
メッセージの「送信」ボタンを押した。
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