異世界で子育てはじめます。

夜涙時雨(ヨルシグレ)

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28.家族の温かさ

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 各部屋に行って、リビングやキッチンと同様に風魔法と水魔法を使って掃除をし、家具も最低限必要なものは設置した。細々としたものはこれから少しずつ揃えていこう。
 綺麗になった家を見て、満足気に頷く。
 普通ならば掃除だけで1日以上かかる所を魔法を使用したおかげで約半日で終わった。魔法がなければこんなに早く終わることはなかっただろう。魔法様様だ。
 暗くなるまでまだまだ時間があるし、食材の買い出しついでに食器類や服、子ども用の椅子等必要な物も買ってこよう。ここの家に椅子はあるけどノワールやルーチェには大きいから、1人で座るのは難しいだろう。
 そうと決まれば…。

「ノワール、ルーチェ。これから買い物に行こう」
「かいもの?」
「うん。これからここで暮らしていくのに必要なものを買いに行きたいんだ。ノワールとルーチェのお皿とか椅子とかをね」
「じゃあこえはじゅしてもい?」

 ノワールが鼻と口を塞いでいる布を掴んで軽く引っ張った。
 そういえば、掃除は終わったのに外すのを忘れてた。

「ごめん、外すの忘れてたね。外すから後ろ向いてくれる?」
「うん!」
「ん」

 2人が後ろを向いたので、布の結び目を解き、布は異空間へとしまった。

「ふあ~!くりゅひかったぁ…」
「ん。じゃま」
「あはは、ごめんね」

 2人は余程鼻と口元が塞がれていたのが不快だったみたい。あまり感情が顔に出ないルーチェも眉間に皺を寄せてムッとしているほどだ。
 自分も布を外して、椅子の上に置いたカバンを肩にかけ、2人と手を繋ぎながら買い物へと出掛けた。



 最初に家具や雑貨を販売している店に向かった。
 近くにいた店員さんに話しかける。

「すみません。ここって子ども用の椅子はありますか?」
「ございますよ。そちらのお子さん用でしょうか?」

 店員さんはノワールとルーチェに視線を送りながら聞いてきた。
 ノワールとルーチェは俺と手を繋ぎながら俺の後ろに隠れるようにしている。
 まだ、人と接するのに慣れてないから仕方ない。俺と親しい人や興味がある人に対しては隠れたりすることはないんだけど。

「はい。この2人に合う椅子を探していまして…」
「かしこまりました。あちらにお子さま用の家具などがまとめて置いてありますのでご案内致しますね」

 子ども用の物はまとめて置いてあるらしい。それなら、細かい物とかもあまり探さなくて済むかな。ありがたい。
 店員さんの後について行くと、小さな椅子やテーブル、ベッド等の家具、近くの棚には小さいサイズの食器などが置かれたコーナーがあった。
 
「こちらになります。気になったものがございましたら手に取っていただいたり、椅子やベッド等は実際に試していただいても大丈夫ですので、何かございましたら近くの者にでも良いのでお声がけ下さい」

 ここまで案内してくれた店員さんはそういうと、ぺこりとお辞儀をして元来た道を戻って行った。
 子ども用だけでも色々種類があるみたいだ。
 シンプルなデザインの物から可愛らしい物まで様々だ。これだけあるとどれにするか悩むな。
 取り敢えず、一通り見てみることにする。
 欲しいと思っている椅子はベビーチェアとかではなく、大人用のテーブルに合わせて高さを調節できるタイプの椅子だ。できれば、成長して大きくなっても使えるような物がいいんだけど…。
 綺麗に並んで置かれている椅子を一つ一つ見ていく。
 ほとんどの椅子が木製のものだ。この世界にはプラスチック素材の物などは存在しないからあたりまえだけど。
 うーん……。
 あまりピンとくる物がなく悩んでいると、ふと、1つの椅子が目に入った。
 たくさんある椅子の中で特に目立つような見た目ではなくシンプルなデザインだが、椅子の足の部分にいくつか穴が空いてあり、座面と背もたれには弾力性のあるクッションが付いており、椅子の前2つの足元には平たい板が付けられている。
 気になったので近づいて見てみると、どうやら椅子の足に穴が空いているのは座面と足元の平たい板の位置を自由に変えることができるようにするためみたいだ。テーブルに合わせて高さのある椅子にしてしまうと、小さい子は足が床につかずブラブラしてしまうが、足元に平たい板があればそこに乗せることができる。それに、穴に嵌っている留め具を外せば成長に合わせて座面の高さを変えることができるし、大きくなって床に足が着くようになれば足元にある板を外してしまえば邪魔になることもない。
 見た目はシンプルだが、子どもの成長を考えて作られた機能的に良い椅子だ。
 試しにノワールとルーチェに座ってもらったが、2人とも座り心地が良さそうだった。家の雰囲気にも合いそうだし、これにしよう。
 近くにいた店員さんに声を掛けて、この椅子を2つ欲しいと伝えた。値段がまあまあ高かったことからなかなか売れていなかった物らしく、在庫もまだあり2つ購入するということで少し値引きしてくれた。確かに値段は一般人が買うには些か高めではあったが、お金には余裕があるため特に迷うこともなく椅子を2脚購入した。
 自宅まで運んでくれるサービスも追加料金はかかるがあるみたいだったけど、俺には空間魔法があるので断り、その場で椅子を受け取った。もちろん、カバンに空間魔法が施されている風を装って椅子は異空間へとしまった。
 他にも食器や布団等必要な物を買い、俺たちは店を後にした。
 服も…と思っていたが、さっきの店に結構な時間滞在していたらしく、外に出ると段々と日が傾きかけてきていた。
 服はリエゾン街で買ったものがあるし、また今度にするか。2人もそろそろ疲れているだろうし、今日はもう食材を買って帰ろう。
 近くの野菜を売っている八百屋や精肉店、パン屋などに寄って必要な食材を買った。購入した食材はもちろん異空間に入れた。

「そろそろ帰ろうか」

 2人に声を掛けて家に向かって歩く。

「いっぱいかったね~」
「そうだね。2人とも疲れてない?」
「ぼくはらいじょぶ!」
「ん。へいき」
「そっか。家に帰ったら美味しい料理を作るからいっぱい食べようね」
「うん!」
「ん」

 3人でそんな会話をしながら歩いていると、右側にオシャレな雰囲気のカフェらしき店があった。
 店内に目を向けると、女性の方が多いが子どもや男性もちらほらいる。席も半分以上が埋まっていた。
 結構人気のあるカフェなんだな。子ども連れの人もいるみたいだし、ノワールとルーチェを連れて来てみてもいいかも。
 そんなことを思いながら店の前を通り過ぎようとした時に、ショーケースに入ったスイーツが目に入った。数は少なかったけど、色々な種類のスイーツがあるみたいだ。どうやら、店内でなくてもスイーツを買うことができるようだ。
 思わず足を止めてしまった。俺が足を止めたことで必然的に手を繋いでいたノワールとルーチェも歩みを止める。
 
「ゆづにい?」
「ゆづる?」

 2人は急に足を止めた俺を不思議そうに見上げた。
 今日は引越し1日目だし……。よし。
 ショーケースからノワールとルーチェに視線を向ける。

「今日は特別にお祝いをしようか」
「……おいわい?」
「うん。今日は引越した最初の日だから、お祝いにケーキを買っていこう!」
「けえき?」
「うん。ケーキっていうのはね甘くて美味しいスイーツ……お菓子だよ」

 そう説明するけど、2人はまだケーキが何なのか分からないようで首を傾げている。
 説明するよりも実際に見て食べた方が分かるだろう。
 店内に入らずにショーケース越しに購入できるみたいなので、フルーツがのっているケーキを3つ購入して、寄り道することなく真っ直ぐ帰宅した。




 3人で「ただいま」と言いながら、家の中に入り、早速夕飯の準備に取り掛かった。
 今日はここに引っ越して1日目なので、いつもより少し気合を入れて料理を作っていく。ただ、あまり作りすぎても3人では食べきれないから量は調整しつつ作る。
 鳥の卵を使ってふわふわオムライス、ミンチにしたお肉で小さいサイズのハンバーグ、芋を細切りにして揚げたフライドポテト、狼肉を柔らかくなるまで煮込んだシチュー、果実を混ぜ込んださっぱりとしたドレシッシングをかけたサラダなどたくさんの料理を作った。
 俺が料理をしていると2人は傍でじっと見ていたので、お肉を捏ねたり、ハンバーグの形を整えたりなどノワールとルーチェでもできそうなことは手伝ってもらった。お肉を捏ねている時には、なかなか触ったことがない感触だからか最初は「きもちわるい~」と言っていたけど段々と「きもちぃね~!」と言って楽しそうにしていた。
 2人と一緒に料理をするのは楽しくて、あっという間に作り終わってしまった。
 料理はテーブルの上に並べて、椅子も今日買った新しいものに交換する。
 3人でテーブルを囲み、手を合わせる。

「いただきます」
「「いただ(ら)きます(!)」」
「熱いから気をつけてね」

 ノワールは先ずオムライスから食べるみたいだ。スプーンでとろとろのオムライスを掬って、口に運んでいる。
 できたてだからちょっと熱いだろうけど大丈夫かな?
 食べる様子を見守っていると、案の定熱かったらしく「あちゅっ!」と言って口に入れようとしたスプーンを戻していた。

「ノワール、ふーふーしてから食べるといいよ」

 お手本に自分もオムライスを一口掬って、ふーふーと息を吹きかけてから食べてみせた。
 それを見たノワールも真似をして「ふー、ふー」と小さな口を窄めて、スプーンに息を吹きかけてから口に入れた。

「ん~!!」

  ノワールはもぐもぐしながら頬に片手を添えて、なんだか嬉しそうだ。

「おいしい?」
「うん!しゅごい!おいちい!」

 目をキラキラさせながらまたスプーンでオムライスを掬って食べていた。
 ふふ、可愛いなぁ…。
 ノワールからルーチェに視線を移す。ルーチェはシチューを食べてるみたいだ。ルーチェもスプーンでシチューを掬って「ふー、ふー」と息を吹きかけてスープを冷ましながら食べていた。
 ノワールほど感情が表情には出ないけど、頬がほんのりとピンク色に色づき、もぐもぐとゆっくり咀嚼している。

「ルーチェもシチューはどう?」
「(ごくん)。…ん。おいしい」
「そっか。よかった。たくさんあるからいっぱい食べてね」
「ん」

 俺も2人を見ながら食べる。
 今までだったら食堂や道端などで1人か誰かと食べることが多かったけど、こうやって自分の家でノワールとルーチェとテーブルを囲んで食べるのもいいな。
 何となく、日本にいた頃のことを思い出す。翔太と一緒にご飯を食べていた時のことを。
 今でこそ、色々とできるようになったけど、昔はそうでもなかった。翔太と暮らしたばかりの頃は、それまで料理なんてあまりしてこなかったから焦がしたりすることなんて何回もあったし。味付けだって甘かったりしょっぱかったりとなかなか上手くいかなかった。
 それなのに、翔太はいつも美味しいと言って食べてくれた。その言葉を聞いて、笑っている顔を見て、姉がいなくなって悲しい気持ちはあったけど、頑張ろうって思えた。
 まさかこっちの世界に来てもこうやって家族として、テーブルを囲んで食事をするなんて思ってもみなかった。
 友人と食べるのとはまた違った温かさがある。この温かさを大切にしていきたい。
 そんなことを思いながら、お腹いっぱいになるまで楽しく3人でご飯を食べた。
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