異世界で子育てはじめます。

夜涙時雨(ヨルシグレ)

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27.引越しと掃除と約束

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 次の日。
 酔い潰れた龍の宿を後にし、3人で冒険者ギルドへ行き、家の支払いを済ませて鍵を受け取ってきたので、今日から住む我が家へ向かった。
 ルーン通りには色々な店や民家がある。冒険者ギルドも酔い潰れた宿ともそんなに離れていない。そんなルーン通りにある我が家は立地としてはとても良いんじゃないだろうか。
 家の前に着いたので、改めて外から我が家を見つめる。
 庭もあるから子ども達が遊んだりするのにもちょうどいい。
 こんな良い家を紹介してくれたジェイドさんには感謝だ。

「きょうからここがおうちになるの?」

 左側にいたノワールが繋いだ手を引きながら聞いてきた。

「そうだよ。今日からここが俺とノワールとルーチェの3人の家だよ。もし、気に入った部屋があったらそこを2人の部屋にしようか」
「いいの!?」
「もちろん」
「やったー!!!ルー!やったね!ぼくたちのおへやだって!!」
「うん。…ゆづる、ありがと」

 ノワールは両手を上げてぴょんぴょんと跳ねて喜び、ルーチェは俺と手を繋いだまま顔を上げたことでローブに隠れていた顔が見え、嬉しそうな表情をしていた。
 2人とも嬉しそうでよかった。

「俺達は家族だからね。あたりまえだよ。でも、お部屋を決める前にやらなくちゃいけないことがある。それはね……」
「「………?」」

 2人はじっと俺の顔を見つめ、首を傾げる。
 少し間をおいた後。

「家のお掃除と引越しだ!」

 俺が少し大きめな声でそう言うと、ノワールは「わぁ~!」と言いながら、2人で小さな手をパチパチと叩いた。
 家の鍵を開けて中へと入る。昨日も思ったが、やはり少し埃っぽさがある。家全体を掃除するとなると結構な時間がかかってしまう。普通に掃除しようとすると一日では終わらないだろう。でも、問題はない。風魔法と水魔法を利用すればあっという間に終わる。
 でも、その前に……。
 小さめなサイズの布を3枚取り出す。四角形の布を折りたたんで3角の形にして、ノワールとルーチェに声をかける。

「ノワール、ルーチェ、2人とも俺に背中を向けて立ってくれる?」
「なにするの?」
「………?」
「お掃除すると埃が舞うから、それを吸い込まないように鼻と口をこれで塞ぐんだよ。自分でやるのは難しいだろうから俺がやるね」
「わかった!」
「ん」

 2人が俺に背を向けたので2人の後ろにしゃがみこんで、三角にした布を鼻と口を覆うようにして布の端と端を頭の後ろで結んだ。
 日本でいうマスクの代わりだ。

「よし!これで大丈夫かな。どう?」
「うーん……」
「…くるしい」

 俺はマスクで慣れてるけど2人は経験がないからか、鼻と口を覆う布を手で触り居心地が悪そうだ。
 でも、これを付けないで掃除をして舞った埃を吸い込んでしまうと、埃と一緒に体に害のある菌とかも吸い込んでしまって病気に繋がる可能性もある。特に2人はまだ幼くて免疫も大人と比べて未熟なはずだ。だから、2人には掃除が終わって家が綺麗になるまでは我慢して貰うしかない。

 「病気にならないためだから苦しくても少しだけ我慢してね。魔法を使えばお掃除も早く終わるから」
「まほう!!!?」

 ノワールが目をキラキラさせながら顔を見上げてきた。ルーチェも口には出さないけど、興味あります!というのが顔に出てる。
 どうやら2人は魔法が気になるらしい。
 一応リエゾンからレガメに来るまでの道中で、魔物が出て戦闘になった時は魔法を使っていたけど、2人は危ないから馬車の荷台にいるように言ってたから俺が実際に魔法を使っているのを見ていない。……いや、ちょっとしたやつは見たか?焚き火をするのに火魔法を少し使ったりしたからそれは見ているはずだ。でも、派手だったり規模が大きいような魔法は見ていない。
 だからか、2人は魔法が気になるみたいだ。子供ながらの好奇心というのもあるだろう。

「魔法が気になる?」
「うん!」
「ん」
「そっか!じゃあ、実際にやってみるから見ててね。掃除だからそんなに派手なものじゃないけど…」

 戦闘時のような派手な魔法ではないが、それでも2人は気になるみたいだ。目がキラキラしている。
 そんな2人を見て微笑ましく思いながら、魔法を行使する。
 まずは風魔法で床や家具などに溜まっている埃を浮かせて消し去ってから、水魔法で染み付いた汚れ等も含め全て洗い流す。そして、早く乾くようにまた風魔法を使えば終わりだ。

「こんな感じかな」

 難しいことではないのであっという間に終わってしまった。埃や汚れが落ちた部屋内はさっきよりも雰囲気が明るく感じる。
 試しにリビングと併設されたキッチンをやってみたけどいい感じにできた。
 横にいた2人を見ると、ノワールは「すごぉい!」と言ってパチパチと手を叩き、ルーチェは目を少し見開き驚いている様子だった。

「きれい……」
「ん?…うん、そうだね。綺麗になったね」
「…ちがう」
「ん?」
「ゆづるのまほう、きれい」

 ルーチェが呟いたので、部屋が綺麗になったという意味かと思ったが違った。どうやら、俺の使った魔法が綺麗と言いたかったらしい。

「そっか。ありがとう」
「………ぃぃな…」

 小さな声だったけど、確かにルーチェが「いいな」と言ったのが聞こえた。
もしかして……

「ルーチェは魔法好き?」
「うん」
「ルーチェもやってみたい?」

 そう尋ねると、ルーチェは顔を勢いよく俺の方に向けた。

「やりたい」
「…わかった。それじゃあ、今度魔法について教えてあげようか?」
「……いいの?」
「もちろん。ルーチェがやりたいなら俺が教えるよ」

 ルーチェは少し間をあけた後、「まほう、やりたい」と答えた。
 俺はルーチェと同じ視線の高さになって、「約束ね」と、ルーチェと右手の小指を絡ませた。
 すると、ルーチェは目を細めてふわりと笑顔を浮かべた。
 すごく嬉しそうだ。
 そんな俺とルーチェを傍で黙って見ていたノワールが、「ぼくも!」と言ってきたので、今度3人で魔法の勉強をしようと約束をして、ノワールとも左手の小指を絡ませた。
 小指を絡ませて3人で約束をした後は、家全体を同じように風と水の魔法で綺麗にした。
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