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19.子ども達について
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「この子達のことについて知りたいのよね?」
「はい」
「正直言うとね、私達もあまり分からないのよ」
ローズさんはそう言って困った顔をした。
「襲われた馬車がある、と聞いてギルドから人を派遣した時に近くの森の茂みに隠れていたのを発見したの。その時も怖かったのでしょうね⋯激しく暴れたみたいで、でも、放っておく訳にはいかないからどうにかここまで連れてきてもらったのよ。馬車の近くには恐らく奴隷商人と思われる人物とその護衛、奴隷にされた人達が乗っていたわ。全員言葉では表せないほど酷い状態でね⋯⋯生きていたのは隠れていたその子達だけだったわ。きっと賊に襲われたんだと思う。金目になりそうなものはどこにもなかったから⋯。ただ、賊たちは金目の物だけを奪って、奴隷について書かれた書類は持ち去られずにそのままになっていたわ。幸いと言っていいのか分からないけれど、この子達について分かることと言えばその書類に書かれていることくらいよ」
ローズさんはアンドリューさんからその書類と思しきものを受け取り、俺に渡してきた。
読んでいいということなのだろう。
お礼を言って、その書類を読ませてもらう。表紙には商品名簿と書かれており、1枚めくってみるとどうやら奴隷一人一人の名前や年齢、見た目、どうやって手に入れたか等が簡単に記されていた。
書類といってもそこまで枚数がある訳ではなく、簡単に目を通しながら2人に当てはまりそうな内容の部分を探していく。ペラペラと数枚捲った所で、2人のことだと思わしき情報が書かれているのを見つけた。
No.14 名無し 男
・6歳 黒兎の獣人
・黒毛 赤目
・母 兎獣人(死)、父 人間(不明)
・両親は奴隷
No.15 名無し 男
・6歳 白猫の獣人
・白毛 オッドアイ(右 金、左 青)
・両親 猫獣人
・4歳で両親から買取
2人の見た目の特徴と一致している。ただし、書かれていた情報は少ししかなかった。大人の奴隷には剣や魔法が使えることや家事ができる等もう少し情報が書かれていたが子どもだからか、あまり情報はなかった。
これを見て分かったのは2人の年齢と両親、どうやって奴隷になったかくらいだ。全ての書類を見たが、それ以外に2人について書かれていることは何もなかった。
あまり情報がないのは仕方ない。ないものねだりをした所でどうにもならない。
でも、一番気になったのは2人の年齢だ。どうやら2人とも同じ6歳みたいだが、どう見ても今の2人は4歳位にしか見えない。同年代の子と比べても体は小さく、言葉も6歳にしては拙い。
2人が暮らしていた環境が環境だ。ご飯はまともに与えられなかっただろうし、勉強だってできなかっただろう。
想像しただけで胸が痛む。
絶対に美味しいものを毎日食べさせて、体も洗って綺麗な服を着て、たくさん楽しいことを教えてあげよう。
そう新たに決意した。
書類をローズさんに返し、お礼を言う。
「ありがとうございます」
「これくらい構わないわ。それより、この子達と一緒になるのは良いけれどこれからのことはどうするか考えてるの?」
これからのこと、か⋯⋯。
まずは、この子達をお風呂に入れて綺麗にして、新しい服を着て、消化にいい物を食べさせてあげたい。住む家についてはレガメ街に着いてからかな。
冒険者活動は暫く休業しようと思うから、それもギルドの方に伝えないと。
でも、問題がひとつある。それは、俺は今こうやって自由に動いているが、まだ護衛依頼の真っ最中なのだ。
レガメ街までネッドさんを無事に送り届ければ依頼は完了となる。俺の実力であれば、子ども達とネッドさんを含めた3人を護衛しながらレガメ街まで行くのは問題ない。元々この子達と暮らすならばレガメ街が良いと思っていたし、それならばこの機会にこの子達と一緒にレガメ街に行った方が効率がいい。
問題なのは、ネッドさんが子ども達も同行して良いか了承してくれるかどうかだ。
もし、断られた場合はネッドさんに別の護衛を雇って貰うか、一度子ども達をギルドの方に預けてネッドさんをレガメ街に送り届けたら俺だけでまたこの街に2人を迎えに来るか。
でも、なるべくこの子達と離れたくはない。うーん⋯⋯⋯。
色々悩んだが、結局のところネッドさんと話してみなければ何も変わらないので、明日ネッドさんに会った際に聞いてみるしかない。
念の為に冒険者ギルドの方には、代わりの護衛をお願いするかもしれないことを話しておこう。目の前にギルドマスターがいることだし。今回のことについては、ギルドの方も関与しているからある程度なら融通してくれるだろう。
「そうだったのね。分かったわ。その場合はこちらで手配するから大丈夫よ。ね?ギルマス」
「ああ。心配はいらん。ユヅルはその子たちのことだけを考えてくれ」
「ありがとうございます」
ある程度のことは話し合えたし、そろそろお暇しようと思ったところでローズさんから話しかけられた。
「ユヅルくんはもう今日の宿は決まってるの?」
「いえ、この街に着いてすぐにギルドへ来たのでまだです。これから決めようと思っていました」
「それならちょうど良いわ!ユヅルくんさえ良ければこの街にいる間はギルドに泊まるのはどうかしら?」
「え⋯⋯流石にそれは⋯」
「そうだな。その子達に何かあればここならすぐに対応できるし、ギルドの3階からは関係者しか立ち入りできないし部屋も空いている。ぜひそうしてくれ」
ローズさんだけでなくアンドリューさんにも勧められてしまった。
言われた通り、ギルド内であれば職員が常駐しているし、冒険者もいるから何かあればすぐに対応してくれるだろう。
それに、この子達も会って間もないが知っている顔がいる方が少しは安心して過ごせるかもしれない。
そう思ったので、遠慮なく今回は冒険者ギルドに泊まらせて貰うことにした。もちろん、子ども達と同じ部屋だ。
「はい」
「正直言うとね、私達もあまり分からないのよ」
ローズさんはそう言って困った顔をした。
「襲われた馬車がある、と聞いてギルドから人を派遣した時に近くの森の茂みに隠れていたのを発見したの。その時も怖かったのでしょうね⋯激しく暴れたみたいで、でも、放っておく訳にはいかないからどうにかここまで連れてきてもらったのよ。馬車の近くには恐らく奴隷商人と思われる人物とその護衛、奴隷にされた人達が乗っていたわ。全員言葉では表せないほど酷い状態でね⋯⋯生きていたのは隠れていたその子達だけだったわ。きっと賊に襲われたんだと思う。金目になりそうなものはどこにもなかったから⋯。ただ、賊たちは金目の物だけを奪って、奴隷について書かれた書類は持ち去られずにそのままになっていたわ。幸いと言っていいのか分からないけれど、この子達について分かることと言えばその書類に書かれていることくらいよ」
ローズさんはアンドリューさんからその書類と思しきものを受け取り、俺に渡してきた。
読んでいいということなのだろう。
お礼を言って、その書類を読ませてもらう。表紙には商品名簿と書かれており、1枚めくってみるとどうやら奴隷一人一人の名前や年齢、見た目、どうやって手に入れたか等が簡単に記されていた。
書類といってもそこまで枚数がある訳ではなく、簡単に目を通しながら2人に当てはまりそうな内容の部分を探していく。ペラペラと数枚捲った所で、2人のことだと思わしき情報が書かれているのを見つけた。
No.14 名無し 男
・6歳 黒兎の獣人
・黒毛 赤目
・母 兎獣人(死)、父 人間(不明)
・両親は奴隷
No.15 名無し 男
・6歳 白猫の獣人
・白毛 オッドアイ(右 金、左 青)
・両親 猫獣人
・4歳で両親から買取
2人の見た目の特徴と一致している。ただし、書かれていた情報は少ししかなかった。大人の奴隷には剣や魔法が使えることや家事ができる等もう少し情報が書かれていたが子どもだからか、あまり情報はなかった。
これを見て分かったのは2人の年齢と両親、どうやって奴隷になったかくらいだ。全ての書類を見たが、それ以外に2人について書かれていることは何もなかった。
あまり情報がないのは仕方ない。ないものねだりをした所でどうにもならない。
でも、一番気になったのは2人の年齢だ。どうやら2人とも同じ6歳みたいだが、どう見ても今の2人は4歳位にしか見えない。同年代の子と比べても体は小さく、言葉も6歳にしては拙い。
2人が暮らしていた環境が環境だ。ご飯はまともに与えられなかっただろうし、勉強だってできなかっただろう。
想像しただけで胸が痛む。
絶対に美味しいものを毎日食べさせて、体も洗って綺麗な服を着て、たくさん楽しいことを教えてあげよう。
そう新たに決意した。
書類をローズさんに返し、お礼を言う。
「ありがとうございます」
「これくらい構わないわ。それより、この子達と一緒になるのは良いけれどこれからのことはどうするか考えてるの?」
これからのこと、か⋯⋯。
まずは、この子達をお風呂に入れて綺麗にして、新しい服を着て、消化にいい物を食べさせてあげたい。住む家についてはレガメ街に着いてからかな。
冒険者活動は暫く休業しようと思うから、それもギルドの方に伝えないと。
でも、問題がひとつある。それは、俺は今こうやって自由に動いているが、まだ護衛依頼の真っ最中なのだ。
レガメ街までネッドさんを無事に送り届ければ依頼は完了となる。俺の実力であれば、子ども達とネッドさんを含めた3人を護衛しながらレガメ街まで行くのは問題ない。元々この子達と暮らすならばレガメ街が良いと思っていたし、それならばこの機会にこの子達と一緒にレガメ街に行った方が効率がいい。
問題なのは、ネッドさんが子ども達も同行して良いか了承してくれるかどうかだ。
もし、断られた場合はネッドさんに別の護衛を雇って貰うか、一度子ども達をギルドの方に預けてネッドさんをレガメ街に送り届けたら俺だけでまたこの街に2人を迎えに来るか。
でも、なるべくこの子達と離れたくはない。うーん⋯⋯⋯。
色々悩んだが、結局のところネッドさんと話してみなければ何も変わらないので、明日ネッドさんに会った際に聞いてみるしかない。
念の為に冒険者ギルドの方には、代わりの護衛をお願いするかもしれないことを話しておこう。目の前にギルドマスターがいることだし。今回のことについては、ギルドの方も関与しているからある程度なら融通してくれるだろう。
「そうだったのね。分かったわ。その場合はこちらで手配するから大丈夫よ。ね?ギルマス」
「ああ。心配はいらん。ユヅルはその子たちのことだけを考えてくれ」
「ありがとうございます」
ある程度のことは話し合えたし、そろそろお暇しようと思ったところでローズさんから話しかけられた。
「ユヅルくんはもう今日の宿は決まってるの?」
「いえ、この街に着いてすぐにギルドへ来たのでまだです。これから決めようと思っていました」
「それならちょうど良いわ!ユヅルくんさえ良ければこの街にいる間はギルドに泊まるのはどうかしら?」
「え⋯⋯流石にそれは⋯」
「そうだな。その子達に何かあればここならすぐに対応できるし、ギルドの3階からは関係者しか立ち入りできないし部屋も空いている。ぜひそうしてくれ」
ローズさんだけでなくアンドリューさんにも勧められてしまった。
言われた通り、ギルド内であれば職員が常駐しているし、冒険者もいるから何かあればすぐに対応してくれるだろう。
それに、この子達も会って間もないが知っている顔がいる方が少しは安心して過ごせるかもしれない。
そう思ったので、遠慮なく今回は冒険者ギルドに泊まらせて貰うことにした。もちろん、子ども達と同じ部屋だ。
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