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4.異世界で生きていく

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『もう目を開けても良い。この世界の知識としてはこんなものであろう。分からないことがあったらコレを見よ』

 目を開いたと同時に目の前にいきなり本が現れた。
 咄嗟に手を出して、本を受け取る。

「これは…?」
『分からないことがあれば、知りたいことを念じてその本を開け。そうすれば知りたいことが分かる』

 そんな万能な本が存在するのか。
 手元のとても厚みのある本を見つめ、パラパラとめくってみる。が、中には何も書かれておらず最初から最後まで白紙だった。

「………?あの、何も書かれていないですが……」
『既に何かが書いてある訳ではない。必要な時に必要な知識だけが現れるようになっているのだ。それに、そこに何かが現れたとしてもそれはお前にしか見えぬ。もし、他の者が見たとしても白紙か、適当なものしか写らぬ様になっている。お前以外に見えるようになるにはお前が見せたいと思わなくては見ることはできない』
「そ、そんな本があるんですね……さすが異世界。要するにこれは万能書ということですね」
『そうだな。それに、お前がそれをどこかに置き忘れたり、誰かに持ち去られたとしても自動でお前の元に戻ってくるようになっているから、失くす心配もない』

 ほ、本当にすごい本だ……。手元に戻ってくるなんてとてもありがたい。
 失くしてしまう心配はなさそうだ。

『後これも渡しておく』
「…おわっ!」

 また目の前に何かが現れた。
 これは……カバンか?
 確かに今の俺は死んでこちらの世界に来たばかりだから、何も持っていない。
 本を貰ったところでカバンも何もなかったからありがたい。

「ありがとうございます。こちらも貰ってしまって良いのですか?」
『ああ。見た目は何の変哲もないただのカバンだが、空間魔法を施してある。だから、生き物以外でいれば何でも入るし、時間経過もしないから食べ物を入れても腐ることはない。カバンがなくとも魔法は使えるが、空間魔法を使えるものはあまり存在しないから何かを取り出したりする時はそれを使うと良い。空間魔法が施されたカバンであれば持っている人も多いからな。怪しまれることはない。使い方もカバンに手を入れれば中に入っているものが頭に浮かぶから必要なものを思い浮かべれば取り出せる。逆に入れたい時は手に触れていれば何でも入れることができる。それと、これから暮らしていく上で必要になると思ったものに関してはカバンに入っているから自由に使うのだ。本と同じようにそのカバンは失くしても戻ってくるようにしてあるから問題ない』

 見た目は黒に近い焦茶色で革製の肩に掛けるショルダーバッグみたいな感じだ。
 大きさは小さくも大きくもなくちょうど良い感じで、重さもとても軽い。
 肩にかければ手も空くし、助かる。
 試しにカバンの中へ手を入れてみると頭の中に色々なものが浮かんできた。
 服が数着と干し肉、水が入った水筒、片手剣、ポーション各種、お金等結構たくさん物が入っている。
 お金に関してはこんなに!?っていうほどある。働かなくても暮らしていけそうな程はある。
 因みにこの世界のお金は硬貨のみで、ゴルドで表し、黄銅貨1枚で1ゴルド、青銅貨1枚で10ゴルド、白銅貨1枚で100ゴルド、青銀貨1枚で1000ゴルド、白銀貨1枚で1万ゴルド、金貨1枚で10万ゴルド、白金貨1枚で100万ゴルドらしい。1ゴルドは日本でいうと1円と同じ価値だ。
 カバンの中には白金貨が何枚分だよ!?っていう位入っていた。
 こんなに貰えません!と言いたい所だが、生きていくためにはお金が必要不可欠だ。
 神様が自由に使って良いと言ったのだ。ここは素直に受け取ろう。
 金額についてはもう考えないことにした。

「ありがとうございます」

 心の中で手を合わせながら感謝を伝えると神様は姿は見えないが満足そうに頷いた雰囲気がした。

『必要なものはこのくらいであろう。何か聞いておきたいことはあるか?』
「えっと……さっき魔法が使えると言ってましたけど、俺使い方とか分からないんですがどうすれば使えますか?」
『そういえば、説明していなかったな。まあ、説明する程でもないが、ただ想像すれば良い』
「想像?」
『ああ。どんな魔法をどのように使いたいのか。明確にイメージすれば問題なく使えるはずだ。この世界には詠唱を唱えなければ使えない者も多いが、魔法は想像が全て。火を起こしたければ火のイメージを、水を出したいのであれば水が湧き出るイメージをすれば良い。怪我をしたのならば元の状態に戻るようにイメージすれば魔力がある限り治癒することができる。武器を使った戦闘に関しては……お前地球にいた頃は剣術や体術を習っていたであろう』
「まあ、学生の頃に道場に通ってはいましたが…。でも、大人になってからは全然だし、もう歳も歳ですし…」
『問題ない。お前は今18歳の頃に若返っているからな。顔は変わっていないがこちらの世界に馴染みやすいように髪と瞳の色は変えてある。それに、剣術と体術共に全国大会まで出場していたではないか。その強さがあれば賊にも魔物にも簡単に殺られることはない。我からの加護もあるから、戦闘しなければいけない状況になれば自然と体が動くようになっている。心配するな』

 俺、まさかの若返っていたみたいだ。しかも、目と髪の色も変わっているらしい。
 こちらの世界に来てから自分の姿なんて見ていなかったから分からなかった。
 確かに体が軽いような気はしていたが、まさか若返っているとは。
 それなら体力も心配なさそうだ。

「分かりました。あと、その……俺の甥である翔太は大丈夫ですか?姉が他界し、姉の夫である義兄も翔太が姉のお腹にいる時に他界し、俺が親代わりとなって育てて来ました。この前20歳にはなりましたが、俺にとってはまだまだ子どもです。あの子にとって、唯一の血縁者であり、家族なのは俺だけです。俺が居なくなってしまったらあの子は独りぼっちになってしまう。それだけが心配なんです。あの子は……翔太は俺が居なくなって、幸せに生きていけますか?」

 そう。俺には息子同然の甥がいた。
 姉が他界した後、息子として引き取り大切な家族として暮らしてきた。
 死ぬ間際も自分のことより心配だったのは翔太のことだった。
 立派な大人になるように育ててはきたつもりだ。
 それでも、やはり心配なものは心配なのだ。
 俺にとっても、翔太にとってもお互いが唯一の家族なのだから。

『そういえば、お前には甥がいたな。……心配はない。確かにお前が死んでしまったことでとても悲しんでいるが、その悲しみを乗り越え新しい家族と幸せを築いていくようになる』
「そっか……。それなら……よかった……っ…」

 神様から翔太が幸せになれると聞いて安心したのか、涙が一粒零れ落ちた。
 翔太を1人残してしまうことが唯一の心残りだった。
 でも、よかった。
 翔太が幸せになれるならよかった。
 それならば、俺も心残りなく、この異世界で生きていける。

『……他に何かあるか?』
「いえ……大丈夫です」
『ならば、これが最後だ。きっともう我がお前に会うことはないだろう。神の所為とはいえ、すまなかったな。これから、ユヅルとして、新しい人生を生きろ。お前の幸せを祈っておる』

 神様はそう告げて、去っていった。
 もう頭の中に声は聞こえてこない。

「神様、ありがとうございます。俺、この世界で幸せになってみせます!」

 決意を新たにし、異世界で生きていくための1歩を踏み出した。
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