呪いの一族と一般人

守明香織(呪ぱんの作者)

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第九章 自分にかけた呪いの話

第12話 魂

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 日和ひよりは『二』を出して、三十一マス目の緑マスに止まった。
 
 二回休みが終わり、総一郎そういちろうが目を覚ます。総一郎は周りを見て自分の状況を理解した後、苦笑した。

「先を急ぎ過ぎて失敗するとは、格好がつきませんね」

「元から格好良くはない」
「総一郎様は、いつでもカッコいいです!!」
 咲良子さくらこの辛辣な言葉を、美梅みうめの全肯定が掻き消す。

 総一郎は立ち上がり、めぐるを見た。

「巡さん。何故、ご褒美マスこのようなものを作ったのですか? もしや、鬼降魔きごうま喜市きいちが考えたことなのですか?」
『まっさかー。ミニゲームの内容も、マスの効果も、俺が考えたものだよー』

「何の為に……」

 巡は足を投げ出すように床に座り込み、総一郎達を見てニコリと笑う。

『悪いけどー、巻き込まれちゃったからには、最後まで付き合ってよ。君達がここにいるのは、このゲームに必要だと、喜市が判断したからだろうし。あいつは貸し借りが嫌いなタイプだから、君達にも有益な物を与える筈だ。……ほら、ここまで時間をあげたんだから、覚悟を決めてサイコロを止めてよー』

 総一郎はまだ何か聞き出したい様子だったが、ゲームに戻ってサイコロを止めた。サイコロで『五』を出し、総一郎は二十一マス目のご褒美マスに止まる。

 ご褒美マスで触れたい相手として選ばれたのは、美梅だった。
 総一郎の目の前に、宙に浮いた状態の美梅が現れる。二人の唇が触れ合いそうになるが、総一郎がすんでの所で美梅の体を抱き抱え、地面にゆっくりと下ろした。

「美梅さん。少しの間、じっとしていて下さい」
 総一郎は美梅の頬へ手を伸ばす。美梅は頬を赤く染めて硬直した。

「先程から気になっていたのですが、御髪おぐしが乱れていますよ」
「え!? あっ!」

 クッションに横になっていた時に、髪が僅かに乱れてかんざしが落ちかけていた。簪を挿し直してもらった美梅は、総一郎の微笑みにノックアウトされる。

『せっかくのラッキースケベだったのに、防がれちゃったかー。まあ、女子高生にアラサー男性がキスしたら、犯罪臭すごいもんねー』

 巡の言葉が、総一郎の心にグサリと突き刺さる。美梅はムッとした表情で、巡を睨みつけた。

「総一郎様は、素敵なアラサーなの! 例え、加齢臭がし始めて、お酒の飲み過ぎでお腹がポヨンポヨンになったとしても、私は総一郎様を愛し抜くわ!」

『愛が深いねー。でも、君のいとしの総一郎様が傷ついているみたいだけどー」
「総一郎様! 老化は生きている証ですから! 安心して老いても大丈夫です!」
『老化じゃなくて、君の言葉に傷ついているんだよー』

 総一郎はかろうじて笑みを浮かべているが、明らかに顔が引き攣っていてショックを隠しきれていない。悪意がない美梅は、何が悪かったのか分からずに首を傾げた。

『さあ、静音しずねの番だよー。静音も、ご褒美マスに止まって、かけるに仕返ししてみればー?』
 静音は首を横に振り、紫札を取り出す。

「『双子サイコロ』を使います」
 頭上に現れた二つのサイコロが共に『五』を出したのを見て、静音は安堵の表情を浮かべる。静音は一気に十マス進み、二十九マス目の赤マスに止まった。

 順番が来て、総一郎から離された美梅は残念そうな顔をする。美梅は『三』を出して、三十マス目の緑マスに止まった。


 十ターン目。

 咲良子が『五』を出し、日和と同じ三十一マス目の緑マスに止まった。咲良子は両手をワキワキと動かしながら、日和に近づく。

「ちょっと待って、咲良子さん! その手は何!?」
「揉み手」
「一般的な意味と違うし、危険性が高いんだけど!? てか、今日暴走しすぎじゃない!?」

「だって、会えたの久しぶりだから。ずっと寂しくて……」
 咲良子がションボリとした顔で俯くのを見て、日和も眉を下げる。

(そういえば、咲良子さんに最後に会ったのは去年の秋だ。連絡先を交換したのに、全く連絡していなかったし。寂しい思いをさせていたのかも……)

「ずっと欲求不満だった。だから、日和は胸を揉まれても仕方ない」
「何で自信満々に、おかしな理屈を言ってるの?」

 咲良子はジリジリと近づいてくる。日和は怯えて後ずさりながら、両手を胸の前で交差してガードした。

「やめなさい、咲良子。見苦しいわ」

 二人の一マス後ろにいた美梅が、ピシャリと言い放つ。咲良子が振り返ると、美梅は勝ち誇った笑みを浮かべていた。

「そんな変態だから、総一郎様に選ばれなかったのよ。本当に残念ね」

 ご褒美マスに呼ばれたことで、自分の方が総一郎から好かれていると自信がついたようだ。咲良子は不愉快そうに眉を寄せる。

「総一郎は、簪を直したかっただけ」
「あら、負け惜しみ?」
「負け惜しみする必要もない。美梅はザコだから」
「は!? 誰がザコよ!?」

「優れている人間は、誰かを下に見ようとしなくても、自分が優れているとわかっている。美梅みたいにマウントを取るのは、自信がない証拠。わかった? ザコ」

「なっ! ……っ!」
 美梅は顔を真っ赤にして、口をパクパクさせる。咲良子は余裕の笑みを浮かべた。

「本当に生意気ね!」
「美梅に言われたくない」

「ちょっと、喧嘩はやめようよ」
 日和の声は届かず、美梅と咲良子は言い合いを始めた。日和は早々と仲裁を放棄する。
 
 駆が『二』を出して三十五マス目の緑マスに、大雅は『一』を出して三十四マス目の緑マスに、碧真が『二』を出して三十マス目の緑マスに止まった。

 日和は『二』を出して三十三マス目の赤マスに、総一郎が『五』を出して二十六マス目の赤マスに止まる。

 静音が『四』を出して、日和と同じ三十三マス目の赤マスに止まった。
 日和は静音をチラリと見る。総一郎と話していた時、静音は喋るのが苦手なように見えた。

(でも、一緒のマスに止まって、何も話さないのも気まずいよね……)
 日和は迷いながらも、静音に話しかける。

「静音さんは、赤札何枚目ですか? 私は五枚」
「私も、日和さんと同じです」
 赤札を受け取った静音が苦笑する。返事をもらえたことに、日和は安堵した。

「日和さんは、こういうことに慣れていらっしゃるのですか?」
 一般人の日和が落ち着いているのを見て、静音は疑問に思ったのだろう。

「仕事で何度か、変なことや変な世界を体験していますから。本当、現実世界で平和に生きさせろって思います」

 日和の乾いた笑いに何かを察したのか、静音は愛想笑いを浮かべた。

「静音さんは、異空間に来たことはありますか?」
「いいえ。玖魂くこん家には、空間を作る術はありません。扱えるのは、魂に関係する術のみです」

「そういえば、魂が見えるって言ってましたよね。魂って、どういう風に見えるんですか?」

「胸の辺りに、フワッとした光の玉のように見えます。一つの色ではなく、何色もの光が合わさって、淡い光を放っているような……。日和さんは白・緑・黄色が強く、桃色も少し混じっています。魂が安定しているのか、とても穏やかで、一緒にいて安心できます」

 静音が総一郎の時とは違って饒舌じょうぜつなのは、日和の魂を見て安心感を抱いたからなのだろう。

(自分では分からないけど、褒められるのは嬉しいな。あれ? そういえば、私は魂を見たことがないのに、魂の欠片は見たことがあったよね?)

 去年の夏に、洞窟の中で月人つきひとの魂の欠片を見たのを思い出して、日和は首を傾げる。呪術が見える眼鏡もなかった状況なのに、何故見えたのだろうか?

「私、前に一度だけ魂の欠片を見たことがあるんです。霊感も無いのに、何で見えたんでしょうか?」 
「それは、器がない剥き出しの状態だったからではないでしょうか?」
「器?」
「ええ。人体も霊体も持たない剥き出しの状態ならば、霊感が無い人でも、魂を見ることが出来ると聞いたことがあります」

(そっか、魂の欠片は一部だけだから、器を持てなくて剥き出しの状態になっていたってことか)
 
『美梅さん。いつまでも喧嘩してないで、ゲームしようねー』
 巡が困ったように声を上げる。

 咲良子と言い合いをしていた美梅は、しかめっ面でサイコロを止める。美梅は『四』を出して、大雅と同じ三十四マス目の緑マスに止まった。

「美梅ちゃん。浮かない顔だね」
「貴方には関係ないので、放っておいてください」
 美梅がツンとした態度を取ると、大雅は苦笑した。

「咲ちゃんとは、いつも喧嘩しているの?」
「咲良子が突っかかってくるんです。私は悪くありませんから」

 大雅は少し寂しそうな顔で、美梅を見つめる。大雅の視線に気づいて、美梅は居心地の悪さを感じた。

「あの……。貴方は、私のことを知っているのですか?」

 初対面だったのに、大雅が『梅ちゃん』と呼んだことが、美梅の中でずっと引っかかっていた。

「ああ、ごめんね。人違いだったよ。俺の知り合いに、少しだけ似ていたから」
「でも、名前」
「その子も『梅』がつく名前だったからね。君とは全然違う女の子だよ」
 
「……好きな人だったんですか?」
 あまりにも切なそうな顔をする大雅を見て、美梅は尋ねる。大雅は驚いた顔をして、首を横に振った。

「違う違う。その子は妹みたいなものだよ。というか、俺の親友の妹だったんだ。遠くに行っちゃって、もう会えないけどね」
「遠く? 外国ですか?」
「……うん。美梅ちゃんは、外国に行ったことある?」

 話を逸らされたことに気づかずに、美梅は大雅と話をする。

(この人、見た目や言動からチャラチャラしているのかと思ったけど、話していると、なんだか安心するわ)

 胸に広がる安心感と、少しばかりの懐かしさに、美梅は首を傾げた。

 
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