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第九章 自分にかけた呪いの話

第9話 仕返しチャンス!

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 五ターン目。

 咲良子さくらこが『二』を出して、十六マス目の紫マスに止まる。咲良子が所持している緑札は三枚。アイテムの『亀サイコロ』か『通せんぼ』と交換出来る。咲良子は悩む事なく『亀サイコロ』と交換した。

 かけるが『四』を出して、十九マス目の赤マスに止まる。一番進んでいるが、赤札の所持数も一番多かった。

 大雅たいがが『四』を出し、十七マス目の黒マスに止まる。
 眠っている碧真あおしを含めて全員が中央に集められた。

『次もまたペアでやってもらうゲームだよー。皆、そんなに嫌そうな顔をしないでよー。ちょっと難易度を下げてあげるからさ。次は、「相手の頬に触れるゲーム」ねー』

「触れるだけ? 簡単ね。はい、これでいい?」
 咲良子は躊躇ためらう事なく大雅の頬に触れる。不意打ちだったせいか、大雅は目を見開いて固まった。

「はい。次は大雅の番」
 咲良子は自分の右頬を大雅に差し出す。大雅は体を仰け反らせて、咲良子から距離を取った。

「俺はパスで」
「また? 女の体なんて、触り慣れているんじゃないの?」
「そうだけど」
「それなら、頬くらい簡単でしょ?」
「いや、咲ちゃんに触れたら、セクハラ扱いされそうだから無理」
「そんなことしないわ」
「とにかく、俺はパス!」

 頑なに拒否しようとする大雅に、咲良子はムッとした表情を浮かべる。咲良子は、大雅の手を取って自分の頬に触れさせた。

「さ……」
「はい。これで大雅もクリア」
 咲良子は大雅の手を雑に離して離れる。大雅は呆然と突っ立っていた。

『駆と静音しずねはー?』
 巡がワクワクとした顔で二人を見る。駆はブンブンと激しく首を横に振って拒否をした。静音は少し躊躇った後、手を伸ばして駆の頬に一瞬だけ触れる。

『駆は意気地いくじ無しだなー。静音だけクリアね』
 頬に触れられた事を理解した駆の顔がほんのり赤くなった。

「それでは、失礼しますね。美梅みうめさん」
 総一郎そういちろうにそっと触れられ、美梅の頬が一気に真っ赤に染まる。恋する乙女モード全開で表情筋が溶けかけていた。

「美梅さんもどうぞ」
 総一郎が顔を近づけると、美梅は慌てふためきながらも指先でチョンと触れる。茹でタコのように赤面した美梅の限界を察して、総一郎は苦笑しながら離れた。美梅は真っ赤になった頬を両手で包み込み、幸せと恥ずかしさに身悶えていた。

「碧真君が眠っているんですけど、この場合はどうなるんですか?」
 碧真は大きなクッションの上で、すやすやと眠っている。肩を揺すって名前を呼んでみても、起きる気配はなかった。

『自分のターンが来るまでは、何をしても起きない仕様にしているからね。碧真さんは眠っているから不参加で赤札進呈。日和ひよりさんは、碧真さんの頬を触れば緑札をあげるよ』
 
 頬に触るだけで済むなら簡単だと、日和は眠っている碧真を見る。碧真の綺麗な寝顔を見て、日和の悪戯イタズラ心がムクムクと膨れ上がった。

(これって、仕返しのチャンスでは!?)
 日和はワクワクしながら、碧真の頬を摘む。やはりというか、摘める肉が少ない。ただ、皮膚が柔らかいのか、碧真の頬はよく伸びた。

 今までの鬱憤を晴らす為に、日和は少し力を入れて碧真の両頬を摘んで伸ばす。そのまま碧真で変顔を作って遊んだ。

『なんか、凄く楽しそうだねー』
「楽しいです! このミニゲームいいですね!」

 緑札も貰える上に、やり返されること無く仕返しが出来る。キラッキラの笑顔を浮かべる日和に、巡は苦笑した。

 ミニゲームが終わり、全員が元のマスに戻された。
 
 順番が来て目を覚ました碧真が、クッションから体を起こす。碧真は一瞬状況が分からずに困惑していたが、すぐに今までの出来事を思い出したようだ。

 碧真が立ち上がると同時に、大きなクッションが消える。
 碧真は痛みのある頬をさすって不可解そうな顔をする。日和は碧真とは違う方向を見て、素知らぬ顔をした。

 サイコロで『五』を出して、碧真は美梅がいる十一マス目の緑マスに止まった。

「何で来るのよ。へび憑き。邪魔だし、不愉快な」
「当主に言われた事を忘れたのか?」

 総一郎から直して欲しい所として言われていた碧真への態度の事を指摘され、美梅は言葉を詰まらせる。何も言えなくなった美梅は、不服そうな顔でフンと鼻を鳴らして碧真から顔を逸らした。

(よし! 碧真君に仕返しはバレてない!!)
 日和は内心ガッツポーズをして、サイコロを止める。『四』が出て、咲良子のいる十六マス目の紫マスに止まった。

「やった! アイテムと交換できる! 『双子サイコロ』を下さい!」

 日和の持っている緑札は、先程のミニゲームで丁度五枚になっていた。欲しかった『双子サイコロ』の紫札を手にした日和は、これで一気に前に進めると上機嫌になる。

「日和の緑札の数が合わなくないか?」
 碧真の声に、日和はギクリとする。恐る恐る後ろを振り返ると、碧真が大雅の止まっている黒マスを見ていた。自分の寝ている間にミニゲームが起きていた事を理解した碧真は、目を細めて日和を見る。

「日和。俺が眠っている間に何かしたか?」
「え、い、いや。な、ナニモシテナイヨ」

 碧真から放たれる威圧感に、日和は怯えて視線を逸らす。バレバレの態度に、碧真は長い溜め息を吐いた。

「頬が痛いんだが?」
「……あ! 碧真君、『一回休み』になった時に倒れたから、その時に床にほっぺをぶつけたんじゃないかな!?」
「両頬が痛い事なんてあるか?」

 上手い言い訳だと思ったが、碧真に即座に切り捨てられる。他に言葉が思い浮かばず、日和は目を泳がせた。

「日和?」
 碧真にドスの効いた声ですごまれ、日和はブンブンと必死に首を横に振る。碧真はマスを出て、日和の元へ行こうとした。

『ゲームの進行以外では、マスから出られないからねー』
 見えない壁に行手を阻まれ、碧真は舌打ちする。ゲームの仕様に助けられた日和はホッと息を吐いた。

(よし! このままゴールまで碧真君から逃げ切ろう! 碧真君とは五マスも離れているし、一回で追いつかれる可能性は六分の一だ。私には『双子サイコロ』があるから、逃げ切れる可能性が高い!!)

『ミニゲームになったら全員集合だから、すぐに碧真さんに仕返しされるだろうけどねー』
 思考の記憶を読んだ巡が笑いながら、日和の淡い希望を打ち砕いた。
 日和はガクリと項垂うなだれる。仕返し出来て楽しかった気持ちも一気にしぼんだ。

『あとはー、ご褒美マスでも一緒になるかもしれないね』
「ご褒美マス? も、もしかして、仕返しの願いを叶えるとか!?」
『違うよー。でも、良い事があるから楽しみにしててねー』

 巡は意味ありげに笑って、それ以上は答えない。わかっているのは、日和にとって鬼畜な未来が待っている事だけだった。

 総一郎が『三』を出して十五マス目の緑マスに、静音が『二』を出して十四マス目の緑マスに、美梅は『四』を出して総一郎と同じ十五マス目に止まった。


 六ターン目。

 咲良子が『三』を出して、十九マス目の赤マスに止まる。

 駆が『四』を出して、二十三マス目の金マスに止まった。

『おー! ご褒美マスに止まったね。やったねー! 駆!』
 思い切り口角を上げて嬉しそうな巡に、駆は嫌な予感がしたのか少し後ずさる。

(一体、何が起こるの?)
 全員が不安を抱いて見守る中、巡は高らかに右手を上げる。

『それじゃあ、ご褒美第一弾! どうぞー!』

 パチンと指が鳴る音と共に、空間の一部が揺らいだ。

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