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第九章 自分にかけた呪いの話
第8話 好き嫌い
しおりを挟む『次は、駆と静音がお互いの好きなところを言いなよー』
巡に促され、静音は躊躇いながらも口を開く。
「駆の好きなところは、優しいところ。側にいてくれたところ。支えてくれたところ」
『OKー。駆は?』
駆は静音ではなく、巡をジッと見つめた。巡は溜め息を吐く。
『思うだけじゃダーメ。声に出して言わないと赤札だからねー』
「……優しい、綺麗、……笑顔が素敵なところ」
駆はモゴモゴと消え入りそうな声で答えた後、恥ずかしそうに俯いた。
『うん。まあ合格かなー。じゃあ、最後は日和さんと碧真さんだね』
日和は隣にいる碧真を見上げて考える。
「碧真君の好きなところ……。一緒にいて気楽なところ。なんだかんだ言いながら、いつも助けてくれるところ。不器用だけど優しいところかな?」
最初は大嫌いだとまで言ったのに、今は好きなところを言えるようになったのだなと、日和は感慨深い思いを抱いた。碧真は何とも言えない表情を浮かべて口を開く。
「日和の…………マシな部分は、面倒な偏見を押し付けてこないところ。礼儀も遠慮もいらないところ。扱いが楽なところ」
「ちょっと待って! 礼儀と遠慮は必要だから! てか、扱いが楽って何!?」
「馬鹿だから扱いやすいという意味だ」
「ツッコミであって、解説が欲しいんじゃないの!! 人に対して言う事にしては酷すぎない!?」
「馬鹿に対して言う事としては正常だろう」
「絶許ぉっ!」
『はいはーい。仲がいいのは良い事だけど、そこまでにしようねー。ミニゲームが終わったから、双六再開だよー』
巡が両手を叩くと、全員の足元から光が溢れて一瞬で元のマスへ戻された。
『次は日和さんからだねー』
日和はサイコロで『一』を出し、静音と大雅がいる八マス目の赤マスに止まった。二連続で赤札を手に入れた事に、日和は肩を落とす。
総一郎は『五』を出して十マス目の緑マスに、静音が『三』を出して十一マス目の緑マスに止まった。
美梅が『三』を出して、碧真と同じ六マス目の黒マスに止まる。
『おー。やっぱり人数がいると、ミニゲームマスに止まる確率が上がるよね。じゃあ、また集合ー』
中央の空間に再び召集される。今度は何をさせられるのかと、美梅を除いた七人がジト目で巡を睨みつけた。
『うわー。怖いなー。じゃあ、次のミニゲームで発散してよ。前と同じペアで、今度は「相手の嫌いなところを三つ言うゲーム」ね』
「よし!! 碧真君の嫌なところを言わせてもらうからね! まず、私の事を貶しすぎなところ! 毒舌嫌味連発の捻くれ魔なところ! 勝手に拗ねて面倒臭い時があるところ!」
鬱憤をぶつけるように言い切った日和に、碧真は面倒臭そうに溜め息を吐く。
「日和の嫌なところは、アホで間抜けなところ。学習も出来ない馬鹿なところ。方向音痴の癖に自信満々に一人行動して、結局こっちが迎えに行く羽目になる傍迷惑なところ。動作も口もうるさいところ。ガキすぎるところ。警戒心なさすぎて」
「ちょっと待って! 三つまでだってば!」
「三つじゃ足りないくらいダメ人間なところ」
「そこまでダメじゃないでしょう!?」
「ダメ人間の自覚が無いところ」
「追加していかないで!」
『はいはい。君達の漫才が続くと、いつまでもミニゲームが終わらないからストップねー。じゃあ、次は駆と静音が言ってよ』
「……駆の嫌いなところは、何も言ってくれないところ、自分を低く見ているところ、私に優しすぎるところ」
俯いて掌を固く握りしめる静音を見て、駆は悲しそうに眉を下げた。
『駆は?』
巡に話を振られたが、駆は首を横に振る。嫌いなところが無いのか、言いたくないという事だろう。罰ゲームを拒否した駆は、目の前に現れた赤札を受け取った。
「次は私が言うわ。今の大雅の嫌いなところは、女遊びをしているところ、何でも誤魔化そうとする不誠実なところ、私を避けているところ」
「恨みが込められてるね」
「次は大雅の番。言えるものなら言ってみなさい」
咲良子は大雅を睨みつける。大雅は何か言いかけたが、苦笑して言葉を引っ込めた。
「俺はパスするよ」
『え? いいの?』
「うん。咲ちゃんが怖いから無理。赤札を貰うよ」
「……意気地無し」
咲良子の責めるような視線と言葉に、大雅は困ったように笑う。赤札を受け取った後、大雅は美梅と総一郎へ視線を向けた。
「さ、当主様達の番ですよ」
順番が回ってきた美梅は、困った顔をする。
「総一郎様の嫌いなところなどありません。全部好きです!」
「うわ~。お熱いことで」
目の前で惚気られて、大雅は苦い顔をする。総一郎は思案顔を浮かべた後、思いついたように口を開いた。
「直して欲しいところや悲しいと思うところを言うのはどうでしょう? 嫌な感情からのものならば、条件を満たすのではないですか?」
『ああー、それでもいいよー』
巡が了承する。美梅はそれでも悩むらしく、視線を彷徨わせた。
「では、私が先に言いましょう。私も美梅さんの嫌いなところはありません。少し和らげて頂きたいところを言うならば、時々感情的になって暴走されてしまうところ。私を過剰に評価してくださるところ。碧真君や咲良子さんに対する態度が厳しすぎるところですね」
美梅は少し恥ずかしそうな顔をした後、ギュッと掌を握り締めた。
「私が総一郎様に対して、悲しいと思っているところは……。私と咲良子、どっちが好きか言ってくださらないところ。私を頼ってくださらないところ。私に何か隠しているところです」
言い終わった美梅はションボリとした顔をする。罪悪感を抱いたのか、総一郎は眉を下げた。
『全員言い終わったねー。これで三ターン目が終了だ』
全員が元のマスに戻され、四ターン目に突入した。
咲良子はアイテムを使わず、サイコロで『五』を出す。十四マス目に進み、緑札を手に入れた。
駆は『二』を出して、十五マス目の緑マスに止まる。三連続赤マスだった駆は、初めて緑札を手に入れた事に安堵の表情を浮かべた。
大雅は『五』を出す。十三マス目の赤マスに止まり、二連続で赤札を手に入れた。
碧真がサイコロを止めると、初めて『一回休み』の目が出た。
「え!? 何!?」
碧真と同じマスに止まっていた美梅は目を丸くして驚く。碧真の背後の床の上に、大人一人が眠れそうな大きさの分厚く丸いクッションが出現した。背後を振り返ろうとした碧真の体が後ろへ傾き、クッションの中に沈み込む。
「碧真君!?」
日和は驚いて声を上げる。碧真は倒れたまま動かなかった。
『眠っているだけだから大丈夫だよー。自分のターンが来るまでは、何をしても起きないけど。体に害は無いからね』
害は無いと聞いて、日和と総一郎は安堵する。マスのスペースが狭くなった事に、美梅は迷惑そうに碧真を見下ろした。
日和は『四』を出して、十二マス目の緑マスに止まる。
(緑マスで二枚、ミニゲームで二枚の緑札を手に入れた。『双子サイコロ』が欲しいから、あと一枚緑札を手に入れたいな。罰ゲーム回避の為にも、早くゴールしなくちゃ!)
総一郎は『二』を出して、日和と同じ十ニマス目に止まった。
「なんか、総一郎さんが止まってるのって、全部緑マスじゃないですか?」
「日頃の行いがいいからでしょうね」
しれっと言い放つ総一郎を、日和はジト目で睨む。
(いつも命の危険がある仕事を人に任せているのに……)
日和の無言の訴えを、総一郎は華麗にスルーした。
「お邪魔します」
サイコロで『一』を出した静音が、日和と総一郎と同じマスに止まる。静音は気まずそうに隅に寄った。
「静音さんは、巡さんが鬼降魔喜市と出会った経緯をご存じですか?」
総一郎の問いに、静音は首を横に振る。
「私は、ずっと部屋にいる身でしたから分かりません。巡は普通の生活をしていたので、外で会ったのかと」
「いつ頃出会ったかなどの話は?」
「……私は、巡とは何年も会っていなかったので何も知りません」
「離れて暮らしていたという事ですか?」
「はい。私の家の風習で……」
言いにくい事なのか、歯切れ悪く答える静音。これ以上の追及は無理強いになると判断したのか、総一郎は口を閉じる。
(まるで、自分は普通の生活をしていなかったみたいな言い方だったな。もしかして、病気で離れて療養してたとか? ……でも、それなら”風習”って言い方をするかな?)
巡へ視線を向けた日和はハッと目を見開く。
巡は笑みを消した無表情で、静音を見据えている。
美梅が『五』を出して十一マス目の緑マスに止まったところで、四ターン目は終了した。
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