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第八章 執着する呪いの話
第37話 神との血の契約
しおりを挟む(一体、何がどうなっているんだ?)
日和ちゃんと一緒にいた筈なのに、俺はいつの間にか植物の蔓に囲われた場所にいた。
下から複数の話し声が聞こえる。
足元にあった蔓の裂け目から覗き込めば、日和ちゃんを付け狙う男と、その仲間らしき男がいた。男が日和ちゃんにベタベタと触っているのを見て、俺は怒りが込み上げる。
回廊に小さな化け物が姿を現す。話し方や笑い声から、その正体が娶リ神なのだと分かった。
『女は数週間か数ヶ月したら、お前にくれてやろう』
娶リ神が男に向かって言う。勝手なことをほざく娶リ神に、俺の怒りが限界点を超えた。
(ふざけるな!! 日和ちゃんは永遠に俺の物だ!! 他の男になんて、やるわけがない!!)
俺は蔓を両手で掴み、力を入れてこじ開ける。蔓はカーテンを開けるように簡単に曲がった。男達や娶リ神が、驚いた顔で俺を見上げた。
「あ゛ああああっっ!!!」
俺は雄叫びを上げながら、男に飛び掛かる。男の仲間が即座に反応して、俺の行く手を阻むように男の前に立った。
「邪魔だ退けええ!!!」
俺は男の仲間へ体当たりをする。男の仲間の体が吹き飛び、床の上を転がっていく。俺は男の胸ぐらを掴み上げ、頭を思い切り殴りつけた。
鈍い殴打音が響き、男が床の上に倒れる。男が身に着けていたネックレスが千切れて床の上を転がった。俺はすぐに日和ちゃんを取り返して抱きしめる。
男を見下ろせば、頭から血を流して意識を失っていた。男の仲間は起き上がると、血を流して動かない男を見て、慌てて駆け寄った。
「ツンデレ君! しっかりしろ!」
男は気がついたようだが、起き上がれないようだ。
(力が湧いてくる。これなら勝てるぞ!!)
俺は日和ちゃんを床の上に座らせ、男の仲間に向かって殴りかかった。
男の仲間の前に、女の小人が二体現れて、両手を前に構える。攻撃を阻むように現れた金色の光の壁に向かって、俺は拳を突き出した。
光の壁がガラスのように割れ、小人達と一緒に、男の仲間が仰向けに倒れる。
(何だ、これ? 最高に気持ちいい!! もしかして、娶リ神と契約した事で、俺の秘められた力が覚醒したのか!?)
圧倒的な力で暴力を振るう快感に気分が高揚して、ブルリと体が震えた。
体の底から歓喜と力が湧き上がってくる。今なら、どんな相手にだって負ける気はしない。幼い頃から切望していた強者の立場にいるのだと自覚して、優越感が爆発的に上がっていく。
(もっと、こいつらを痛めつけてやりたいが、先に日和ちゃんを安全な場所に保護した方がいいな。また厄介な奴が現れないとも限らないし)
日和ちゃんの元へ行こうとした時、爪先に何かが当たった。
俺は落ちていた黒鞘の短刀を拾い上げる。
(これ、俺が神社から盗んだ縁切刀だよな?)
男と日和ちゃんの縁を切ることが出来る刀だと娶リ神は言っていたが、結局は効果がなかった。苦労して手に入れたのに、とんだ鈍ら刀だ。
『契約者! 縁切刀を、ワシに寄越せ!!』
娶リ神に命令されて、俺は気分が悪くなる。
「うるさい! 裏切り者!! 何なんだよ! 日和ちゃんを渡すとか、ふざけた事を言いやがって!!」
『あれは、間男達を欺く方便だ! ワシが裏切る訳が無いだろう!?』
「お前なんか信じられるか! 毎回、上手くいかないじゃないか!!」
『それは邪魔者達が』
「うるさい! これは俺が預かっておく。お前は俺の下僕だ、娶リ神。もう一度俺に信用して欲しければ、こいつらを始末しろ! 俺の邪魔をさせるな!!」
娶リ神は悔しげに呻くが、俺の命令に従って男達の方へ向き直る。
回廊に壁が作られて、娶リ神や男達の姿が見えなくなる。俺は笑みを浮かべた。
(この壁があれば、追って来れないな。日和ちゃんとの時間を邪魔されずに済む)
俺は日和ちゃんを抱え上げ、耳元に甘く囁く。
「さあ、行こうか。日和ちゃん。婚礼の儀式の次は、愛を確かめ合う儀式だよ」
***
娶リ神と好下が言い争っている中、篤那は立ち上がる。
先程は好下の予想外の攻撃力に驚いて倒れてしまった。
(あの男からは、娶リ神と他の神の力を感じた。娶リ神と血の契約まで交わしていたのか? それなら、あの男は、最早……)
行く手を遮る壁が目の前に出現し、娶リ神が怒りと敵意を露わに立ち塞がる。娶リ神が手を翳す先には、よろめきながら立ちあがろうとする碧真がいた。
「悠遠と十蔵は攻撃、恋歌と紗夜は防御を頼む」
篤那の言葉に、守り神達は任せろと頷く。
十蔵の放った弾丸で、碧真に向かって振り下ろされた巨大包丁の軌道を逸らした。恋歌が結界で碧真を守り、悠遠が娶リ神に向かって弾丸を放つ。
「ツンデレ君!」
篤那は紗夜の作り出した結界で守ってもらいながら、碧真に駆け寄った。ふらつく碧真を支えようと手を伸ばすが、振り払われてしまう。碧真は壁を睨み付け、頼りない足取りで歩き出そうとしていた。
「待て。ツンデレ君。俺が」
「邪魔するな!! 日和が、あのストーカー野郎に連れて行かれたんだぞ!?」
碧真は声を荒げる。怒りと焦りが、碧真から冷静な判断力を奪っていた。碧真の気迫に怯まずに、篤那は真っ直ぐに見つめる。
「俺が娶リ神の相手をする。君は少し下がっていてくれ。君が倒れては、元も子もない」
篤那は碧真の前に立ち、娶リ神と対峙した。
「恋歌。思い切りやっていいぞ」
恋歌が満面の笑みで頷き、機関銃を構える。恋歌は上機嫌に踊るように機関銃を振り回す。娶リ神には掠る程度しか当たらず、殆どの弾丸は壁に埋まっていった。
『どうした? そんな下手な鉄砲じゃ当たらんぞ?』
下手という自覚がある恋歌が、頬を膨らませて怒る。機関銃の狙いが、娶リ神へ向けられた。
「恋歌。もう十分だ」
篤那が止めると、恋歌は膨れっ面をしながらも機関銃を下ろした。
『はっ! どうした? 偉そうな事を言っておきながら、この程度か? この通り、ワシはまだ動ける。契約者が寝所に辿り着くまで五分も掛からないぞ?』
「紗夜。頼む」
腹に重く響く発砲音の後、娶リ神が作り出した分厚い石壁が、盛大な音を立てて崩れる。娶リ神が呆気に取られて固まった。
「最初から、道を作ろうと思っていた」
恋歌の機関銃で壁の複数箇所に傷を入れ、紗夜の大砲で一気に壊す作戦だった。
篤那は碧真を振り返る。
「娶リ神の相手は俺が引き受ける。君が日和を迎えに行け。十蔵はツンデレ君の援護を頼む」
最も攻撃力と狙撃力が高い十蔵に、碧真を守るように伝える。十蔵は頷き、碧真の右肩の上に飛び乗った。碧真は少しだけ躊躇ったが、すぐに背を向けて走り出した。
娶リ神が巨大包丁で碧真を攻撃しようとする。恋歌と紗夜が協力して結界を作り出し、娶リ神の攻撃から碧真を守った。篤那は伝え忘れていたことを思い出し、碧真の背中に声を掛ける。
「あの男には気をつけろ。既に人間ではなくなっている」
碧真はチラリと篤那を振り返ったが、返事をせずに走り去った。
『ただの小僧が、調子に乗りおって!』
娶リ神が地形を操り、篤那の守り神達を石壁の中に閉じ込めた。
『もう一つの目を通して見ていたが、お前はあのチビのようには戦えないだろう? あの檻を作り出すのにも時間が掛かっていた。契約者にも無様に殴り飛ばされていたな? 守り神達に攻撃させていたということは、お前自身は弱いのだろう? ワシは今すこぶる機嫌が悪い。嬲り殺されても文句は言うなよ?』
「確かに、俐都のようには戦えないが、俺も天翔慈家の人間だ」
篤那は簡易攻撃術式を一瞬で生成し、守り神達を閉じ込める石壁と娶リ神に向けて金色の矢を放つ。金色の矢は娶リ神の体を貫き、石壁を破壊した。
俐都を真似て、篤那は少し不敵に笑ってみせる。
「俺が弱いかどうか、己の身で確かめてみろ」
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