呪いの一族と一般人

呪ぱんの作者

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第六章 恋する呪いの話

第21話 坊主めくり

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「「「「は?」」」」
 篤那あつなの言葉に、三人と魔物が声を揃えて訝しげな顔をする。

「遊戯って……」
 日和ひよりは戸惑いながら篤那を見上げる。篤那は慈しむような優しい笑みを浮かべると、日和の頭を撫で始めた。

「え? あの、篤那さん??」
 日和は困惑する。碧真あおしが舌打ちして、篤那の手を払い落とした。

「あんた、さっきから何やりたいんだよ? ちゃんと説明しろ」
「ふふふ。それもそうか。悪かったね」
 苛立つ碧真を見て、篤那はふわふわとした雰囲気で笑って頷く。

「何だよ、更に頭のネジが吹き飛んだのか? 気色悪い」
 今までより拍車をかけた篤那のズレっぷりに、碧真は顔をしかめる。

「人外相手の交渉では、遊戯による賭けで決める方が被害が少なくていいんだ。だから、遊戯を提案したんだよ」

 篤那は魔物へ視線を戻し、ニコリと微笑む。

「君が勝ったら、”あの方との縁”をあげる。君が負けたら、その女の子を無事に返して欲しい」

 魔物は篤那の真意を探るように睨みつける。篤那は楽しそうに口を開いた。

「なんなら、君が”あの方”を好きに出来るように、僕が協力してもいい。煮るなり、焼くなり、食べるなりね」

「乗ったわ!!」
 魔物が喰いつくと、篤那は笑みを深めた。

「え? 誰だか知らないけど、”あの方”って人の扱い酷くないかな? 大丈夫なの?」
 交渉の材料に使われている人の行く末を案じて、日和は顔を引きらせる。俐都りとも微妙な顔をした。

「人じゃねえから、焼かれても大丈夫だろうが。捕食されたら、どうなるのやら……。流石に同情するぜ」 
「人じゃない?」
 日和の問いに俐都が答えるより早く、篤那が口を開く。

「折角だから、みんなで遊ぼう。全員が自分の持っている物を賭ける。それを勝負の景品として、一位の人に渡すようにしよう」

「「「「は?」」」」
 篤那の言葉に、再び三人と魔物が声を揃えて訝しげな顔をする。

「おい、勝手なことを」
「俐都君は、自分の守り神との縁を賭ければいいんじゃない? 負けたら、守り神を他の人にあげることが出来るよ?」
「よし、やるか!」
 俐都は鮮やかに手のひらを返して、嬉しそうな笑顔で両拳を握りしめる。

「最高じゃねえか。これでようやく、あの疫病神とおさらば出来る!」

「ふーん。面白そうね。それなら、地味子は、その犬達を賭けてくれる? さっきから地味に邪魔をしてくれて、腹が立っていたのよね。それに、程よい神力で美味しそうだもの」

 魔物は日和の足元を指差す。狛犬達のことを言っているのだと気づいて、日和は狼狽うろたえた。

「そんな……」

「この体を取り戻せなくなってもいいの?」
 日和は首を横に振る。美梅を取り戻すチャンスを捨てる訳にはいかない。

「それなら、どうすればいいかわかるでしょ?」

 頷くしかないと分かってはいるが、いつも守ってくれた存在を賭ける事、負けた場合に狛犬達の命が失われてしまう事を考えると、どうしても躊躇ためらう。

「大丈夫だよ。負けなければいい。それに、狛犬達は乗り気みたいだから」
 篤那が日和の肩に手を置いて、優しい声で告げる。

 篤那の視線を追って足元に目を向ければ、日和を見上げた小さな狛犬達の姿が朧げに見えた。日和の決断を促すように、狛犬達は胸を張り、魔物を睨みつける。

「……わかりました。私も参加します」
 日和の言葉に、魔物はニヤリと笑う。

 篤那は柔らかい笑みを碧真に向ける。

「君は、日和ちゃんとの縁を賭けようか」
「は?」
 篤那は提案ではなく、決定するように言った。碧真が睨みつけると、篤那はスッと目を細める。

「だって君は、日和ちゃんのことが嫌いなんでしょ? それなら、縁なんていらないよね? 負けたとしても、君には何も害はないでしょう?」

 声色は柔らかいのに、篤那の言葉には有無を言わさぬ雰囲気があった。碧真は不快そうに顔を歪める。

「何を勝手に」
「あら、それでいいわよ。地味子には興味ないけど、その子の縁をもてあそぶのは面白そうだわ」

「決まりだね」
 篤那は笑みを深めた。俐都は呆れたような目で篤那を見た後、魔物へ視線を向ける。

「んで? 勝負って、何をするんだ? 殴り合いか?」
「はあ? 乙女がそんなことをするわけがないじゃない」

 魔物は呆れたように言うと、天に向かって両手を広げた。

 魔物の頭上の暗闇の中から、草色の札が複数枚出現する。魔物が掌を上に向けた状態で胸の前に両手を下ろす。
 宙に浮いていた札が、魔物の左右の手に交互に一枚ずつ収まっていく。二つの束となった札を持って、魔物は笑みを浮かべた。

「歌かるたで勝負というのは、どうかしら?」
「歌かるた?」
 魔物の提案に、日和は首を傾げる。

「百人一首のかるただよ」
 篤那の説明に、日和は納得して頷く。俐都は苦い顔をした。

「何だそれ、全く知らねえ。俺は負けてもいいが……お前達はどうだ?」
「私も百人一首はよくわからないかも」
 和歌はいくつか知っているが、日和もそこまで詳しくない。

 もし、魔物が歌かるたの手練れで、テレビ中継で見た競技のようなことをされたら敵うわけがない。

「碧真君は、歌かるた得意?」
「そんな訳がないだろう。興味もない」
「篤那さんは?」
「遊んだことはあるけれど、得意ではないね。どちらかというと、花札が得意だよ」

 全員が不利では、いくら人数的に有利であっても勝負にならない。

「はあ? あなた達、学が浅いのね。和歌は胸に秘めた感情を風雅で気品のある言葉で表す、素晴らしいものよ。この札を使った勝負以外、私はやらないわ」

 歌かるた以外の勝負に持ち込む道を、魔物が遮断した。日和は眉を寄せて考える。

(どうしたら……)

 日和の頭に、小学生の頃の記憶が蘇る。歌かるたの遊び方がわからない子供達の為にと、先生が教えてくれた遊び。歌かるたの札を使っている所は同じだが、理解しやすい単純なゲーム。

「坊主めくりで勝負するのはどうかな?」

「坊主めくり?」
 俐都が不思議そうな顔で日和を見る。日和は頷いた。

「ルールは色々あって、私が知ってるのは珍しいルールになるんだけど」

 日和は『坊主めくり』の遊び方を説明する。
 

 坊主めくりは、歌かるたのように読み札を使わず、絵札のみを使用して遊ぶ。

 絵柄が見えないように裏返しに重ねた百枚の札を山札とし、一人一枚ずつ札を引いていき、自分の持ち札にする。

 山札から坊主の絵柄を引いた場合、共有の札捨て場に、全ての持ち札を捨てなければならない。

 カラフルな縞模様の入った台座に乗った人物札を引いた場合は、捨て場にある札を自分の持ち札にする事が出来る。

 山札が全て無くなった時点でゲームが終了し、終了時に一番多く札を所有している人の勝利となる。


「僕が知っている遊び方では、繧繝縁うんげいべりの畳に乗った札ではなく、姫が出たら捨て札を総取りだったな。色々な遊び方があるんだね」

 篤那が言うものが有名なルールで、日和が知っているのは一般的なルールではない。

 遊び方は人によって異なる。坊主札の中にある頭巾を被った『蝉丸』という札に他の役割を持たせる場合や、弓持ちを役有り札とする場合、逆に持ち札が少ない方が勝ちという場合もある。

(けれど、このゲームの本質は……)

「純粋な運ゲー。知識も技能も不要だから、平等な勝負になると思う」

 自分の提案が通るか、日和はドキドキしながら魔物の様子を伺う。
 平等と言っても、それは個人戦だった場合。この勝負は、魔物側は一人で勝ち抜けしなければならないが、日和達は四人の内の誰か一人が勝てば美梅を取り戻すことが出来る。圧倒的に、魔物に不利なゲームだ。

(卑怯かもしれないけど、美梅さんを必ず取り戻さないと)

「いいわよ」
「……え? ほ、本当に?」
 魔物にあっさりと承諾されて、日和は驚く。

「何か文句あるの? 決定ね。これ以上は譲れないから」

 予想外ではあったが、勝てる可能性が高い勝負に持ち込めたのだから良い事だろう。

「よりにもよって、運絡みかよ」
「え? あの、俐都君?」

 俐都が、どんよりとした顔で溜め息を吐く。俐都は日和の提案したゲームに対して負の感情を抱いているようだ。

(え? もしかして、私、何かまずいことを言ったんじゃ……)

「日和ちゃん。大丈夫だよ」
「篤那さん。で、でも……」
「俐都君は、少し特殊な加護を持っているからね。俐都君のことは……僕達三人の内の誰かが勝てば大丈夫だし」

(あれ? 俐都君が負ける前提で話してない? なんで?)
 篤那の言葉に、日和は訳が分からずに首を傾げた。
 
 魔物は悪の女王の如く酷薄な笑みを浮かべると、左手に持っていた読み札を畳の上に落とす。畳の上に散らばった後、読み札が黒いタール状の液体に変化した。

 液体が生き物のように畳の上を這い、四人の足元に迫る。

「契約を交わしましょう。たがえた時は、命を貰うわ」
「一方的な契りは出来ない。君も誓える? たがえた場合、君の存在を奪う」
「ええ、いいわ。じゃあ、契りましょう」

 液体が足元から一瞬で伸びて、日和達の心臓を貫いて消える。体に異変は無いように見えるが、拘束されるような嫌な感覚と命を握られているような恐怖感を覚えた。

「罰を受けないように、しっかりと約束を守りなさいよ。逃げ出すことは許さないから」
「勿論。君が逃げ出すことも許さないからね」
  
 魔物とのやり取りにも動じず、篤那は不敵な笑みを浮かべる。

「それじゃあ、皆で楽しく遊ぼうか」

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