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第二章 呪いを探す話
第5話 病院での調査
しおりを挟む出発前から呪いとは無関係の事で、日和の精神がゴリゴリに削られた後。
結局は運転席に碧真、助手席に日和、後部座席に美梅と咲良子が座った。
車内は無言。カーナビの音声のみが響く。
愛美が入院している病院に到着した。
病院は街中にありながら、木々に囲まれた穏やかな場所だった。大きな病院には広い庭のような空間があり、花壇やベンチがあった。
病院内は清潔で、明るかった。
受付で場所を聞いて、愛美の病室へ向かう。病室の番号下に書かれた名前を確認して、ドアをノックした。
名乗る前にドアが開き、憔悴した顔の女性が現れる。女性は日和達の顔を順に見て、口を開く。
「本家の使いの方ですね。よくお越しくださいました。私は、愛美の母です」
愛美の母親に促され、日和達は病室に入る。
部屋は個室で、愛美と思われる少女がベッドの上で眠っていた。
目を覚まさないので、衰弱しないように点滴をしているようだ。
(え? 何、この光?)
愛美の体の周りに、淡い黄色の光が舞っている。眼鏡を外して見ると、光は見えなくなった。日和が再び眼鏡をかけると、やはり、愛美の体の周りに光が舞っていた。
「咲良子さん。愛美さんの周りにある黄色の光は何なの?」
隣に立つ咲良子に小声で尋ねる。
「術者の力が現れたもの。この子が今、術を使っているから出てる」
淡い黄色の光は、愛美の力だった。
美梅は試しにと、愛美の体を揺さぶったり、名前を呼んでみた。しかし、愛美は穏やかに眠ったまま、身動ぎ一つもしなかった。
「愛美さんの体に、何か術式はありませんでしたか?」
美梅の問いに、愛美の母親は首を横に振った。
「隅々まで調べましたが、娘の体に術式はありませんでした」
美梅は愛美に掛けてあった布団を剥がす。目に光が集まり、美梅の瞳が赤く染まる。美梅は愛美の体を頭から爪先まで観察した後、首を横に振った。
「……隠蔽の術も使われていないみたいね」
美梅は残念そうに布団を元に戻した。
「発見時、術者が身につけていたものは?」
碧真の問いに、愛美の母親はベッドの横にあるチェストから衣服とブレスレットを取り出した。咲良子が受け取る。
「日和。一緒に調べて」
咲良子に言われて、日和は頷いた。下着があったので、碧真に見えないように部屋の隅に移動する。病室の端にあったソファの上に衣服を置いて、愛美が当時身につけていた衣服に何かないか調べる。咲良子はビーズブレスレットを念入りに調べていたが、怪しい物は見つからなかった。
「無い」
咲良子が断言する。衣服を元通り整えて、愛美の母親に返した。
本人の体にも、身につけていた衣服にも、術の手がかりは無い。
「こうなる前に、愛美さんに何か変わった事はありませんでしたか?」
美梅の問いに、愛美の母親は眉を下げた。
「実は……学校の先生の話によれば、愛美は体調不良だと言って、四日前の午前中に学校を早退していたようなんです。家政婦の話によれば、娘はいつも通り夕方に帰って来たので、早退した事は知りませんでした。その日、愛美は目を腫らして帰って来たと聞いています」
「学校で虐められていたとか?」
直球で聞く碧真に、日和はギョッとした。
愛美の母親は首を横に振る。
「愛美の友人達や学校にも問い合わせましたが、虐めは全く無いとのことです。娘は優しい子なので、友人達との仲も良好だと。それに、娘は休日は友人と遊びに出掛けています。人に嫌われるような子ではありません」
愛美の母親は、自分の娘を大事に思っているようだ。愛美のことを話す時は、少しだけ表情が和らいだ。
「ご友人と喧嘩したとか、トラブルがあったとかは?」
美梅が尋ねた。虐めが無かったとしても、友人関係が拗れるのは辛い事だろう。しかし、これにも愛美の母親は首を横に振る。
「早退するまで、いつも通りだったと聞きました。私も学校に行く前の愛美と会っています。いつも通り、元気に学校に行きました」
愛美の母親の目に涙が滲む。色々と思いが込み上げたのだろう。
虐めも友人間のトラブルも無い。学校にいる間に何かが起きて、愛美は早退した。そこに、自分に術をかけた理由があるのだろう。
「調べた事、知っている事を全て聞きたいんだが」
碧真の言葉に、愛美の母親は頷く。
「家に、私達が調べた事を記述したノートがあります。主人が持っていますので、持って来るように連絡します」
愛美の母親が携帯を取り出そうとするのを、碧真が止める。
「自宅も調べたい。その時に、見せて貰えれば良い」
愛美の母親が頷く。携帯を握りしめる手が震えていた。
「どうか、どうか娘を助けてください」
祈るように頭を下げる愛美の母親の姿に、日和は胸が締め付けられる。
碧真は何も言わずに病室を後にした。
「大丈夫です。この私が、必ず見つけますから!」
愛美の母親を元気付けるように、美梅が力強く宣言した。
「なんとかする」
咲良子も頷く。二人とも頼もしい限りだ。
二人のように自信を持った事は言えないが、自分に出来る事を精一杯やろうと日和は思った。
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