45 / 45
45.ボロアパート。
しおりを挟む
相澤和真は車の窓から顔を出す。
目の前には、今にも潰れそうな木造二階建てのアパートが建っていた。
「え? ここって、住めんの……?」
思わず失礼な言葉が口からこぼれ出た。それほどにボロボロだったのだ。
だが、ここの住人である三峰汐音は全く気にしていないようだった。それどころか、嬉しそうにニコニコと笑みまで浮かべている。
「はい。充分に住めていますよ。予算よりかなり節約できているのでとても助かっています。それに、大家さんが親切な方で、雨漏りが無い部屋に移らせてくれました」
それは当たり前なのでは?と思うような事をさも嬉しそうに話す。
「では、すぐに荷物をまとめてきます」
優しい笑みを浮かべてそう告げると、汐音はまるで風のように颯爽とかけ去って行く。長身の汐音が駆け上がって行く階段も、いつ踏み抜いてもおかしく無いほど赤茶色に錆びついていた和真はただ茫然と見送る。
今、和真達はしばらくの間家に住み込みでハウスキーパーをしてくれることになった汐音の荷物を取りにきていた。もちろん提案をしたのは和真だ。せっかく父の秘書である宮田の車があるのだから、バイクでは限界がある荷物を自宅に戻るついでに寄ってもらったのだ。
「和真様、三峰さんはここにお一人で住まわれているのですね」
運転席から降りて来た宮田が和真に話しかけてきた。
「え? あいつ、一人暮らしなんですか?」
「……ご存知なかったのですね。ハウスキーパーの件で親御様とお話をさせていただいたのですが、ご両親は今海外にいらっしゃるそうです」
「海外……」
(おれと同じ学校に来なければ、こんなところに住むこともなかったんだな……)
胸の奥に大きな石でもあるかのような苦しさを感じる。
(おれは汐音の事を何も知らない)
これまで私生活に踏み込まれたく無くて、人との関わりを極力避けて来た。今まではそれで良かった。
だが、汐音の知らない面を自分以外の者が知っている事が何故か嫌だと思ってしまう。
(汐音の事をもっと知りたい……)
人を好きになるのはやっかいだな、と慣れない感覚を持て余す。
「彼のバイクの運転が上手なのは、通学で利用されているからなのですね」
宮田は感嘆した口調で話し続けている。
「いえ、あいつはバイクの免許をここ数日で取ったばかりです」
「本当ですか⁈ その割には上手いですね。この辺りは辺鄙な地域のようなので、最寄りの駅までバスですよね? でも、バスの本数も少なそうですね。毎日通学するだけでも大変だ」
宮田が感心している声を聞きながら和真は汐音の住むアパートを見つめ呟く。
「……おそらく、自転車だけで通学していると思います」
「え?! 自転車? 車でも距離がありましたよ?」
「……そうですね。正直おれも驚いてます」
「和真さん!」
ボストンバックを二つ肩に掛け、汐音が駆け戻ってきた。
「お待たせしました」
汐音は宮田の前に立つと、頭を深く下げた。
「それだけでいいのですか?」
「はい」
「では、トランクを開けますので入れてください」
「はい。ありがとうございます」
宮田が車の背後へ回る。汐音が和真へ顔を向けた。視線が合う。
「!」
今までに見たことが無いほどニッコリと微笑まれ、なぜが笑顔を向けられた和真が赤面してしまう。すぐに汐音から顔を背ける。
「和真さん?」
「早く荷物を入れてこい」
「あ、はい!」
和真は窓を閉めると、座席に倒れ込む。
(しばらくとはいえ、今日からあいつと一緒に住むんだな……)
なんとも言えない気持ちが体中を駆けまわった。
目の前には、今にも潰れそうな木造二階建てのアパートが建っていた。
「え? ここって、住めんの……?」
思わず失礼な言葉が口からこぼれ出た。それほどにボロボロだったのだ。
だが、ここの住人である三峰汐音は全く気にしていないようだった。それどころか、嬉しそうにニコニコと笑みまで浮かべている。
「はい。充分に住めていますよ。予算よりかなり節約できているのでとても助かっています。それに、大家さんが親切な方で、雨漏りが無い部屋に移らせてくれました」
それは当たり前なのでは?と思うような事をさも嬉しそうに話す。
「では、すぐに荷物をまとめてきます」
優しい笑みを浮かべてそう告げると、汐音はまるで風のように颯爽とかけ去って行く。長身の汐音が駆け上がって行く階段も、いつ踏み抜いてもおかしく無いほど赤茶色に錆びついていた和真はただ茫然と見送る。
今、和真達はしばらくの間家に住み込みでハウスキーパーをしてくれることになった汐音の荷物を取りにきていた。もちろん提案をしたのは和真だ。せっかく父の秘書である宮田の車があるのだから、バイクでは限界がある荷物を自宅に戻るついでに寄ってもらったのだ。
「和真様、三峰さんはここにお一人で住まわれているのですね」
運転席から降りて来た宮田が和真に話しかけてきた。
「え? あいつ、一人暮らしなんですか?」
「……ご存知なかったのですね。ハウスキーパーの件で親御様とお話をさせていただいたのですが、ご両親は今海外にいらっしゃるそうです」
「海外……」
(おれと同じ学校に来なければ、こんなところに住むこともなかったんだな……)
胸の奥に大きな石でもあるかのような苦しさを感じる。
(おれは汐音の事を何も知らない)
これまで私生活に踏み込まれたく無くて、人との関わりを極力避けて来た。今まではそれで良かった。
だが、汐音の知らない面を自分以外の者が知っている事が何故か嫌だと思ってしまう。
(汐音の事をもっと知りたい……)
人を好きになるのはやっかいだな、と慣れない感覚を持て余す。
「彼のバイクの運転が上手なのは、通学で利用されているからなのですね」
宮田は感嘆した口調で話し続けている。
「いえ、あいつはバイクの免許をここ数日で取ったばかりです」
「本当ですか⁈ その割には上手いですね。この辺りは辺鄙な地域のようなので、最寄りの駅までバスですよね? でも、バスの本数も少なそうですね。毎日通学するだけでも大変だ」
宮田が感心している声を聞きながら和真は汐音の住むアパートを見つめ呟く。
「……おそらく、自転車だけで通学していると思います」
「え?! 自転車? 車でも距離がありましたよ?」
「……そうですね。正直おれも驚いてます」
「和真さん!」
ボストンバックを二つ肩に掛け、汐音が駆け戻ってきた。
「お待たせしました」
汐音は宮田の前に立つと、頭を深く下げた。
「それだけでいいのですか?」
「はい」
「では、トランクを開けますので入れてください」
「はい。ありがとうございます」
宮田が車の背後へ回る。汐音が和真へ顔を向けた。視線が合う。
「!」
今までに見たことが無いほどニッコリと微笑まれ、なぜが笑顔を向けられた和真が赤面してしまう。すぐに汐音から顔を背ける。
「和真さん?」
「早く荷物を入れてこい」
「あ、はい!」
和真は窓を閉めると、座席に倒れ込む。
(しばらくとはいえ、今日からあいつと一緒に住むんだな……)
なんとも言えない気持ちが体中を駆けまわった。
10
お気に入りに追加
49
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
うまく笑えない君へと捧ぐ
西友
BL
本編+おまけ話、完結です。
ありがとうございました!
中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。
一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。
──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。
もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる