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37.毒蛇。
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楽しいはずの林間学校が突如として混乱を極める中、福井奏は急いで半身を起こし、自分の上に重なるように倒れている相澤和真の体を抱き寄せた。
「和真!」
和真は苦痛に顔を歪ませながら自分の足元へ視線を向ける。
「ひっ……」
和真の喉の奥から引きつった悲鳴が漏れた。直ぐにその視線の先を追い、奏は目を大きく見開く。
ちょうど和真の靴下と裾を捲り上げていた体操服のズボンとの間に茶色の迷彩模様の蛇が巻き付いていた。
さらに、大きな口を開け、噛みついてるのだ。その姿に奏は思わず息を飲む。
「相澤! 福井! そのまま、動くな! そいつは、恐らくマムシだ! じっとしていろ! 今、救急車を呼んでいる!」
突如、担任の下村の大声が辺りに響き渡った。声の方へ顔を向ければ、下村がステンレス製のトングを掴み、恐々近づいてくる。他の生徒や講師達は離れた場所へ逃れ、全員怯えた顔でこちらを見ていた。
再び、目を蛇へ戻す。
(これが、マムシ……?! 確か、毒蛇──)
背に冷たい汗が流れていく。
「ううっ……」
呆然となる奏は、近くから聞こえたうめき声にはっと我に返った。自分の胸元にしがみ付いている和真の顔は脂汗が滲み、血の気が無く青白くなってきていた。
(毒が回ってきているのか?! もともと和真は体調を崩しているというのに!)
奏は和真の小刻みに震える体を抱きしめ、焦燥感に苛まれる。
(和真は俺を庇って毒蛇に噛まれたんだ。俺が何とかしないと……。でも、毒蛇に噛まれた時って、どうすればいいんだ?)
和真の呼吸は徐々に荒くなってきていた。
「和真! 和真!」
感情を制御出来ず、取り乱しながら和真の名前を何度も叫ぶ。
ふいに奏の視界が陰った。反射的に顔を上げ、瞠目する。いつのまにか、目の前に真っ黒なフルフェイスのヘルメットを被った長身の男が立っていた。その男は唖然と見上げる奏には目もくれず、素早い動きで蛇の頭を鷲掴みにすると、なんの躊躇いもなく、近くにあった鉄の棒で蛇の頭を地面に串刺しにしたのだ。
途端、周りから悲鳴が上がる。
だが、男は周りの騒ぎなど気にするそぶりも見せない。やおら奏達の傍らに膝を付くと、ヘルメットのシールドを無造作に上げた。見覚えのある薄茶色の冷たい目が奏を見据える。
「?! お、おまえは……!」
驚くことに、目の前にいるのはこの場にいることがありえない男だった。最近、和真にまとわりついている目障りな一年、三峰汐音だったのだ。奏の声をかき消すように救急車のサイレンの音が近づいて来る。
「その手を離してください」
言葉は丁寧だが、有無を言わせない響きがあった。
「!」
あっと言う間だった。汐音は奏の腕の中からぐったりとした和真の体を奪うように抱き上げた。奏は突然消えた温もりを追うように手を伸ばす。
だが、汐音は容赦なく奏から和真を引き離し、すぐさま背を向け歩き出した。
『待て!』
引き留める言葉が喉の奥から溢れ出しそうになったが、ぐっと押し殺す。伸ばしていた手を強く握り締めると、口惜しさと虚しさを込めてそのまま地面に打ちつけた。
(くそっ……)
噛みしめた唇から血の味が広がる。
その場にいた者全員が固唾をのんで見守る中、汐音は和真を横抱きにして、けたたましいサイレンの音と共に姿を現した救急車の方へと近づいて行く。その背中を奏は何も出来なかった事を悔やみながら無言で見つめ続けていた。
「和真!」
和真は苦痛に顔を歪ませながら自分の足元へ視線を向ける。
「ひっ……」
和真の喉の奥から引きつった悲鳴が漏れた。直ぐにその視線の先を追い、奏は目を大きく見開く。
ちょうど和真の靴下と裾を捲り上げていた体操服のズボンとの間に茶色の迷彩模様の蛇が巻き付いていた。
さらに、大きな口を開け、噛みついてるのだ。その姿に奏は思わず息を飲む。
「相澤! 福井! そのまま、動くな! そいつは、恐らくマムシだ! じっとしていろ! 今、救急車を呼んでいる!」
突如、担任の下村の大声が辺りに響き渡った。声の方へ顔を向ければ、下村がステンレス製のトングを掴み、恐々近づいてくる。他の生徒や講師達は離れた場所へ逃れ、全員怯えた顔でこちらを見ていた。
再び、目を蛇へ戻す。
(これが、マムシ……?! 確か、毒蛇──)
背に冷たい汗が流れていく。
「ううっ……」
呆然となる奏は、近くから聞こえたうめき声にはっと我に返った。自分の胸元にしがみ付いている和真の顔は脂汗が滲み、血の気が無く青白くなってきていた。
(毒が回ってきているのか?! もともと和真は体調を崩しているというのに!)
奏は和真の小刻みに震える体を抱きしめ、焦燥感に苛まれる。
(和真は俺を庇って毒蛇に噛まれたんだ。俺が何とかしないと……。でも、毒蛇に噛まれた時って、どうすればいいんだ?)
和真の呼吸は徐々に荒くなってきていた。
「和真! 和真!」
感情を制御出来ず、取り乱しながら和真の名前を何度も叫ぶ。
ふいに奏の視界が陰った。反射的に顔を上げ、瞠目する。いつのまにか、目の前に真っ黒なフルフェイスのヘルメットを被った長身の男が立っていた。その男は唖然と見上げる奏には目もくれず、素早い動きで蛇の頭を鷲掴みにすると、なんの躊躇いもなく、近くにあった鉄の棒で蛇の頭を地面に串刺しにしたのだ。
途端、周りから悲鳴が上がる。
だが、男は周りの騒ぎなど気にするそぶりも見せない。やおら奏達の傍らに膝を付くと、ヘルメットのシールドを無造作に上げた。見覚えのある薄茶色の冷たい目が奏を見据える。
「?! お、おまえは……!」
驚くことに、目の前にいるのはこの場にいることがありえない男だった。最近、和真にまとわりついている目障りな一年、三峰汐音だったのだ。奏の声をかき消すように救急車のサイレンの音が近づいて来る。
「その手を離してください」
言葉は丁寧だが、有無を言わせない響きがあった。
「!」
あっと言う間だった。汐音は奏の腕の中からぐったりとした和真の体を奪うように抱き上げた。奏は突然消えた温もりを追うように手を伸ばす。
だが、汐音は容赦なく奏から和真を引き離し、すぐさま背を向け歩き出した。
『待て!』
引き留める言葉が喉の奥から溢れ出しそうになったが、ぐっと押し殺す。伸ばしていた手を強く握り締めると、口惜しさと虚しさを込めてそのまま地面に打ちつけた。
(くそっ……)
噛みしめた唇から血の味が広がる。
その場にいた者全員が固唾をのんで見守る中、汐音は和真を横抱きにして、けたたましいサイレンの音と共に姿を現した救急車の方へと近づいて行く。その背中を奏は何も出来なかった事を悔やみながら無言で見つめ続けていた。
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