生まれる前から好きでした。

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36.異変。

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 同じ班の中田翔と共に、相澤和真は部屋へと戻った。 

「ありがとう」

 付き添ってくれた中田にお礼を言いながら、自分に割り当てられたベッドに腰をおろす。

「本当に、大丈夫なのか?」
「ああ」
「……福井と話は出来た?」

 明らかに和真と奏の事を心配してくれている中田の優しさに胸がつまる。俯き、頭を小さく縦に振る。

「でも、……もっとどうしていいか分からなくなってる」
「え? そ、そうなのか? ……まあ、あまり深く悩むなよ。人間関係で悩んだ事ない奴なんて絶対いないんじゃない? 皆、何かしら相澤と同じように悩んでいるからさ」

「皆……」
「そうそう、皆。俺もそう」

 中田が優しく笑う。

「……今回の事で、一つ良い事があった」

 和真は中田の目を真っ直ぐに見つめる。

「中田が凄く良い男だって知る事が出来た。今まで話す機会を作ろうとしなかったおれはとても勿体無い事をしていたようだ」

 そう言って微笑めば、中田が目を大きく見開く。

「……俺も、勿体無い事をしていたみたいだ。福井が相澤に構う理由が分かったよ」
「え?」

 意味が分からずに首をかしげれば、中田が楽しそうに笑い声をあげた。

「相澤もいい奴だって事。とりあえず、横になれよ。先生には俺から言っとくからさ」
「ありがとう」

 部屋を出て行く中田の背が扉の向こうへ消えると、和真は右腕を額に置き、そのまま目を閉じた。

『和真……、俺は和真の事が好きだ。キスをしてしまうほどに、大好きなんだ!』

 奏の熱のこもった声が耳に残っている。
 今一人になって冷静に考えてみれば、以前から奏は和真の事を好きだと言ってくれていた。それを勝手にたわむれだと受け流していたのは和真の方だ。

(おれは奏の想いに対して何と酷い事をしてきたんだ……)

 だからといって、奏の『好き』に応えることは出来ない。
 それに、強引にキスされた事は今もショックなままだ。

(おれが好きなのは……)

 脳裏に浮かんできた顔は、出会ってから一途に慕ってくる後輩のものだ。和真はベッドから抜け出した。

(奏にはちゃんとおれの気持ちを伝えないと)

 野外の炊事場では班ごとに分かれて賑やかに夕食のカレーを作ってい最中だった。奏の姿を探せば、軍手で薪を掴み、飯盒はんごうでご飯を炊いている。そんな奏へ別の班の女達が駆け寄って行く。どうやら上手く火が起こせないので、奏に助けを求めているようだ。

(やっぱり奏はどこでも頼られているな)

 いつもどおりの奏の姿にどこかほっとしながら、近づいていく。
 と、その時、奏の足の近くの草が不自然に揺れた。草の隙間から見えたものは。

「! 奏!!」

 勝手に体が動いていた。和真に突き飛ばされた奏が尻餅をつく。

っ、……和真?!」

 突然突き飛ばされた奏は地面に仰向けに転がり、ハトが豆鉄砲でもくらったかのような顔をしている。周りも何が起きたのか理解出来ずに地面に重なり合うように倒れている奏と和真へ視線を向ける。
 だが、近くにいた女生徒が一早く異変に気付いた。彼女の布を引き裂くような悲鳴が辺りに響き渡る。

「蛇! 相澤君の足に蛇が!!」

 彼女の震える指先が差す先、和真の足に茶色い迷彩模様の蛇が嚙みついている。辺りは一瞬にしてパニックにおちいった。

「和真!」

 血相を変えた奏が和真の名を叫んでいる。一方、和真は刻々と強くなる足の痛みに奏の声に応じる事ができなくなっていた。
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