生まれる前から好きでした。

文字の大きさ
上 下
35 / 45

35.怖かった。

しおりを挟む
 相澤和真は逃げるように走った。
 自分がどこを走っているのかなんて考える余裕はなかった。息が苦しくなり、近くの壁に手を付きそのまま壁に背を預けるとズルズルとしゃがみ込む。

(奏が、おれを好き……?)

 今の和真にはその好きが友人としての好きではない事ぐらい分かる。
 ふと視線を向けた手が小刻みに震えていた。その手を強く握りしめ、体を丸める。

「怖かった……」

 吐き出すように呟く声も震えていた。和真は両腕で自分の体を抱きしめる。

(体格に差があるのはわかっていた)

 だが、奏の体を押し退ける事がまったく出来なかったのだ。今まで手加減されていたのだと嫌でも気付かされる。それほどの圧倒的な力の差だった。

「和真!」

 背後から奏が自分を呼ぶ声が聞こえた途端、無意識に体がビクッと反応する。足音が和真の真後ろで止まった。和真は思わずぎゅっと目を閉じる。

「……和真」

 奏の手が和真の背に触れた。

「触るな!」

 悲鳴のような声が喉から迸った。

「!」

 奏が動きを止めた。見なくても困惑している事が伝わってくる。和真はさらに自分を抱きしめる腕に力を入れた。和真は酷く混乱していたのだ。

「和真……、俺は和真の事が好きだ。キスをしてしまうほどに、大好きなんだ!」

 奏らしい熱の籠った声だ。
 だが、今はその熱が和真を苦しめる。友人として誰よりも信頼していた。なのに、その気持ちを踏みにじるように、欲望を一方的にぶつけられたのだ。

「……やめてくれ。今は、もう何も言わないでくれ。頼む。奏のことを嫌いになりたくないんだ」
「和真……」

 奏は何か言いかけて、黙り込んだ。
 だが、和真からなかなか離れようとしない。
 と、その時、バタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。

「あ! 居た!」
「おまえらこんなところで何してんだよ! 他の班はもう集まってんだぞ!」

 田崎と中田の声だ。息が詰まるような空間に風が通った気がした。

「相澤? どうしんだ?」

 中田が蹲る和真の前に回り込み、両肩に手を置いて顔を覗き組んできた。和真はゆっくりと顔を上げた。

「おい! 大丈夫か? 顔が真っ青だぞ!」
「え? マジで?!」

 中田が驚いた声を上げれば、田崎も慌てだした。

「和真?! 体調が悪かったのか?!」

 奏の酷くおろおろとした声も聞こえてくる。和真は縋る思いで中田の服の裾を掴んだ。

「……部屋に戻りたい」
「部屋? 保健医のところに行かなくていいのか?」

 和真は小さく首を振った。

「部屋で少し休めば大丈夫だから……」
「分かった。俺が相澤を部屋まで送っていくから、福井達は先に行っててよ」
「了解! 福井! 俺達は先に行っとこうぜ!」
「………………分かった」

 奏はしばらく逡巡した後、まるで自分に言い聞かせるように返事をした。奏達が走り去った後、和真は中田の手を借りて立ち上がり、部屋へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

うまく笑えない君へと捧ぐ

西友
BL
 本編+おまけ話、完結です。  ありがとうございました!  中学二年の夏、彰太(しょうた)は恋愛を諦めた。でも、一人でも恋は出来るから。そんな想いを秘めたまま、彰太は一翔(かずと)に片想いをする。やがて、ハグから始まった二人の恋愛は、三年で幕を閉じることになる。  一翔の左手の薬指には、微かに光る指輪がある。綺麗な奥さんと、一歳になる娘がいるという一翔。あの三年間は、幻だった。一翔はそんな風に思っているかもしれない。  ──でも。おれにとっては、確かに現実だったよ。  もう二度と交差することのない想いを秘め、彰太は遠い場所で笑う一翔に背を向けた。

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...