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34.友達以上。
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福井奏は走り去る相澤和真の後ろ姿を呆然と見送る。
『……誰が、誰の事を好きになっても気持ち悪いなんて思わない!』
和真の放った言葉が奏の頭の中をぐるぐると回っている。
(それって、俺が和真の事を好きになっても良いってことだよ……な?)
真っ赤な顔で怒っていた和真の姿を思い出し、奏は口元を右手で押さえる。どうしても自分に都合良く捉えてしまう。
(くうっ! 怒っている顔も可愛いんだよ! あいつは!)
もう奏にとって和真の事は、友達としての好きを超えてしまっている。正直、独占したくて仕方がないほどだ。
本当の自分の気持ちに気づいたのは、バスの中でだ。夢だと思っていたら夢ではなく、実際に和真の口元にキスしてしまっていた。押さえられない想いに、このままではヤバいと思った。その為に、必死で距離を取っていたのだ。なのに、和真に詰め寄られ、感情のまま唇を奪ってしまった。
ふと指先で自分の唇に触れる。和真の柔らかな唇の感触がまざまざと蘇ってきた。
(あいつの唇が甘く感じた……)
身体の奥から熱が溢れ出てくる。気持ちを落ち着かせるため、ゆっくりと息を吐く。
(……ファーストキスだったんだな。俺は嬉しいけど、和真はすげぇ怒ってたから、ちゃんと謝らないと……)
頬が勝手に緩むのを自覚しながら、もうすでに姿のない和真の後を奏は急いで追った。出会った頃の事を思い浮かべながら。
************
私立高校白羽学園高校1年A組の教室で、まだどこか中学生気分が抜けきらないクラスメイト達と会話を楽しみながら、福井奏は窓辺の席で一人静かに本を読む相澤和真の姿を、時折目で追っていた。入学した日に初めて和真の姿を目にした瞬間からなぜか目が引き寄せられるのだ。
和真は整った顔立ちをしているが、女っぽいわけではない。誰ともつるむことも無く、かといって暗いわけでもない。毅然とした姿で、いつも一人でいる和真の存在がずっと気になっていた。奏から話しかければ応じてはくれるが、和真から話かけてくる事はない。
そんなある日、奏は部活のサッカーで2年生をさしおいて、1年でたった一人レギュラーに選ばれた。
正直、嬉しかった。
だが、風当たりはいちだんとキツくなった。
「ボールの片付けは1年がやっておけよ」
レギュラーだけの居残り練習の後のグラウンドには、あちこちボールが飛び散って転がっている。
だが、レギュラーの1年は奏だけだ。立っているのもやっとの体で、たった一人だけでグラウンドを駆け回って集めなければならない。
「くそっ! あと一個はどこだよ……」
疲労しきっている身にはかなりキツかった。さすがに心が折れそうになる。ボールカゴを掴んだまま思わず膝から崩れ落ちた。
ザッザッザッザッ
背後から聞こえてきた砂を蹴る音に振り向けば、制服姿の男がこちらに向かって駆け寄って来る。
「これ、サッカー部のボールじゃないのか?」
驚くことに、その男は和真だった。乱れた呼吸を整えながら脇に抱えていたボールを奏の前に突き出す。
「え……」
予想外の事に、疲弊した脳が直ぐに反応しない。
「違ったのか……」
何も答えない事を勘違いしたのか、あまり感情を顔に出さない和真が困惑した表情を浮かべた。
「……あ、いや、それ、俺の部の」
慌てたせいで、とんでもなく間の抜けた片言の日本語になってしまった。
「そうか、良かった」
だが、和真は嘲笑するわけでもなく、明らかにほっとした表情を浮かべながらボールをボールカゴヘ放り込んだ。
「あ、ありがとう! 相澤!」
慌てって礼を言う。もちろん、しっかりと和真の名前も忘れず告げれば、僅かに驚いた顔をした後、和真が微笑んだ。
「はは、どういたしまして。……福井、最近、何か悩んでないか?」
「え……?」
今度は、奏が驚く番だった。和真が奏の名前を憶えていた。さらに、僅かに言いよどんだ後、奏を気遣う言葉を口にしたのだ。人に弱味を見せたくない奏は、教室ではいつもどうりにふるまうように気を付けていた。なのにだ。和真はクラスの連中には興味がないと思っていたから喜びは一入だった。
「あ、いや、大丈夫」
「そうか。もし、何かおれにも出来ることがあるなら言ってくれ」
そう言って見た事の無い少しはにかんだ笑顔を見せた。
奏の心臓がドクッと大きく跳ねる。
この瞬間から奏の心は和真に囚われてしまったのだ。
次の日の朝、早速、奏は和真の姿を探した。見つけると駆け寄る。
「昨日は、サンキューな! 本当に、助かったよ」
「……そうか、それは良かった」
突然、傍らに立たれ、和真は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。
「!」
奏は思わず和真に覆い被さるように抱きつく。
「相澤はいい奴だな!」
まるで動物がじゃれあうように、奏は和真の頭に頬を摺り寄せる。
「ばっ、馬鹿! 福井、放せ!」
「奏。これからは、奏って呼んでくれよ。俺は、相澤のことを和真って呼ぶからな!」
奏は腕の中で暴れる和真の体をより一層強く抱き締めたのだった。
『……誰が、誰の事を好きになっても気持ち悪いなんて思わない!』
和真の放った言葉が奏の頭の中をぐるぐると回っている。
(それって、俺が和真の事を好きになっても良いってことだよ……な?)
真っ赤な顔で怒っていた和真の姿を思い出し、奏は口元を右手で押さえる。どうしても自分に都合良く捉えてしまう。
(くうっ! 怒っている顔も可愛いんだよ! あいつは!)
もう奏にとって和真の事は、友達としての好きを超えてしまっている。正直、独占したくて仕方がないほどだ。
本当の自分の気持ちに気づいたのは、バスの中でだ。夢だと思っていたら夢ではなく、実際に和真の口元にキスしてしまっていた。押さえられない想いに、このままではヤバいと思った。その為に、必死で距離を取っていたのだ。なのに、和真に詰め寄られ、感情のまま唇を奪ってしまった。
ふと指先で自分の唇に触れる。和真の柔らかな唇の感触がまざまざと蘇ってきた。
(あいつの唇が甘く感じた……)
身体の奥から熱が溢れ出てくる。気持ちを落ち着かせるため、ゆっくりと息を吐く。
(……ファーストキスだったんだな。俺は嬉しいけど、和真はすげぇ怒ってたから、ちゃんと謝らないと……)
頬が勝手に緩むのを自覚しながら、もうすでに姿のない和真の後を奏は急いで追った。出会った頃の事を思い浮かべながら。
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私立高校白羽学園高校1年A組の教室で、まだどこか中学生気分が抜けきらないクラスメイト達と会話を楽しみながら、福井奏は窓辺の席で一人静かに本を読む相澤和真の姿を、時折目で追っていた。入学した日に初めて和真の姿を目にした瞬間からなぜか目が引き寄せられるのだ。
和真は整った顔立ちをしているが、女っぽいわけではない。誰ともつるむことも無く、かといって暗いわけでもない。毅然とした姿で、いつも一人でいる和真の存在がずっと気になっていた。奏から話しかければ応じてはくれるが、和真から話かけてくる事はない。
そんなある日、奏は部活のサッカーで2年生をさしおいて、1年でたった一人レギュラーに選ばれた。
正直、嬉しかった。
だが、風当たりはいちだんとキツくなった。
「ボールの片付けは1年がやっておけよ」
レギュラーだけの居残り練習の後のグラウンドには、あちこちボールが飛び散って転がっている。
だが、レギュラーの1年は奏だけだ。立っているのもやっとの体で、たった一人だけでグラウンドを駆け回って集めなければならない。
「くそっ! あと一個はどこだよ……」
疲労しきっている身にはかなりキツかった。さすがに心が折れそうになる。ボールカゴを掴んだまま思わず膝から崩れ落ちた。
ザッザッザッザッ
背後から聞こえてきた砂を蹴る音に振り向けば、制服姿の男がこちらに向かって駆け寄って来る。
「これ、サッカー部のボールじゃないのか?」
驚くことに、その男は和真だった。乱れた呼吸を整えながら脇に抱えていたボールを奏の前に突き出す。
「え……」
予想外の事に、疲弊した脳が直ぐに反応しない。
「違ったのか……」
何も答えない事を勘違いしたのか、あまり感情を顔に出さない和真が困惑した表情を浮かべた。
「……あ、いや、それ、俺の部の」
慌てたせいで、とんでもなく間の抜けた片言の日本語になってしまった。
「そうか、良かった」
だが、和真は嘲笑するわけでもなく、明らかにほっとした表情を浮かべながらボールをボールカゴヘ放り込んだ。
「あ、ありがとう! 相澤!」
慌てって礼を言う。もちろん、しっかりと和真の名前も忘れず告げれば、僅かに驚いた顔をした後、和真が微笑んだ。
「はは、どういたしまして。……福井、最近、何か悩んでないか?」
「え……?」
今度は、奏が驚く番だった。和真が奏の名前を憶えていた。さらに、僅かに言いよどんだ後、奏を気遣う言葉を口にしたのだ。人に弱味を見せたくない奏は、教室ではいつもどうりにふるまうように気を付けていた。なのにだ。和真はクラスの連中には興味がないと思っていたから喜びは一入だった。
「あ、いや、大丈夫」
「そうか。もし、何かおれにも出来ることがあるなら言ってくれ」
そう言って見た事の無い少しはにかんだ笑顔を見せた。
奏の心臓がドクッと大きく跳ねる。
この瞬間から奏の心は和真に囚われてしまったのだ。
次の日の朝、早速、奏は和真の姿を探した。見つけると駆け寄る。
「昨日は、サンキューな! 本当に、助かったよ」
「……そうか、それは良かった」
突然、傍らに立たれ、和真は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。
「!」
奏は思わず和真に覆い被さるように抱きつく。
「相澤はいい奴だな!」
まるで動物がじゃれあうように、奏は和真の頭に頬を摺り寄せる。
「ばっ、馬鹿! 福井、放せ!」
「奏。これからは、奏って呼んでくれよ。俺は、相澤のことを和真って呼ぶからな!」
奏は腕の中で暴れる和真の体をより一層強く抱き締めたのだった。
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