生まれる前から好きでした。

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31.逃げない。

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 相澤和真は今日何度目かのため息をついた。
 もう明日には林間学校を去るというのに、福井奏との関係は良くなる事もなく、見えない壁を感じたままだ。
 誰かがいる場所なら、分け隔てなく普通に話をしてくれる。
 だが、明らかに和真と二人きりにならないようにしているのが分かるとやはり胸が痛んだ。
 今はオリエンテーリング中で地図を見ながら田崎と行く方向を確認する奏の後ろ姿を、少し離れた場所から見つめていた。

「なあ、福井と何かあった?」

 ふいに肩を軽く叩かれて振り返ると、同じ班の中田が少し戸惑い気味に話しかけて来た。
 何があったのか聞きたいのは和真の方だ。話せることなど何一つない。

「……どうしてそんな事を聞くんだ?」

 思わず中田から目を逸らせる。

「いや、だって、おまえらいつも戯れあってたじゃないか。あれだけ仲が良かったのに、林間学校に来てから、全然じゃん?」

 心配なんだよと言われ、不意に見せられた中田の優しさに心が揺れた。心の中では、かなり不安になっていたようだ。

「……どうもおれは奏を怒らせたみたいなんだ。でも、何をやらかしたのか分からなくて……。中田こそ、奏がおれの事を何か言っているのを聞いていないか?」

 これまで人には弱みを見せないようにしていた和真だったが、思わず弱音が唇から溢れた。

「え? あいつが怒ってんの?? それも、相澤に? いやいや、絶対違うって!」

 中田は驚く事に、奏が和真に対して怒っている事を全否定だ。

「だってあいつは相澤の事をめっちゃ目で追ってるよ」
「え? 目で追う……?」
「そうだよ! あれは怒っている顔じゃないって。どちらかというと、寂しそうに見えたかな? 落ち込んでいるような顔の時もあるな。ぼんやりと見てる時もあるし。だから、俺は怒っているのは相澤だと思ってたんだ。てっきり福井が仲直りしたいんだと思ってた」

(どういうことだ? 奏が怒ってない? じゃあ、何故……)

 和真は困惑する。

「中田、気にかけてくれてありがとう。何かお互い勘違いしているみたいだ。直接あいつに聞く事にするよ」
「ああ、それがいいと思う。福井ってさ、何でもそつなくこなしちゃうだろ? だからどうしてもまわりから頼られて、無理をしている時もあると思うんだ。だって、相澤といる時は、本当に心から楽しそうな顔をしている。きっと相澤といる時は本当の自分を出せているんだと思うんだ。だから、今の福井は見ていられないんだよ。何とかしてやって」
「おれの前だけ? あのやんちゃな姿が?」
「うん。そうだよ」

 知らなかった?と、中田は屈託なく笑った。

(次は腕を振り払われても、あいつが何を考えているか絶対に吐かせてやる!)

 今度は絶対に奏から逃げないと和真は心に誓うのだった。
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